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服のサイズ感が分かるAR試着モバイルアプリFigur

新井 康平(あらい こうへい)
小泉裕之介(こいずみ ゆうのすけ)

 2021年はコロナ禍で緊急事態宣言が何カ月も続き,外出の機会がめっきり減り,服を買いに行くために店舗を訪れて試着するといったことが気軽にできなくなった年でした.そんな時期に提案されたのがこのプロジェクトです.服の中でも,特に古着を購入する際,試着は必須です.古着が大好きなクリエータの新井さんが,コロナ禍で古着の試着ができなくなってしまって大変困ったという思いがきっかけとなり,もう1人のクリエータである小泉さんと意気投合して始まりました.

 新井さんと小泉さんが提案したのは,スマートフォン上でユーザがすぐに洋服を3D試着できるアプリです.スマートフォン上で洋服の3Dモデルが作る機能が搭載されているため,ボディデータの作成からクロス(布)シミュレーションまで行うことができ,ユーザがすぐに3D試着の結果を確認することができます.

 使い方はとても簡単です.3D試着アプリFigurに,ユーザが性別,身長,体重を入力すると,3Dボディメッシュ(アバター)が作成されます.そして,試着したい洋服を選択するとアバターが試着した様子を画面で確認することができます.また,AR試着機能も用意されていて,姿見の前に立ち,自分を映したカメラを通した洋服の試着が可能です(図-1).腕を上げたときの袖の長さやしゃがんだときのパンツのシワなど,自分の動作に応じた洋服の動きをARで確認できる点が画期的です. 

図-1 Figurの使い方

 さらに,どんな洋服でも3Dモデル化し試着できるようにすることを目指したアプリFigur Plusも開発されました.ECサイトで見つけた洋服を実際に試着してみたいと思ったことがある人は多いと思います.そんなニーズに応えるためのアプリがFigur Plusです.Figur Plusを使うと洋服の型紙がなくても3Dモデルの作成が可能です.使い方も簡単です.まず3Dモデル化したい洋服の種類を選択して,着丈,身幅,袖幅,袖丈の長さを入力します.次に洋服の表と裏をカメラで撮影してアップロードすると3Dモデルが作成されます.たとえば,次の図-2はTシャツの3Dモデルを作成したものです.Figur Plusでつくった洋服は,Figurアプリを使って試着できるようになる予定です.

図-2 Figur Plusの使い方

 また,作成した洋服の3DモデルをURLで共有できる機能も実装されています.この共有機能を使って,たとえば,ECサイトの商品を3Dモデル化したURLをユーザがダウンロードして,洋服の商品を手元のスマートフォンのアバターに着せたり,AR機能を使って姿見で確認したりといった機能を実装していく予定です.3DモデルのデータはWebAR形式で作成されているため,ユーザは洋服を360度回転させながら確認することもできます.現状のFigur Plusで3Dモデルを作成できるのは,Tシャツのみですが,同じ方法で長袖シャツ,パンツ,パーカー,ジャケットなどへも適応可能ということで,さらに幅広いアイテムへの展開が待ち遠しいですね.

 スマートフォンでの3D試着を実現するためには,ボディデータの作成からクロスシミュレーションまですべてスマートフォン上で行う必要があります.これは非常に難易度の高い目標です.実際,プロジェクトを進める中で技術的な困難に何度もぶつかりました.そうした困難にくじけることなく,さまざまな方法を模索し,試行錯誤を何回も繰り返すことで,目標を実現した新井さんと小泉さん.その熱意と実行力には,ただただ感心させられっぱなしでした.

 そんな不屈の精神で取り組まれたFigurとFigur Plusですが,現在も開発が進められ,ビジネスとしての展開にも積極的に動いています.コロナ禍で店舗に行きにくくなったという経験から生まれたアプリですが,店舗での試着は面倒くさい,あるいは苦手というユーザは実はとても多いかもしれません.そんな潜在ニーズをうまく活用すれば,新規顧客の開拓につながるはずです.これまでなかなか普及していない3D試着ですが,服を買う前にはまず3D試着! となる日も近いかもしれません.興味のある方は,ぜひ新井さん,小泉さんに連絡をとってみてください.(岡瑞起PM担当)

[関連URL]
https://twitter.com/kokoheia

[統括PM追記] 新井君は根っからの古着好きである.二次面接は,行きつけの古着屋が閉店したという嘆きから始まった.ただ,AR試着はレッドオーシャンと言われ,次々とシステムや会社が出てくるが,コストも高いし,成功事例がほとんどないとのことである.しかし,売りたいではなく,自分が使いたいという動機が,パワーの源となった.
 まず,スマートフォンで済むのがいいし,布の軟らかさや伸び縮みのしやすさまでシミュレーションするところが本格的である.古着で失敗を重ねた新井君ならではある.小泉君はもっぱら裏方の技術開発を行ったが,2人の協力なくしてはここまでの成果は出なかっただろう.開発の中で,衣服のモデリング自体に新しい手法を発見し,新井君は2022年度の未踏アドバンスト事業でこのプロジェクトをさらに発展させることとなった.この分野のレッドオーシャンぶりを深く承知なさっている藤井PMがご担当ということで,期待がとても高まる.

(2022年6月30日受付)
(2022年8月15日note公開)