国家公務員採用総合職試験における「デジタル区分」の新設について ─試験の概要と「デジタル区分」の試験問題例─
佐藤 壮(人事院人材局企画課制度班)
試験区分の新設・見直しの趣旨
2020年12月,政府は今後のデジタル社会への対応やその司令塔となるデジタル庁の設置を示した「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」☆1を閣議決定した.その中で,デジタル庁を含む政府部門においてデジタル政策の中心となるような人材を確保する観点から,人事院に対して国家公務員採用総合職試験(以下「総合職試験」)に新たな区分(デジタル)を設けることが要請された.これを受けて,2021年4月,情報系の専門的な素養を持つ有為の人材をこれまで以上に確保するため,2022年度より,総合職試験に「デジタル区分」を新設するとともに,国家公務員採用一般職試験(以下「一般職試験」)の「電気・電子・情報区分」について,試験内容の見直しを行った上で,区分の名称を「デジタル・電気・電子区分」とすることを人事院は発表した.「デジタル区分」からの採用者には,情報系の知識を持って,各府省の政策の企画および立案または調査および研究に従事することが期待される.
今回は,この場を借りて,総合職試験「デジタル区分」と一般職試験「デジタル・電気・電子区分」の概要と,「デジタル区分」についてはその試験問題例を紹介する.
なお,国家公務員採用試験のより詳細な情報については,人事院の国家公務員試験採用情報NAVI☆2を参照されたい.
総合職試験「デジタル区分」の概要
総合職試験(院卒者試験・大卒程度試験)は,政策の企画および立案または調査および研究に関する事務をその職務とする係員を採用するための試験である.2022年度の総合職試験では,その専門性に応じた表-1の区分の試験を実施する.
表-1 総合職試験(春試験)の試験の区分
表-1におけるいずれの区分においても,第1次試験では,すべての受験者が共通して解答する基礎能力試験(多肢選択式)と専攻分野に応じて必要な専門的知識が問われる専門試験(多肢選択式)が行われ,第2次試験では,専門試験(記述式)や人物試験等が行われる(表-2).
これらの試験に合格後,自身の志望する官庁を訪問し,各府省において採用されるかどうかが決定される.
表-2 総合職試験の試験種目
2022年度の総合職試験から,新たに設ける「デジタル区分」の専門試験(多肢選択式)および専門試験(記述式)では,情報系の試験種目の問題選択の柔軟性を高め,受験者の専門性に合わせて受験しやすくした.2021年度まで,情報工学(ハードウェア)および情報工学(ソフトウェア)の問題は「工学区分」において選択問題として出題されていたが,「デジタル区分」の新設に伴い,「工学区分」では出題されないこととなる.なお,「デジタル区分」での出題と一部重複する分野のある数理科学系の問題は,「数学・物理・地球科学区分」の専門試験においても引き続き出題される.
2022年度の総合職試験(春試験)のスケジュールについては図-1に示すとおりを予定している.
図-1 総合職試験(春試験)のスケジュール(2022年度)
総合職試験「デジタル区分」の試験問題の詳細
前述のとおり,総合職試験の専門試験には,多肢選択式と記述式があり,いずれも試験区分ごとに専門的知識,技術などを問うものである.このため,「デジタル区分」の新設にあたっては,情報系専攻の受験者の専門的知識,技術の学習達成度等を適切に測定できるように,大学のカリキュラム・シラバスの情報,有識者からの意見等を参考に出題科目の検討を行った.
情報分野は,技術革新の速い分野であり,大学および大学院においては,基礎から最先端まで幅広い分野の講義が行われている.このため,従来の「工学区分」や「数学・物理・地球科学区分」で出題している情報系の出題科目に限定するのではなく,出題内容や科目についても見直しを行った.
専門試験(多肢選択式)
多肢選択式試験は,幅広い専攻分野の受験者に対応し,また,デジタル技術の広い範囲から専門性に即した試験問題を選択できるよう,全問63題中から解答を要する問題を40題とし,このうち情報分野の基礎的な科目から受験者全員が解答を要する必須問題として20題を出題する.また,情報分野の中心的科目から選択必須問題として17題を出題し,この中から10題以上を選択して解答することとした.さらに,周辺領域の科目から選択問題を出題することとし,選択必須問題と選択問題を合わせて20題となるように解答する形式とした.表-3に出題科目と問題数を示す.
出題科目のうち,必須問題の「情報と社会」および選択必須問題の「情報技術」は,今回の区分新設により情報系の専門的な科目として新たに出題することとした.
「情報と社会」では,情報システムやデータ活用の進展と社会とのかかわりなどに関する基礎的な問題を出題する.また,「情報技術」では,計算機科学や情報工学の応用技術である情報セキュリティ,人工知能等に関する問題を出題する.
表-3 専門試験(多肢選択式)の出題科目
専門試験(記述式)
専門試験(記述式)は,計算機科学,情報工学(ハードウェア),情報工学(ソフトウェア),情報技術の4科目から6題出題し,2題を選択して解答する(表-4).これらのうち,情報技術は,「デジタル区分」で新設する科目で,出題内容は多肢選択式試験と同様である.計算機科学は,従来から,「数学・物理・地球科学区分」において出題している情報科学を,より計算機に関連した内容にして出題することとした.情報工学(ハードウェア),情報工学(ソフトウェア)は,「工学区分」で出題していた科目を「デジタル区分」に移設する.「デジタル区分」では,従来の「工学区分」ではできなかった記述式問題の同じ科目から2題(情報工学(ハードウェア)から2題または情報工学(ソフトウェア)から2題)を選択することができることとし,これまでよりも受験者の専門分野から選択をしやすいようにした.
表-4 専門試験(記述式)の出題科目
試験問題例
これまで説明した専門試験(多肢選択式)および専門試験(記述式)の試験問題例を紹介する.なお,本節で紹介する問題を含む「デジタル区分」の試験問題例は,人事院の国家公務員試験採用情報NAVIにも掲載している.
■専門試験(多肢選択式)
今回の区分新設により新たに出題することとされた必須問題の「情報と社会」および選択必須問題の「情報技術」の試験問題例を紹介する.
○情報と社会
○情報技術
■専門試験(記述式)
計算機科学,情報工学(ハードウェア),情報工学(ソフトウェア),情報技術の試験問題例を紹介する.なお,専門試験(記述式)の試験問題例は,国家公務員試験採用情報NAVIに掲載している各科目の試験問題例の一部を抜粋したものである.
○計算機科学
○情報工学(ハードウェア)
○情報工学(ソフトウェア)
○情報技術
一般職試験「デジタル・電気・電子区分」の概要
一般職試験(大卒程度試験)は,定型的な事務をその職務とする係員を採用するための試験である.
2022年度の一般職試験(大卒程度試験)は,その専門性に応じた表-5の区分の試験を実施する.
表-5 一般職試験(大卒程度試験)の受験区分
試験種目は表-6に示すとおりであり,一般職試験(大卒程度試験)についても,志望する官庁を訪問し,各府省において採用されるかどうかが決定される.
表-6 一般職試験(大卒程度試験)の試験種目
一般職試験「デジタル・電気・電子区分」は,2021年度までの「電気・電子・情報区分」から名称が変更され,これまで必須問題であった一部の問題が選択問題となることで,情報系の受験生および電気・電子系の受験生がより受験しやすい区分となった.
2022年度の一般職試験(大卒程度試験)のスケジュールについては,図-2のとおりを予定している.
図-2 一般職試験(大卒程度試験)のスケジュール(2022年度)
2022年度の国家公務員採用試験について
総合職試験「デジタル区分」および一般職試験「デジタル・電気・電子区分」の科目の検討や2022年度試験問題の作成において,多くの専門家の方々にご尽力をいただいたことに感謝申し上げる.
繰り返しとなるが,国家公務員採用試験の受験申込期間等の情報は,例年2月頃の発表となることから,2022年度試験の情報については,人事院Webページで随時確認されたい.
☆1 デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針,
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/dai10/gijisidai.html
☆2 国家公務員試験採用情報NAVI,
http://www.jinji.go.jp/saiyo/syokai/digital_gaiyou.html
(2021年11月25日受付)
(2021年12月15日note公開)
■佐藤 壮
2006年人事院に採用,財務省や内閣官房への出向,人事院事務総局総務課長補佐等を経て2020年より現職(人事院人材局企画課長補佐(制度班)).