「メインメモリの研究」はじめました
穐山空道(立命館大学情報理工学部)
本論文は,コンピュータのメインメモリに使われる記憶素子であるDRAM (Dynamic Random Access Memory) を高速化・高効率化する研究群のうち,特に「設計余裕」と呼ばれる電気的な余裕を活用する研究に着目しサーベイしたものである.詳しくは論文を参照いただきたいが,DRAMからデータを取り出す際のレイテンシはデバイスの仕様レベルでは長きにわたり短縮しておらず,CPUとの性能ギャップが年々増大している.これを「仕様をどんな状況でも必ず満たすために実デバイスに設けられた設計上の余裕」を活用することで改善しようというのが本論文でサーベイされている研究群の共通のアイディアである.図-1に本論文でサーベイしている研究群を示す.
私がメインメモリの研究に取り組むようになったのは,2015年の冬に産業技術総合研究所の人工知能研究センターで研究をはじめたころである.それ以前の学生時代には私はクラウド環境において仮想マシンを物理マシン間で高速に移動する技術を研究していた.当時できたばかりだった「人工知能研究センター」にせっかく入ったのだから,学生時代にやっていたようなシステムソフトウェア分野と研究所の対象領域である人工知能分野を繋ぐような研究をしたいと思い,研究テーマを日々考えていた.さまざまな方向からサーベイを進めるうち,人工知能(に限らず大規模なデータを伴う計算)の性能向上にはメインメモリの性能向上が欠かせないことを知り,それ以来メインメモリの周辺を研究することになった.はじめたころにはDRAMの構造などもまったく知らず,いろいろな論文の背景知識の部分を読んではだんだんと理解を深める毎日であった.しかしコツコツと続けるうちに知識が蓄積され,その後DRAMの研究で世界的に有名なETH Zurichに在外研究に行かせていただくことができたり,今回のサーベイ論文で論文賞をいただいたりという結果に結びつけることができた.また現在はこれらの知識を活かしてDRAMのセキュリティに関する研究にも取り組んでいる.
思い返すと学生のころからいままで一度も「こういう研究をしなさい」とか「そういう研究はやめなさい」と言われたことはなく,指導教員・所属機関・上長・共同研究者などすべての関係者の皆様に自由に研究することを許していただいたおかげでここまでやってくることができたと感じており,感謝の念でいっぱいである.
(2024年5月15日受付)
(2024年7月16日note公開)