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合気道の体の使い方の習得を支援するソフトウェア

鈴木 湧登(すずき ゆうと)

 鈴木君のプロジェクトは,昔懐かしい映画『ベスト・キッド』を思い起こさせる.映画の主人公は空手家を志す少年で,師匠にワックスがけやペンキ塗りといった雑用ばかりを押し付けられる.不満を師匠にこぼしたところ,無駄に見えた動きが実は空手の上達につながっていたという話だ.鈴木君のプロジェクトは空手ではなく合気道が対象で,ユーザはMR技術で表示されたボールをさまざまに操ることを求められる.こうした動作を通じて,合気道の体の使い方を自然と身に付けてもらう狙いである.

 合気道の体の動かし方を習得すると,体格や体力に関係なく相手を制することができる.女性や子供でも大男を投げ飛ばせるところが魅力的で,近年では護身術として人気が高い.ところが初心者がその動きを体得するのは簡単ではない.指導者の実演を見て真似をしてもうまくいかず,指導では「近くのボールを軽く捕るような気持ちで技をかける」といった曖昧な表現が多く,なかなか感覚を掴みにくい.

 そこで開発したのが2種類のソフトウェアである.1つはユーザの体の周りに視覚映像を追加して,体の使い方のコツをユーザに素早く掴んでもらえるMRソフトウェア「Gino .Aiki」.ユーザが手を伸ばすと逃げていくボールを追うことで合気道の「押す」動作を学べるものなど,11種類の動作に対応した(図-1).もう1つは筋電センサとスマートウォッチを用いてユーザの体の使い方を評価するソフトウェア.ユーザの動きが合気道の体の使い方にどれほど近づいたかを数値的に把握できる.

図-1 左は「押す」動作,右は「下げる」動作を習得するためのタスクのMR画面

 開発したソフトウェアの効果は,数々のワークショップや実証実験で確かめた.たとえば札幌市のイベントで開いたワークショップでは,参加者に既存の方法と「Gino .Aiki」の双方で合気道の動きを学んでもらい,重たい荷物を扱う動作が楽になることを感じてもらった.アンケートやインタビューから,ソフトウェアで分かりやすくなったことや動作が楽になったことを裏付ける結果を得られた.このほか,筋電センサを使って前腕の筋電位を測定することで,力づくの動作と比べて合気道の動きの方が,瞬間的にずっと大きな力が出せることなどを確認している(図-2).

図-2 「倒す」動作の筋電位の変化.左のピークは力づく,右のピークが合気道の動作

 実はこれまでにも,VR技術などを用いて合気道の基本である「型」の習得を促すシステムが開発されたことはある.ただし,今回対象にしたのは型よりもさらに進んだ応用の動作であり,応用の動きを学べるシステムは世界でも初である.鈴木君は,本システムの開発を継続するとともに,合気道だけでなくさまざまなコツを視覚的に学習できるプラットフォーム「Gino」の構想も持っている.幅広く社会に役立つ技術を目指して頑張っていただきたい.(稲見昌彦PM担当)

[関連URL]
https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/like_hokudai/article/23986

[統括PM追記]
 長身の田中PMに両手を強く掴まれて抑え込まれているのに,しかも,合気道のことを何も知らないのに,HMDに映るMR画面の2つのボールに手を伸ばすだけで,必死の形相の田中PMを押し戻すことができた.これが,私が成果報告会のステージ上で体験したことである.鈴木君は合気道の極意11種類のうち4種類について実用に耐え得るMR支援を実現した.上の実演は「球体捕縛」の技である.
 未踏期間中,鈴木君のデモビデオはどれもインパクトが大きかったが,実際に体験してみて初めてそのすごさを実感することができた.何しろ,田中PMも私も実演後20分ほど腕や手が痛かったのだ.
 鈴木君はこの技術開発を今後も継続する.稲見PMが紹介している,合気道に限らないコツの習得を助ける一般的なGinoは,介護,雪かき,荷物運搬など日常生活の広い場面で役立つことが期待できる.

(2022年6月30日受付)
(2022年8月15日note公開)