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選定にあたって

加藤由花
(論文賞委員会委員長/東京女子大学)

 本論文賞は,本会論文誌各誌に掲載された論文の中から,約50編に1編を目安に特に優秀な論文を選定し,その著者に対して授与するものである.

 2023年度論文賞選考の対象となったのは,論文誌 ジャーナル,Journal of Information Processing(JIP),論文誌 トランザクション10誌(論文誌 プログラミング,論文誌 数理モデル化と応用,論文誌 データベース,論文誌 コンピューティングシステム,論文誌 コンシューマ・デバイス&システム,論文誌 デジタルコンテンツ,論文誌 教育とコンピュータ,論文誌 デジタルプラクティス,Transactions on Bioinformatics,Transactions on System and LSI Design Methodology)に掲載された計602編の論文である.これらの中で,実際に選定を行ったのは論文誌 ジャーナル,JIP,論文誌 プログラミング,論文誌 コンピューティングシステム,論文誌 教育とコンピュータの5誌であり,これらに掲載された376編の論文が実質的な選定対象となった.残りの7誌については,対象論文が50編に満たなかったため,表彰規程第11条に基づき,2023年度の対象論文を2024年度以降の論文賞の対象論文として持ち越すこととなった.

 選定にあたっては,表彰規程および論文賞受賞候補者選定手続に基づき,論文賞委員会による厳正な審査が行われた.具体的には,論文誌運営委員会委員長が委員長を兼ねた論文賞委員会のもとに,論文誌ごとのワーキンググループが組織され,優秀な論文を選定する体制によって審査が行われた.その結果,7編の受賞候補論文が選定され,理事会の承認を得て最終的に受賞が決定した.

 受賞論文の著者には,表彰状,表彰盾および賞金が授与されることとなった.

 今年度は,眼球運動の特性をHMDの入力インタフェースに利用する手法,字形記憶を強化するための誤字形文字生成手法,AIの推論結果を誤らせる効率的な攻撃手法に関する研究,Webブラウザの権限機構を自動分析するフレームワークの開発など,我々の身近にあるさまざまな課題や脅威を,これまでにない発想で解決する論文が選ばれている.また,コンピュータサイエンスの最も古い理論の1つとも言える正規表現を対象に,その理論と実用を結びつける拡張を実現した研究や,DRAM高速化・高効率化に関するサーベイ論文,さらに,コロナ禍においてFPGAの論理回路計算実習をオンラインで可能にした授業実践に関する論文が選ばれている.基礎から応用,理論研究からサーベイ論文,さらに教育実践まで,非常に幅広い分野の論文が選定されており,本会が情報処理技術の重要な研究課題を広くカバーしていることを改めて感じさせるものになった.

 「情報処理」note(https://note.com/ipsj)では,2023年度論文賞受賞論文の著者による紹介記事を掲載する.受賞者のコメントを拝見すると,多くの方々が最初の着想から多くの時間と労力をかけ,大切にご自身の研究を育まれてきたことが分かる.みなさまにも,ぜひ紹介記事をご一読いただき,論文には記載されない著者の想いやその苦労を汲み取っていただき,合わせて受賞論文もお楽しみいただきたい.
 最後に,今年度も無事に論文賞を制定することができた.これも,投稿いただいた著者のみなさま,日々査読編集にあたる査読者,編集委員のみなさま,また論文賞選定にかかわるワーキンググループのみなさまのおかげである.今後も本会論文誌に投稿し,ご支援いただければ幸いである.

(2024年5月30日)
(2024年7月16日note公開)