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選定にあたって

松原 仁(マイクロソフト情報学研究賞選定委員会委員長/京都橘大学)

 2024年3月の全国大会の場で2023年度の「マイクロソフト情報学研究賞」が平原秀一さん(国立情報学研究所)と大上雅史さん(東京工業大学)に授与されました.本賞は国内の若手研究者を対象として2016年度に創設されました.今回で8回目の贈呈となります.以前は本会第20代会長の故長尾真先生からご寄贈いただいた資金により2005年度に設立された「長尾真記念特別賞」があって2015年度までの11年間にわたって若手研究者を顕彰してきました.その趣旨を引き継いだ形で国内の大学および公的研究機関の若手研究者を対象とする「マイクロソフト情報学研究賞」と企業所属の若手研究者を対象とする「情報処理技術研究開発賞」の2つの賞が発足しました.「長尾真記念特別賞」が毎年3人以内の選考であったのに対して,本賞が2名以内,「情報処理技術研究開発賞」が1名以内で合わせて3名以内となっています.

 本賞は,情報学の主要な分野の研究・開発で国際的に顕著な貢献が認められ,今後もその発展が期待される若手研究者(共同研究・開発の場合はその代表者)を毎年2名以内で顕彰するものです.受賞対象者は博士号取得後10年以内の若手研究者で,公募推薦の時期に本会正会員として3年以上経過した国内の大学または公的研究機関に所属する者としています.2023年度の公募を行ったところ8名の推薦があり,表彰規定ならびに選定手続きに基づき慎重に審議を行った結果,以下の研究業績に対して上記2名の受賞が決定しました.

平原秀一さん「メタ計算量に基づく平均時計算量の研究」
 平原さんは暗号の安全性を議論するためには平均時計算量が重要でありそれを解析する必要があるという立場から,メタ計算問題(計算問題の計算量を問う計算問題)に注目して従来のブラックボックス帰着に代わる新しい証明方法を世界で初めて見出しました.これによって暗号の安全性を示すための道筋を切り開くことができました.世界的にも高く評価されています.

大上雅史さん「生体分子の計算設計技術に関する研究」
 大上さんはバイオインフォマティックスの領域で分子の立体構造に着目し,高速に分析結果を求めることのできる情報処理技術を開発してタンパク質を始めとするさまざまな分子の立体構造を明らかにするという優れた成果をあげました.将来は有効な医薬品の分子をいかに作るかにつながる研究と期待されています.

 「情報処理」note(https://note.com/ipsj)にある,大上さん自身の記事では本人の立場から研究内容が詳しく述べられています.

 両名ともマイクロソフト情報学研究賞の受賞にふさわしい優れた研究業績があり,また本会を含む国内外の学会において活躍されています.両名のさらなる活躍を期待しています.また,これからも国際的に活躍する優秀な若手研究者を顕彰していきたいと思いますので,積極的な応募をお願い申し上げます.

(2024年5月24日受付)
(2024年7月16日note公開)