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誰でも簡単に使えるカット加工機 TinyFabrica

関根 史人(せきね ふみと)

 3Dプリンタやレーザ加工機などディジタルファブリケーション機器は,産業向けに限らず一般ユーザ向けにも広く普及しつつあるものの,まだまだ誰もが気軽に使えるとは言いがたい.関根さんは,子どもたちやPCに不慣れな人たちでも簡単に利用でき,ディジタルファブリケーションの楽しさを体感できる TinyFabrica を開発した.

 TinyFabrica は,電熱線による発泡スチロールカット加工機と,簡単にカットデータを生成できるAndroid端末で動作する SyCV3 アプリケーションから構成されている(図-2).カットしたい図面を紙に描き,SyCV3アプリで撮影すれば,加工機本体にデータが伝送され正確に図形がスチロールカッターでカットされるという仕組みである(図-3に活用例を示した).

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図-1 Tiny Fabrica 9 とスチロールカットの例

 カット加工機は,電熱線を固定し,材料である発泡スチロールを前後左右に動かすことでカット動作を行っている.設計にも工夫を凝らし,安全・安価で組み立て可能な誰もが使えるカット加工機を実現している.

 注目すべきはそのその加工スピードである.撮影からカット終了まで数分というすばやさは,アイディアがモノとして出力される楽しさを実感させてくれる.UXの観点からも,子供たち向けのワークショップで好評を得られたのも頷ける.

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図-2 SyCV3 カット図形読み込みアプリ

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図-3 Tiny Fabrica 活用例(ポップ作成,立体模型など)

 未踏採択期間中に,私が驚かされたことは関根さんの TinyFabrica に対する「熱すぎる」とも言える情熱である.採択当初は,ソフトウェアの開発を中心にワークショップをしながら改良と応用例の充実を計画していたのだが,加工サイズを大型化した TinyFabrica 10, さらに構造を強化した TinyFabrica 11, ビジネス向けにアルミフレームでダイヤモンドワイヤーソー加工が可能な TinyFabrica Pro と想定以上の開発してしまったのである.

 イノベーションの原点はプロダクトに対する情熱だと再認識させられた出来事であった.

 関根さんは,未踏期間中にファブリケーションに最適なラボ設備のある,シェアルームに転居している.コロナ禍でオンライン中心となり,ワークショップの開催や外部ラボの活用,また仲間づくりも難しい中,このような開発・生活環境もプラスだったのだろうと思う.クリエータたちがその情熱を十二分に発揮できる施設も大切であることをPMとして考えさせられた.
 関根さんは,未踏期間終了後に,機器のレンタルや販売,ワークショップの実施などの本格化を計画している.子どもたちまたは手芸家などが気軽に使えるディジタルファブリケーションで新しい世界を切り開いてもらいたい.(藤井彰人PM担当)

[関連URL] https://sknjpn.com/

[統括PM追記] 藤井PMが書かれているとおり,関根君はかなり熱い情熱に突き動かされている.何かに夢中になると,ほかを忘れてしまうようだ.図-3をよく見ていただきたい.実は単なる発砲スチロールカットを超えた妙なものがたくさん見える.これからが楽しみだ.

(2021年6月30日受付)
(2021年8月15日note公開)