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シンガポール一風堂に展示される2枚の女性イラストを手がけた、アジアで話題のデジタルアーティスト「wataboku」氏のルーツに迫る!

2018年6月下旬、一風堂のシンガポール1号店の店内に、2枚の大きなイラストが掲示された。白シャツの制服女子、その切れ長の目がみつめる先は白と赤のラーメンどんぶり――描いたのは、wataboku(ワタボク)の名で活動する日本人男性のデジタルアーティストだ。この作品は、シンガポールのJapan Creative Centreで今年4月から開催された展覧会「wataboku first solo exibition in Singapore “感0-KANZERO”」にて、新作として発表されたもの。同展は、2016年12月に発売された1stアートブック「感0」を携え、表参道ROCKETからスタート。全国各地へ広がるなか、日本のアーティストを福岡からアジアへ発信する“GO TO SOUTH”プロジェクトとタッグを組み、2017年12月より半年かけて、台北、バンコク、シンガポール、ジャカルタでも個展を行うなど、アジア各国に広がっている。wataboku氏に、そのルーツや作品への想いを聞いた。

WORDS by KUMIKO KOJO

学生時代の感覚とつながった“制服、切れ長の目、素足”の作風

まず、watabokuとしての作風がどのように生まれたのか、最初のご自身の作品への影響から伺えますか。

wataboku:絵に対する最初の興味は家族からでした。旅館を営む父が、もともと東京で漫画家デビューし10年ほど活動していたこともあって、幼いころから絵は身近な存在で、僕も高校進学後本格的な美術の勉強を始めました。自分がこういう作品を描くようになった直接的な影響というと、画家の田代敏朗さんですね。田代さんは出身地も近くて、当時は今のような抽象画ではなく、女性を描いていて、自分もこんな絵を描きたい!って。

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wataboku(ワタボク)
佐賀県出身の日本人デジタルアーティスト。ノスタルジックな制服女子のイラストで話題となり、モデルやアーティストとのコラボレーション企画も積極的に行う。16年12月に初の個展を表参道ROCKETにて開催。その後、巡回展として国内各地での展示に加え、上海・ジャカルタでも個展を開催。17年末からアジアツアーと題して台北・バンコク・シンガポール・ジャカルタの4都市で個展を敢行。合わせて約3000人の来場者数を記録した。ファーストアートブック「感0」がポニーキャニオンより発売中。
http://www.wataboku.com/


制服女子をモチーフにしたのはそのころから?

wataboku:当時はまだ、モチーフは絞らず、男性も女性も分け隔てなく描いていました。その後、海外の「DeviantArt」 というアーティストが作品を発表できるSNSを知って。それを見ていると、女性をモチーフにした作品が多くて、そのリアルさと色使いはあまり日本にない感じで。自分も女性を描いていくうちに、「kumo」という作品で、「この白いシャツに切れ長の目の女の子には清潔感があって、ポイントが目に行くな」 って掴んだ感じがありました。雲があって蜘蛛がいる、みたいなダジャレがあったり、自分の表現したかったものってこれかなって。

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wataboku:あとは、この女性の雰囲気が自分が学生の頃にカッコいいと思っていた女の子に近くて。学校の中を裸足で歩いたり、突拍子もないことをズバッと言ったりする不思議な子で。「ああ、この感じを続けたいな」 って。そこから、絵に対する周りの反応も変わっていきました。

切れ長の目が、どの作品も印象的ですね。

wataboku:その子自身が強い目をしていたというのもあるんですけど、媚びない目というか、光を入れすぎない、ちょっと淀んだ目というか。見る側の想像力をかき立てるような目がいいなって。

時代とリンクし、進化し続けるwatabokuの表現方法

watabokuさんのデジタルアートはどんな行程で描かれるのでしょうか。

wataboku:描き始めたころは、ペンタブだとうまく描けないので、A4用紙にペンで一旦描いたものをスキャンして、Photoshopで色を付けたりしていましたが、今は下絵から仕上げまで基本デジタルですね。キャンバスに出力した時に、「これアナログですか?」 って聞かれることが多いんですけど、そういう質感は、実際にアナログで描いた水彩のテクスチャをスキャンして、それを上からのせているからなんですよね。


そういうアナログの質感が、ノスタルジックな雰囲気や制服にもマッチしていますね。

wataboku:そうですね。あとは、感情移入できるようにというのは意識しています。CGで描かれた人物って、極端に実物の人間と近くなりすぎると一気に薄気味悪くなる、“不気味の谷”現象と呼ばれるものがあるんですよね。だから、あまり気味悪がられないように、わざと絵っぽく見せるとか。レタッチもやりすぎてツルツルになるとアンドロイドっぽくなりすぎるので描き込みすぎないようにザラっとさせることは意識しています。

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解像度を高くしすぎず、ノイズを入れる感じは、今の写真表現と同時代的でもありますね。

wataboku:そうかもしれないですね。同時代的ということでいうと、「DeviantArt」で作品を投稿しはじめた直後に、ファンの方のリクエストでFacebook、Tumblr、Instagramなど、他のSNSでも発表するようになったんですけど、当時Instagramは画角が正方形のものしかアップできなかったので、僕の作品は正方形ばっかりなんですよ。ただ正方形になると、バストアップを描いても収まりが悪い時があって、丸を浮かばせたり、三角を飛ばしてみたり、色で対比させたり…別のアイデアを付加して差別化して、結果的に作品に幅が広がっていった実感がありますね。

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watabokuさんの作品は、池田エライザさんなどのモデルさんや、欅坂46のメンバーなど、アイドルやミュージシャンなどを描くことでも幅を広げましたよね。

wataboku:そうですね。もともと海外のフォロワーの方が多くて、日本でもっと知られるように、「感0」 を作るプロモーションも兼ねてそういった実在の方を描き始めました。まずは好きから入って、勢いがあって面白いことをやっている方に、「描かせてほしい」って連絡をするんですけど、もともと好きで聴いていたtricotというバンドの中嶋イッキュウさんは、すぐに承諾してくれて、その時の喜びの勢いで1日くらいで完成したんですよね。今でもこれを描いていた時の楽しかった気持ちが蘇ってきます。

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シンガポールの個展に向けて、チーム九州で生まれたグルーヴ

では、2016年12月の表参道ROCKETから始まり、今ではアジア各国で開催している個展の手応えを教えていただけますか。

wataboku:これまで、絵の印象を大事にしたいので、あまり作家として表に出たくなかったんですけど、表参道で個展をやらせてもらった時に、自分の絵を見てくれている方と直接お会いする機会がありました。そうやって、各地でみなさんと話して行くうちに、「これは無理だ」 と思っていたことから開放されて、すごく楽しかったんですよね。


この1年で、自分なりのフレームが広がっている感覚はありますか?

wataboku:それはあるかもしれないですね。現地に行って、いろんな方とお話すると、考え方も広がって、それは作品にも影響しているような気がしています。福岡のTAGSTAでの展示を経て、お客さんと一対一のコミュニケーションで作品の良さを伝えていきたいと考えるようになったのも大きな変化ですね。

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5月20日までシンガポールで開催された個展では、一風堂とコラボした新作が2点追加されました。こちらは個展後に一風堂のシンガポール1号店に展示され、応援の体制ができているとか。これはどういう経緯で?

wataboku:ありがたいですね。個展のキュレーターの方から、「日本を代表する若手作家として、同じ九州からアジアに向けて盛り上げていきたい」と、一風堂の会長・河原夫妻に相談をしたところ、作品も評価していただき、すぐに話を進めていただきました。シンガポールの一風堂では、今回の作品をランチョンマットとしてラーメンと一緒に提供してもらったり、作品の中に描かれた桜をモチーフにした「桜プリン」 というメニューを作ってもらったり、一緒にキャンペーンを組んで、一風堂のお客さんにも楽しんでもらえる形が取れて感謝しています。

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この2枚の絵はどういうコンセプトで描いたんですか。

wataboku:一般的にとんこつラーメンって、ギトギトとかニンニクとか、結構男性的なイメージがあると思うんですけど、一風堂はすごく食べやすくて、女性のことも考えているような印象があったので、絵にする時も強さよりきれいな印象を残せるように考えました。あとは一風堂の「白丸」 と「赤丸」を どうやって表現しようかなって。商業的にならず、かつ一風堂らしいものになるように、あえてラーメンの中身は見せずに描いたこともこだわったところです。

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最後に、こうして作品が広がる中で、今後の活動はどう思われていますか。

wataboku:新しい作品を描いていくことはもちろんなんですけど、例えば、フィギュアや漫画、文章とか、多角的に自分の世界観を見せて行けたらいいなって思っています。ストーリー的なところとか、もっと具体的に見せる方法もあるんじゃないかなって。そうすると作品の見え方が変わってくる。ひとつの作品で見え方が変わってくるって、面白いなって!

WORDS by KUMIKO KOJO
古城久美子

熊本市出身、福岡市経由、東京都在住のエディター・ライター。「ぴあMUSIC COMPLEX」「81JAPAN 、「宇多田ヒカルの言葉」「森山直太朗大百科」ほか。心はいつも九州に、福岡のイベンターBEA発行「BEAVOICE」でも、時折り執筆。


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