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チャット型インタフェースを用いた集団発想支援ツール hidane

野崎 智弘(のざき ともひろ)
三橋 優希(みはし ゆうき)

 チャットで発言するように,気軽にオンラインでブレインストーミングできるようになれば,対等な関係で意見を自由に出し合い発想を広げる,という文化を根付かせることができないか ─ そんな考えから生まれたWebアプリケーションが「hidane」です.2022年2月にリリースされた直後から話題を集め,公開から3カ月半の2022年5月現在,すでに1万人のユーザを獲得しています(図-1).

https://twitter.com/nztm_tw/status/1528303671125364736
図-1 ユーザ数の伸び

 未踏クリエータの野崎さんと三橋さんによって開発された「hidane」は,ブレインストーミングを複数人で同時に行えるWebアプリケーションです.

 hidaneの最も特徴的な点は,チャットをするような感覚でアイディアを入力することができるインタフェースです(図-2).ブレインストーミングを行えるアプリは,「Miro」や「MURAL」といったオンラインホワイトボードツールなどさまざまにありますが,「チャット型」のインタフェースは,オンラインでのコミュニケーションに,より適した方法です.画面右下の入力欄にテキストを入力して,エンターキーか投稿ボタンをクリックすると,アイディアが投稿できます.投稿されたアイディアは,バルーン型のオブジェクトとなり,入力欄の上に連なって表示された後,画面に自動的に配置されます.もちろん,自動配置されたバルーンをユーザは自由に移動でき,色の変更,コピペ,そして削除や編集も可能です.ボードのサイズもバルーン数によって常に最適なサイズに自動的に変化します.野崎さんと三橋さんは,こうした1つ1つのインタフェースの設計にたくさんのユーザテストを重ね,心地よく使える工夫を凝らしています.

図-2 hidaneの画面の様子

 ブレインストーミングを複数人で行うときの難しさの1つは,アイディア出しからまとめるまでの一連のステップに進行役が必要なことです.そこで,hidaneでは,ブレインストーミングに慣れていないユーザでも順を追って進行できるように,アイディア出しからまとめまで5つのステップに沿ったガイドを提供しています.(1)アイディア出し,(2)グルーピング,(3)リアクション,(4)ディスカッション,(5)クロージングの5つの各ステップに従って進行していれば,アイディア出しからまとめまで,とてもスムーズに進みます.

 もう1つ,ブレインストーミングを行っていると「アイディアが出ない」「議論が煮詰まってしまった」といった状況に陥ることがよくあります.そこで役に立つのが,自然言語処理を使った「ひらめきワード支援」「連想ワードの検索」「発想を広げるメッセージ」という3つの発想支援ツールです.ひらめきワードでは,たとえば,「お菓子」というワードを入力すると,「友だちと共有できるケーキ」という組み合わせを生成してくれます.連想ワードの検索では,たとえば,「オムライス」というワードを入力すると,「カツ丼」「ハヤシライス」などの関連するワードがリストアップされます.メッセージ機能は,アイディアが出ているときにも発想や会話をより活発になるように支援するため機能でGPT-3を使って実装されています.

 「友だちと競争できるようにしたらどうなりますか?」といった,発想が広がりそうな問いかけが自動生成されます.これらの機能を用いることで,アイディア出しのペースが落ちた際に,ユーザのペースに合わせて発想を広げることができるようになっています(図-3).

図-3 アシストボット

 多くのユーザ調査から得られたフィードバックをベースに,インタフェース案を設計,実装し,試行錯誤の結果,多くのユーザに受け入れられ使われるアプリケーションとなっています.野崎さん,三橋さんというクリエータの卓越したコーディング能力,デザイン力,そしてプロジェクト管理能力が発揮された結果です.イラストやアイコン,全体のビジュアルなども,細部にこだわった制作を行い,アプリケーションのコンセプトが非常によく伝わるものとなっていると思います.公開直後から多くのユーザの関心を集め,今も成長を続けるhidane.今後の2人の活躍にも注目です.(岡瑞起PM担当)

[関連URL]
https://hidane.app/

[統括PM追記] 2人は兵庫県と東京都に分かれてという,リモート開発だったが,提案の段階から,話を聞くたびに機能が増え,見た目も変わっていったプロジェクトである.連想ワードの検索や発想を広げるメッセージといった,いわゆるアシストボットがその典型例である.裏方の技術も面白く,聞いた瞬間にみんなが「これは受ける!」と膝を打った.たくさんのユーザ調査から得られたフィードバックで2人自身が発想支援を受けたということになるのだろうか.
 図版からも分かるように,hidane(最終段階で決まったものだが,ネーミングも素晴らしい)に一貫するカラーリングやデザインは,アート系の大学に進学することになった三橋さんの個性がよく出ている.下に紹介したhidaneのロゴマークのデザインの何十回にもわたる試行錯誤のスライドを成果報告会で一瞬見たのだが,圧巻だった.

(2022年6月30日受付)
(2022年8月15日note公開)