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サッカー試合映像の検索・分析システムTASC

内田 郁真(うちだ いくま)
スコット アトム

 内田さんとスコットさんは部活動やクラブチームに所属するようなアマチュアサッカー選手を対象として,サッカーの試合映像を対象にビデオトラッキングベースの自動分析ツール「TASC(Tracking AI for Soccer Coaching)」を開発した.効率の良い映像視聴を支援する作業を自動化し,撮影負荷が低く,かつ技術向上に必要となるプレー映像を素早くかつ簡単にアクセスできるような仕組みを開発した.これにより,アマチュアサッカー選手が自身のプレーの撮影を手軽に行い,振り返りや次戦の対策など,サッカーの技術向上のために必要不可欠な試合映像の振り返りのための映像選定を支援することができるようになった(図-1).

図-1 
TASCの映像認識とデータ解析により,技術向上に必要なプレー映像を手軽にアクセス可能に

 内田さんとスコットさんは筑波大学体育会サッカー部に所属していた経験がある.また,コーチングスタッフや J1チームでのアナリスト経験もあり,サッカーにかける強い情熱がある.複数の国際学会 CVPR Sports’22,ACM MM Sports’ 21,ICAART 2022において主著論文もあり,コンピュータビジョンの研究者としての高い研究遂行能力・知見もある人材だ.本プロジェクトを一緒に行ったこの2人はサッカー部での選手やアナリストをともにした相棒であり,CVPR, MM の論文では Co-first authorship(共同第一著者)でもあり,良いパートナーである.そんな2人がサッカーの現場で感じた課題感の解決を密にコミュニケーションをとりながらフラットな関係で開発を進めていった.

 内田さんは主に,どの映像をハイライトにするか,プレーの良し悪しといった判断など,「プレー評価指標」について技術開発を担当した.また,検索機能の面では,幾何学的な類似度や深層学習ベースの類似度などの技術を担当した.スコットさんは技術面では主にトラッキングやピッチの認識,パスイベントの検出といった画像処理を担当した.また,LINE や YouTube API 連携など,ユーザインタフェース周りも担当した.「主に」と書いたが,2人がそれぞれ完全に独立で開発を進めてきたわけではなく,お互いがお互いを補いあって開発していった.未踏事業はグループでの応募の場合,システムには代表者1名を記入するような仕様になっているが,このプロジェクトでは内田さん・スコットさん2人がCo-firstである.このプロジェクトが成功につながった強さの秘訣はここにもある.

 2人はプロジェクトを進めていくにあたり,多くの現場関係者へのヒアリングを実施した上で必要な機能を取捨選択して実装していった.プロジェクト開始からしばらくの間はプロサッカー選手を対象に検討していたが,対象をアマチュアサッカー選手に絞り,スマートフォン1台で手軽に無人で撮影できるようなシステムに仕上げることにした.また,ユーザインタフェースについても誰でも手軽に使えるLINEとYouTubeを利用することで,導入の敷居を下げることに成功した.学術的にも新たな手法やアルゴリズムなどを考案・開発し,システムを作り上げた.

 2人は未踏期間終了後,大学院博士課程に進学し,TASCの要素技術の研究に焦点を当てている.ビデオトラッキングや映像検索は学術領域でもまだ困難が多いタスクでもある.これらの課題に直接取り組める環境に身を置きながら,プロダクトの発展を目指している.

(担当PM・執筆:五十嵐 悠紀)

[関連URL]
https://github.com/AtomScott/SoccerTrack

[統括PM追記] 本文中にも記載されているとおり,当初,プロサッカーチームでも使えるシステムも目指していたが,国際的にお金に糸目をつけない競合が多い中,アマチュアチームに焦点を絞ったのは,コスト制約が強く,むしろ挑戦的で,正解だったと思う.スマホ1台にこだわったのはその顕れである.2人とも博士課程に進んで,TASCの完成度をさらに上げようとしていることに,強い意気を感じる.でも,そろそろカメラ1台の制約を外して,コストをあまり上げずに,さらに精度の高い有用な情報を得られるようにする選択もあっていいのではなかろうか.

(2023年7月3日受付)
(2023年9月15日note公開)

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