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強力なグラフィック機能を備えた組版処理システムTwight

和田 優斗(わだ ゆうと)

 組版とは,書籍やパンフレットなどを作る際,文字や図をページに配置する作業のことである.Microsoft Wordを使って文書を作る作業は組版であるし,研究論文を書く人ならLaTeXを使う人も多いだろう.

 組版ソフトウェアには,大きく分けて2種類ある.文書のテキストに指示を埋め込んでいく文字ベースの組版処理システムと,画面上で組版結果を見ながらそれを操作していくWYSIWYGエディタである.前者にはTeXや(未踏OBの諏訪敬之氏の)SATySFiが,後者にはWordやAdobe Illustrator,InDesignがある.

 どちらにも利点がある.WYSIWYGはとっつきやすいが,文字ベースにも,文書から分けてスタイルを記述するゆえ再利用性が高かったり,文字ゆえ差分の把握やバージョン管理がしやすかったり,マクロ定義による拡張や自動処理が可能になる,といったさまざまな利点がある.

 さまざまな利点がある文字ベースだが,これまで,視覚に訴えかける機能は重視されてこなかった.図の埋め込みくらいはできるがレイアウトは限られたり,字体,文字サイズ,角度,装飾,配置についての機能はかなり限られ,パンフレット,雑誌などの作成に使えるものではなかった.

 この現状に対して,和田君は,グラフィカルな紙面を組める文字ベース組版処理システムTwightを開発した.XML,CSSを組版向けに改良した言語で記述し,Twightに通すと,組版されたPDF文書が得られる.

 百聞は一見に如かず,である.和田君がTwightで達成した組版の品質は,本当に驚かされる(図-1).商業誌のグラフィカルな紙面を難なく再現して見せたかと思えば,論文や辞書のようなテキスト中心の文書も美しく組版する.一方で,見た目が美しいというだけではなく,組版の機能は実に質実剛健である.ほんの一部を挙げると,日本語組版処理の要件(JLReq)にしっかり準拠していたり,異体字を指定する方法は4通りに対応していたりする.

 そしてこれはもはやお約束であるが,成果報告会での発表スライドも,当然(?),Twightで作成してくれた.

 和田君は小学6年生の頃に書体,つまりフォントに興味を持ち始めたらしい.この書体のここの曲線部分が美しい!と感じたり,自分でフォントを作って遊んだとのこと.やがてその興味が,書体を活用する組版に拡がっていったのだろう.

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図-1 Twightによる組版結果,グラフィカルなものからテキスト中心のものまで

 和田君は,筑波大学に入学して早々の2021年4月,まったくの別件で界隈の話題をさらった.履修登録の期間中に授業データベースKdBがメンテナンスに入ってしまい,皆困っていたところに,代替ツール「KdB(もどき)」をわずか3時間半で実装し,提供した.これで救われた筑波大生は多かったことだろう.

 その記事は以下のURLから見ることができる.

・ITmedia NEWS:筑波大の授業DBがメンテ,困った新入生が代替ツールを“爆速開発” その背景を本人に聞いた
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2104/13/news126.html
・ねとらぼ:筑波大学の履修ツールが年度早々長期メンテに→“新入生”が代替システムを一晩で開発し「強すぎる」と動揺広がる
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2104/12/news136.html

 (首藤一幸PM担当)

[統括PM追記] 未踏ではときどき(いい意味で)とんでもない高校生が彗星のごとく現れる.本当に組版が好きで好きでたまらないというようなレベルを,軽く飛び抜けて,和田君が隅から隅まで丁寧に作り込んだシステムだ.いくつかの改良を行い,近いうちにオープンソースで公開すると聞いている.ぜひ使ってみたい.

(2021年6月30日受付)
(2021年8月15日note公開)