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エモーショナルなロボットを作るわけ

青木

青木 俊介
ユカイ工学(株)代表

 筆者は現在,家庭向けのコミュニケーションロボットを作る会社,ユカイ工学(株)の代表を務めている.家庭の中でロボットが必要とされる場面は,まだ多くないのが現実だが,これからどのようなロボットが家庭の中で必要とされていくのだろうか.僕たちのアイディアを紹介したい.

 僕たちのプロダクトのユーザさんの行動から見つけた,ロボットの効用がある.それは,ロボットをメッセンジャーとして利用すると,人に言うことを聞いてもらいやすくなるという効用だ.弊社では「BOCCO(ボッコ)」というコミュニケーションロボットを2015年から商品化している.ロボットの形をしたスマートスピーカーのような製品で,スマートフォンのアプリからテキストを送信するとメッセージを読み上げる機能がある.これを使って,ロボットがあたかもしゃべっているかのように自分のメッセージを伝えたりすることができる.

 小学生のお子さんが,運動会が嫌いで,練習が始まると学校に行きたがらないというユーザさんがいた.そこで,毎朝BOCCOを使ってお子さんを励ましてあげることで,なんとか運動会の当日まで毎日学校に通うことができたという.また,一人暮らしの高齢者の家族がいるユーザさんの話では,家族が電話で薬を飲んでいるか確認すると反発されてしまうのに,BOCCOのリマインド機能を使って「お薬を飲む時間だよ」と伝えてあげると,素直に飲んでくれるようになったという.

 このように,ロボットには人の感情を動かしたり,行動を引き出す役割があるのではないだろうか.掃除機ロボットについても,実は同じことが言える.充電ドックに戻るのに失敗しているのを見ると,なぜか「頑張ってくれたんだなあ」という,応援したくなるような気持ちになることがある.人はロボットという存在に感情を引き起こされてしまうのだ.ロボットはとてもエモーショナルな存在なのだ.

 では,この効用を活用するとどんなロボットが実現できるのだろうか.ロボットはどんな役割を担うようになるのだろうか.僕は,『となりのトトロ』の世界観が近いのではないかと考えている.この映画の中では,人の周りにいろんな妖怪たちが潜んでいる.そしてその妖怪たちが,なんとなく子供たちを見守っていて,子供たちを幸せに導いてくれる.未来のロボットも,おそらく,人間の身の回りにいろいろな種類のものがいて,それらが協調して人間の生活をサポートするようになるのではないか.人が毎日運動をしたり,薬を飲んだり,学習をしたりする習慣づけをロボットがサポートしてくれる.人の行動の意図や願望を把握し,なんとなくユーザの望むウェルビーイングが実現するようにロボットが行動を導いてくれる.そのような未来の妖怪のような存在がロボットの目指すべき姿ではないだろうか.

(「情報処理」2021年3月号掲載)

■ 青木 俊介
東京大学在学中にチームラボを設立,CTOに就任.その後,ピクシブのCTOを務めたのち,ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立.「ロボティクスで世界をユカイに」というビジョンのもと家庭向けロボット製品を数多く手がける.2014年家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」を発表.2017年しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」を発表.2015年よりグッドデザイン賞審査委員.