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チョーカー型汎用触覚デバイス

森田 崇文(もりた たかふみ)
籾山 陽紀(もみやま はるき)

栃本 祥吾(とちもと しょうご)

 我々がスポーツをする際,視覚だけでなくプレー中に発生する音を頼りにプレーをしており,プレーに使用される聴覚情報は全体の約20%を占めていると言われている.クリエータの森田君,籾山君,栃本君が聾学校でインタビューをしたところ,スポーツで音が聞こえなくて困っている,卓球などの一部のスポーツでは音を感じてみたい,という回答が得られたそうである.さらに,彼らは聴覚障がいのある子供たちはスポーツの技能が上達しづらく,それが原因でスポーツにおいて自己効力感や達成感を感じにくいという課題を発見した.
 そこで,音情報を触覚(ハプティクス)情報に変換してプレイヤに伝えるために,プレイヤの首に巻きつけて使用するチョーカー型触覚デバイスkoloHartを開発した(図-1).本デバイスは,入力情報としてスポーツ中に発生する音の強度・向き・タイミングを得て,出力情報として触覚の強度・向き・タイミングに変換してプレイヤに伝える.これにより,音が聞こえない状態でもスポーツを楽しみながらプレーでき,また技能向上を加速することが期待できる.

森田・籾山・栃本fig01

図-1 チョーカー型触覚デバイスkoloHart

 なお,本プロジェクトは広いユーザへの普及を目指すため,聴覚障がい者だけでなく,聴覚に不自由を感じていないユーザにも役立つような首元触覚による「超ビビッド」な首元触覚を提示することを目指すことになった.そのために「感覚代行による日常生活の支援」と「新たな感覚獲得による人間の可能性の拡張」をビジョンとして掲げた.1つ目は,本プロジェクトの原点である,クリエータらと片耳難聴者との出会いから生じたもので,触覚による感覚代行で生活を支援したいという想いから.2つ目は,五感で感じることができないような情報を首元触覚でフィードバックすることにより,人間の可能性を拡張して新しい身体技能獲得や新しい気づきに出会える世界を実現するためである.

 開発したkoloHartはさまざまな用途に沿ったカスタマイズが可能であり,スマートフォンと組み合わせた方向ナビゲーション機能,障害物の提示や居眠り運転防止などの危険アラート機能,ラケットからの触覚転移を用いたスポーツ上達支援(図-2),音楽連携による体験の拡張などのシステムを実装した.

森田・籾山・栃本fig02

図-2 卓球ラケットの触覚転移

 提案されたチョーカー型の触覚デバイスは,文字通り首に巻く.首元は,従来検討されてきた触覚提示部位と比較して求心性神経が多く,触覚に敏感であるのに加え,日常的に接触される機会が少なく,装着者への心理的な効果が大きいとされている.

 さらに,体型による触覚検知への影響が小さくさまざまな人々に同等の触覚体験を提供できるという利点がある.

 なお,首元に高品位な振動を与えることを主眼とした触覚デバイスはこれまでにほとんど存在しないため,本プロジェクトは触覚に関する各種製品や先行研究と比較しても高く評価できる.本デバイスは首元に360°方向から触覚提示を可能にし,単純振動での触覚提示だけでなく複雑な振動触覚も表現することができ,将来的には幅広い応用が期待できる.(稲見昌彦PM担当)

[統括PM追記] 聴覚障がい者向けという提案だったものが,誰もがその恩恵を楽しむことができるプロダクトへ見事にピボットしたと思う.彼らは学内のベンチャー活動教育の中で仲間になったという.とてもユニークな成果なので,ぜひ実用化につなげてほしい.

(2021年6月30日受付)
(2021年8月15日note公開)