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着られる手書き文字入力デバイスwearbo

篠田 和宏(しのだ かずひろ)
佐野 由季(さの ゆき)
原田 珠華(はらだ たまか)
安齊 周(あんざい しゅう)

 スマートグラスを身に着けて外出するという近い将来,どこまでも手ぶらで行動したい.メッセージを送るために文字を入力したいけれど,音声入力のための声は出しにくいという状況も多いだろう.そこで4人は,衣服のように身につけられる手書き文字入力デバイスwearbo(ウェアボ)(図-1)を構想した.

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図-1 着られる手書き文字入力デバイスwearbo

 このデバイスにはプロトタイプがあった.3×3のマトリクス状に配置された電極で指のタッチを認識していた.しかしこのプロトタイプには,決められた領域にぴったり合わせて文字を描かなければならないという不便さや,電極を増やすと回路規模が増えていくという問題が残った.

 そこで今回彼らは,電極をストライプ状にし,それに合わせた文字認識ソフトウェアを開発した.ストライプ状電極から得られるタッチ情報は1次元になってしまうので,どうしても識別が難しい文字(nとuなど)は残る(図-2).そこで,文脈を考慮した推定も行う.

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図-2 1次元文字認識方式

 ハードウェア面では,まず,センサである電極を本物のジーンズに縫い込んだ(図-1).これで,使いものになるかどうか確認できるし,実際の利用シーンを人に見せられる.センサとはいえ洋服なので,洗濯できないといけない.そのため,M5StickCを使った回路部は磁石でくっつけたり切り離したりできるようになっている.使用時,回路部はジーンズのポケットに入れるので,着用時の見た目はただ模様の入ったジーンズであり,あくまで手ぶらである.

 プロジェクトの期間中,ハードウェアがまだない状況でもソフトウェアの開発は進めたい.そのためには,センサ部を模擬する何かが必要である.そこで,タブレット上で動作するシミュレータを開発して,それを使って手書き文字入力の1次元データを取得した.

 センサ部や文字認識については,ほかにも,成果物からは見えにくい取り組みがたくさんあった.センシングの方式として静電容量方式に加えて抵抗膜方式の試験,ストライプ状センサを傾けてみる実験,複数の文字認識方式の比較,などである.文脈からの文字推定のためには,文字入力ソフト,たとえばいわゆるIMEやエディタなどの側が推定を行う必要があるため,成果報告会に向けて文字入力ソフトの開発も行った.

 文字入力のデモは,成果報告会ではあまりスムースにいかなかった.しかしその2日前,内輪のデモではとてもうまくいっていた.まさにマーフィの法則─失敗する可能性のあるものは失敗する─というやつである.認識の安定性に課題はあるが,認識精度は手間と時間をかければまだまだ向上するのであるし,また,彼らでなくとも取り組めることでもある.

 ここまでですでに内容てんこ盛りゆえ,危うく書き忘れそうになったが,成果報告会で彼らはone more thingを出してきた.ハンカチ型インタフェースである(図-3).折り畳み方によって,5通りに機能する:タッチキーボード,手書き文字入力,数個のボタン入力,拳銃型,縦笛型.ある方は,(文字入力デバイスより)こっちのほうが全然いい!という感想を下さった.

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図-3 ハンカチ型インタフェース

 着用したり折り畳んだりできるような柔らかいインタフェースの可能性を,言うだけでなく,現実のものとしてさまざまな形で見せてくれた.4人ともスーパークリエータ認定された.篠田君は開発リーダを務めたほか,文字認識の手法に取り組んだ.佐野さんはハードウェア全般,原田さんは入力データ収集用シミュレータ,安齊君はタッチ認識手法の実験・検討やデモ用ソフトの開発に取り組んだ.one more thingのハンカチ型インタフェースは篠田君の作品である.(首藤一幸PM担当)

[関連URL] https://wearbo.com/

[統括PM追記] コロナ禍で,4人で1つのモノを作り上げるというのは,大変制約の強い作業だったと思う.それにしても,想定外のハンカチ型インタフェースには驚いた.風呂敷文化の日本人でなければ出てこない発想だ.

(2021年6月30日受付)
(2021年8月15日note公開)