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ヘアアイロン使用補助システムColor-Path

松井 菜摘 (まつい なつみ)

 ヘアアイロンで上手に髪を巻きたい!という思いは女性なら誰もが一度は抱いたことがあるのではないか.最近ではおしゃれな男性もヘアアイロンを使って自在に髪の毛をアレンジするのだとか.しかし,ヘアアイロンをうまく動かして,思い通りの髪型にするのは簡単ではない.ヘアアイロンを購入したものの断念してしまう人のなんと多いことか.

 松井さんは,ARフィルタを用いてヘアアイロンの上手な動作を再現するための補助システムColor-Path(カラパス)を開発した(図-1).ユーザが持っているヘアアイロンに加速度センサと100均ショップで買えるカラーマーカ(シール)を取り付け,システム内の巻き髪ライブラリから作りたい巻き髪を選択すると,画面にヘアアイロンの動かし方が提示される.ユーザはこの提示に合わせてヘアアイロンを動かしていけばよい.こうして誰でも簡単に髪を巻くことができるようになる.

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図-1 ヘアアイロンデバイス

 図-2は提示画面の一例で,カメラで撮った自分とお手本の映像が重ねて表示されている.ヘアアイロンの動かし方の指示は分かりやすい色と図形で表示される.手本動画を半透明にした映像(ゴーストという)に重なるようにしながら,ユーザはヘアアイロンのカラーマーカを認識したい丸い提示(ゲートという)に合わせ,ゲートの下の部分の棒(スティックという)とヘアアイロンの姿勢を合わせていく.左右の傾きが手本に近づくとスティック内の色が変わり,前後の傾きが手本に近づくとスティック横の三角形のアイコンの色が変化する.水色の点線で表された円に顔が合うようにすることでおおよその距離を一定に保つ工夫がされている.

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図-2 使用時のシステム画面

 出来上がりは実にシンプルで使いやすいデバイスとシステムに仕上がったが,ここに至るまでに多くの試行錯誤があった.まずデバイスは,マイコンへの電源供給を有線で行うとヘアアレンジ中のヘアアイロンの回転によりヘアアイロン本体の電源コードに絡まってしまう.重くて動かすのも大変だった.最終的にはヘアアイロンに履かせるスカートのようなオリジナルモバイルバッテリーケースを松井さんが縫って作成し,コードレスで稼働する安価で軽量なデバイスとなった.

 システムでのヘアアイロンの動かし方の提示では,鏡で見える左右や奥行の位置情報,傾き角度や回転情報といった3次元情報を,2次元の画面に直観的に分かりやすく提示しなければならず,これも簡単ではなかった.カラーシールを使った認識のアイディアが出たあとも,色の変化の順番をユーザに覚えてもらう必要があるのか,どのように提示するとよいかなどを,何度も試行錯誤して探っていった.結果的に矢印に勝るものはないということで立体に見える矢印のイラストで回す方向を伝えるというシンプルな仕上がりとなった.

 この過程で印象的だったのは松井さんの発想の豊かさである.ヘアアイロンのゲートだけでなく,どちらの方向から入れるとよいかの提示を三角で表現して「魚に見えたので『魚ゲート』です!ヒレ(三角の部分)は~」と説明したり,ヘアアイロンの姿勢も併せて提示することで『魚串ゲート』になったり(図-3).キラリと光るアイディアや天真爛漫な発想が多く,そういったアイディアが湧き出て実装をしていった様子はまさにスパクリに相応しい.

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図-3 「魚串ゲート」のアイディア

 私はユーザの1人としてこのシステムを使用していたが,元々自分が持っていた(そしてほとんど使わずに洗面所の奥で忘れられていた)ヘアアイロンに手軽にシールを貼るだけ.準備段階からワクワクし,システム起動後には,ゲーム感覚のような「ピローン!」という効果音に合わせて巻いていくだけ.その過程がとても楽しかった.

 松井さんは未踏終了後,プロの美容師さんにお願いをしてヘアアレンジ時のヘアアイロンの動きのデータを取らせてもらったそうである.美容師さんも物珍しさからかかなり興味を持って楽しんで使っていただけた様子であった.今後は動きの再現だけでなく、より手本の髪型の見た目を再現するために、見た目にかかわる制御パラメータが何なのかについて深く調査してそれを実装に活かしていきたいと意欲的である.(五十嵐悠紀PM担当)

[統括PM追記] 未踏期間終了後のあるPM会合(TV会議)で,五十嵐PMの髪型が急にショートカットになったので伺ったら.まさにプロジェクト期間中は松井さんのために髪の毛を(いつもと違い)伸ばし続けたとのこと.クリエータとPMは一蓮托生ということが実地で示されたエピソードである.

(2021年6月30日受付)
(2021年8月15日note公開)