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XR向けWindow System ZIGEN

木内 陽大(きうち あきひろ)
江口 大志(えぐち たいし)

 木内君と江口君は,XR(クロスリアリティ,VR,AR,MRといった技術の総称)用のWindow System「ZIGEN」を設計・開発した.ZIGENによって1つの3D空間内に複数の3Dアプリケーションや既存の2Dアプリケーションを描画したり,フォーカスを変えて入力したりできる.またドラッグ&ドロップによるデータ共有の仕組みを提供することで,アプリケーション同士の連携を可能にした(図-1).これにより,たとえば部屋と外の背景を別々のアプリケーションとして起動できるようにしたり,ブラウザからWeb 上の3D モデルのファイルをドラッグ&ドロップで3D 空間に配置したりといったことができる.ZIGENは,各アプリケーションが特定の機能だけを高いクオリティで提供し,マルチタスク環境を作り出す,新たなバーチャル世界を提供する.

図-1 ZIGENを利用して複数の3D,2Dアプリを同一空間で扱う様子

 木内君と江口君は,複数3D アプリを1つの3D空間で扱えるウィンドウシステムを開発しきり,それを世界に向けて初めて提供する.現在のXRでは,1つの3Dアプリが視覚と聴覚を占有してしまう.加えて,(Oculus社やそれを買収したMeta 社など)各社がメタバース構築という形でプラットフォームを握ろうとしており,A社のXRプラットフォームで他社2Dアプリの表示くらいはできても,他社3Dアプリの動作にはまったく興味がないように見える.このままでは,我々が没入するXR空間はプロプライエタリなプラットフォームに支配されることだろう.それに対して,2人が開発したウィンドウシステムZIGENの上では,開発元の異なる複数の3D/2Dアプリが1つの3D空間で共存できる.利用者が自由にさまざまな3D/2Dアプリを動作させることができる.これがXR空間のあるべき姿である.ZIGENを使うとアプリを開くだけでなく,VR空間にいたままVR空間を編集するということもできてしまう.紙面ですべてを伝えるには限りがあるので,ぜひ成果報告会の動画を見てほしい(https://youtu.be/g_MvbwKp8Uk).

 採択当初には,構想は素晴らしいが,非常に高度かつ野心的であり,かなり大量の開発が予想された.当初,竹内統括PM は「期間内には開発しきれないような気がする」と不安を表明したそうである.しかし2人はやりきった.ほとんどの部分は2人で共同して開発し,一部,入力まわりは江口君,OpenGL関連は木内君が開発した.

 2人は未踏期間終了後も「ZIGEN」の社会実装を目指して,OSSとしての活動や,論文投稿などを行っている.実験的にOculus Quest 2での利用もできており,統合2D/3Dデスクトップ環境の整備やゲームエンジンでのアプリ開発を可能にするなど,皆さんにZIGENを試してもらえるように開発を進めていくつもりだそうだ.(首藤一幸PM担当)

[関連URL]
https://github.com/zigen-project

[統括PM追記] ZIGENのすごさは意外と分かってもらいにくいようである.彼らは当初X Windowsの3次元版だという言い方をしていた(今でも中年オジサンにはこの言い方が琴線に触れる).実際,最初のシステム名はX11にちなんでZ11だった(11はバージョン番号なので,なんだかなぁということになった).本文にもあるように,不覚にも竹内は2人でこんな大それたことはできないのではないか? と疑問を投げかけてしまった.その意味でもすごい.
 全世界に広がったX11の3次元XR版と言えるZIGENはその発想の素晴らしさから,大手ベンダがZIGENに製品を載せたいと言ってくる時代がきっと来ると思いたい.彼らはそれに向けてチームを補強し,2022年度の未踏アドバンストに採択された.すぐにビジネスになる性質のものではないが,国の事業として,日本発のデファクト標準を目指せる技術開発をサポートできることが喜ばしい.

(2022年6月30日受付)
(2022年8月15日note公開)