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祭り運営を支援するシステム temaneki

阿部 優樹(あべ ゆうき)
辻口 輝(つじぐち ひかる)

 祭りを運営する管理者が,さっくりと手間少なく,大勢のボランティアを管理できるスマホ・タブレット向けアプリケーションtemanekiを開発した.temanekiは図-1に示した3つの特徴を持つ.また,開発しただけでなく,15回にわたって運用し,そのたびに改善を続け,北海道大学での金葉祭ではボランティア170人という規模での利用を達成した(図-2).

図-1 temanekiの3つの特徴
図-2 temanekiの運用実績

 その金葉祭では,temanekiなしでの以前の運営では,ボランティアからシフトへの苦情が殺到して,当日到着率は60%程度だったところ,temanekiを使った運用ではシフトへの苦情2~3件,当日到着率95%を達成した(図-3).

図-3 temanekiによる満足度の向上

 クリエータの2人,特に阿部さんは祭りが好きすぎて,年間50以上の祭りやイベントに参加し,また,YOSAKOIソーランサークルの幹部として活動してきた.そこで気づいた運営およびその継続についての課題を,クリエータ2人で,情報技術で解決して見せてくれた.秘訣は,図-1に示した特徴そのもの,つまり連絡作業の大幅な軽減,シフトの自動作成,地図での役割説明,である.

 祭りでは,前日までボランティアが増えていく.金葉祭では,当日直前の1週間だけで40人以上増えた.その全員に対して,祭り管理者はメッセージアプリなどで連絡をとることになり,忙殺される.ここでtemanekiを使うと,シフトの作成・調整に応じて,ボランティアに自動的に連絡が送られ,管理者は連絡作業から解放される.実際,祭り当日1日目の夜中に,2日目のシフトを変更するような離れ技も可能となった.シフトの作成・調整は,ボランティア全員の希望に基づいて,最適化ソルバを用いて行われる.ここに,辻口さんの大学院での専門である最適化が活きている.

 ボランティアの仕事は,管理者が地図上に紙芝居のように入力し,ボランティアもそれをスマホの地図上で見る.仕事の伝達は,従来は紙のマニュアルで行ってきた.地図で示すこの方式の効果は顕著で,広い広い北海道大学でのお祭りで,従来の運営方法では,時刻どおりに到着したボランティアが60%ほどだったところ,temanekiを使った運営では95%を達成した.

 阿部さん,辻口さんの頭の中には,理想のアプリケーションがあるのではない.あるのは理想の祭りである.アプリの開発はゴールではなく,ただの手段である.アプリは,現実世界で効果を発揮してなんぼなので,こうあるべきである.未踏での開発期間が始まったころから,周囲の大人は皆「祭りだけでは対象が狭い.イベント一般を対象にして汎用性を高めるのはどうか?」と尋ね,コメントした.私も当初そう考えた.しかし2人は,祭り愛ゆえ,祭りファースト(というより祭りオンリー)を貫いた.汎用性はソフトウェアにとって諸刃の剣で,応用先が広くなる利点と,逆に誰にも刺さらなくなる危険とがある.本プロジェクトでは,祭りだけを見据えて磨き続けることが重要であった.

 しかし結果としては,祭りを含めた多様なイベント運営を劇的にスムーズにできる可能性を見せてくれた.阿部さんはアプリのほとんどを開発し,辻口さんはシフトのアルゴリズムを担当し,また,temanekiの現場オペレーションを主導した.

(担当PM・執筆:首藤 一幸)

[統括PM追記] 首藤PMも書いておられるように,多くのPMも私も「祭りだけでいいの?」と心配し,そういうコメントもした.しかし,2人ともまさに祭り命のキャラクタであった.当然のことながら,彼らのプレゼン自体がお祭りだった! その祭り愛は,彼らと面と向かうだけでオーラのようにまぶしく伝わってくる.プロジェクトにおいて,まず一点集中することにより,むしろ強力な汎用性のタネが生み出されるという,これもまた未踏の醍醐味だ.

(2023年7月3日受付)
(2023年9月15日note公開)

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