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九州での知名度100%!? 一風堂が導入する 超人気アイスクリームの“魂”に触れる旅

ブラックモンブラン、ミルクック──この名前を聞いてピンとくる人は、きっと九州生まれ、九州育ちでしょう。これらは竹下製菓株式会社(以下、竹下製菓)が手掛けるアイスクリーム。九州では知らない人がいない、というくらい絶大な知名度を誇る、アイスクリームのマスターピースです。そんな2大銘柄が、この度一風堂とコラボレーション! オリジナル仕様の特製デザートとして販売されることが決まりました。なぜ一風堂がアイスクリームを? その答えを求め、佐賀県小城市にある竹下製菓の本社工場を訪ねました。

WORDS by YUICHIRO YAMADA(KIJI)
PHOTOS by TAISHI FUJIMORI(calm photo)

九州が誇るローカルアイスクリーム

IPPUDO OUTSIDEをご覧の皆さん、こんにちは。福岡生まれ、福岡育ちのヌードル(麺)ライター・山田です。ぼくがまだ20歳の頃、大学で所属していたサークルの先輩が就職先の東京から帰省し、こう言うんです。「いやー、東京ってちゃんぽん麺がスーパーで買えんっちゃん。モツ鍋食べようと思って買いにいったら、置いてないけんね。まいった〜」。全身に衝撃が走りました。その後も、ラーメンの替玉が当たり前ではないこと、ごぼう天うどんが福岡固有の食べ物だということなど、福岡だけのローカルフード、食文化だと気がつかずに慣れ親しんだものは実に多く、ことあるごとにショックを受けて生きてきました。

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「ブラックモンブラン」や「ミルクック」もその一つです。幼少の頃から食べ続けてきたこれらのアイスは、カルビーのポテトチップスのように、誰でも「ああ、あれか」と思い浮かぶ一品であり、まさかその存在を知らない人がこの日本にいるなんて思ってもいませんでした。

竹下製菓は1894年(明治27年)以前にお菓子メーカーとして創業した老舗企業。その存在を一躍、九州内に知らしめたのが、既存の西洋菓子と併せて製造に取り組んだアイスバーでした。アイスバーの製造は1958年からスタート。冒頭で触れた「ブラックモンブラン」「ミルクック」のほかにも、最近話題の「これで朝食アイス」「つぶみかん」といった数多くの商品をこの世に送り出しています。

今回、一風堂がコラボレーションのラブコールを送った「ブラックモンブラン」と「ミルクック」は、同社の看板商品。前者は1969年、後者は1978年に産声をあげたロングセラー商品です。とりわけ、竹下製菓における最大のヒット商品、「ブラックモンブラン」は鮮烈なデビューだったと、5代目社長の竹下真由さんは教えてくれました。

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「私の祖父で、前会長である3代目・竹下小太郎がアルプス山脈の最高峰・モンブランを眺めた際、この真っ白な山にチョコレートをかけたら美味しいだろうという思いで開発した、と聞いています。当時のアイスはいわゆるアイスキャンディのようなものが主流でしたので、バニラアイスにチョコレートをコーティング、さらにクッキークランチを合わせた『ブラックモンブラン』は斬新さと高級感があり、1969年の発売開始からすぐにヒット商品となりました」

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ロングヒット商品に潜む静かな情熱

なぜ「ブラックモンブラン」「ミルクック」は、誕生から数十年以上経った今もロングセラーであり続けているのでしょうか。竹下社長によれば、前会長は根っからの職人気質で、妥協を良しとしない人物。また、まだ海外旅行が一般的ではない時代においても海外に目を向け、外のものを少しでも取り入れたいという好奇心と情熱を併せ持っていたハイカラな人物でした。「3代目は優しいというよりは厳しい人でした。仕事に向かう姿はいつも真剣で、気軽に甘えられるような雰囲気ではありませんでしたが、お菓子を作って味見をしてもらうと、真っ直ぐに向き合ってくれる。そんな後ろ姿を見て育ったので、自然と私もその道に進みたいと思いました」と振り返ります。

そんな小太郎さんの職人気質は、先代、そして竹下社長へと脈々と受け継がれます。「仮にブラックモンブランのチョコレートだけを単体で食べても、あまり美味しいとは思えないかもしれません。バニラアイスも同様に、全てが合わさった時にそれぞれの魅力が引き立つように構築されています。そして、ブラックモンブランらしさがしっかり表現されることも常に意識しています」と竹下社長は断言します。

工場見学で見た、妥協なき職人精神

今回、取材のため特別に「ブラックモンブラン」の製造現場を見学させてもらいました。現地に着くと、「ブラックモンブラン」の世界観を表現したような風車型の建物が現れ、その前には側面に大きく「ブラックモンブラン」が描かれた大型トラックが! 「ブラックモンブラン」LOVERSの取材陣、一堂テンションが上がります。

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厳重な衛生管理チェックを終えて中へ入ると、ベルトコンベアには個別に包装された「ブラックモンブラン」がどんどん流れ、その先ではダンボールでの箱詰めがなされています。その上流のほうへ向かうとアイスバーがバニラアイスを身につけ、その上にチョコレートをまとう様子が見学できました。その後、企業秘密のエリアを抜けた頃には、クッキークランチが引っ付いたいつもの佇まいに。幾多もの工程を経て製造されていく「ブラックモンブラン」の様子に感動しきりです。

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「ブラックモンブラン」を食べたことがある人ならすぐにイメージできるかと思いますが、アイスをほおばると99%の確率でクッキークランチがポロポロと落ちます。実はこれ、落ちなくすることもできるのだそう。よくよく観察すると、クッキークランチは大小さまざまで不揃いです。この大きさを均一にするとチョコレートにしっかり結合し、落ちなくなります。「ただ、そうなると味や食感にアクセントがなくなり、食べた時に平坦な印象になってしまうんです。なので粒の大きさを揃える以外の方法で地道に改善を続けてきました。少しずつではありますが、ポロポロ落ちる量も減ってきています」と竹下社長はにっこり微笑みました。

しかも、工場長さんによれば、クッキークランチのサクッとした食感が損なわれないよう、作り置きをせず、3日以内に出荷しているとのこと。このようにクッキークランチ一つとっても一切妥協なし。もちろん、この姿勢は工程全てに貫かれていて、これまで数え切れないマイナーチェンジを繰り返してきました。

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「もっと楽しく、もっと美味しく。この2つの言葉を念頭において、いつの時代においてもアイスを通して笑顔が生まれるよう、努力しています」と竹下社長は言い切ります。

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これはまさしく、一風堂が掲げる「変わらないために変わり続ける」に通じる精神。今回、一風堂がコラボレーションを打診したのも、そんな企業精神に惹かれた背景があります。作り込むなら徹底的に。そんな竹下製菓の意欲が詰まった今回のコラボレーションアイスはまさに自信作。誰もが気軽に購入できる100円というプライスの中で、とことん楽しめる商品にしたいという一風堂の気持ちに応え、商品開発に臨みました。

ラーメンの〆にアイスクリームがこれからの新常識!?

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ちなみに「ブラックモンブラン」「ミルクック」を食べる上での重要な要素といえば、お楽しみの当たりクジ。実は、今回の一風堂コラボアイスでは、当たりが出るとアイスがもう1本…ではなく、なんと白丸1杯、餃子1人前、玉子1個など、一風堂ならではの景品が用意されているのです。アイスクリームを食べて、当たればラーメンがもらえる。一風堂でしか購入できない特別仕様となっています。

熱々のラーメンを食べたら、〆にちょっと冷たくって甘いものが恋しくなるものです。〆のはずのラーメン店を出た後に、ついつい夜中まで開いているカフェに寄って、ラテやスイーツを食べてしまった経験、誰にでも一度はあるはず。この2つのアイスは、そんなニーズにもお応えする一風堂のリーサル・ウェポン。実際、こってり系の赤丸を食べた後にはシャリッとした食感が口の中をさっぱりさせてくれる「ミルクック」が、あっさり系の白丸を食べた後にはチョコとクッキークランチによるしっかりした甘みをもたらす「ブラックモンブラン」が絶妙にマッチします。ぜひ一度、〆ラーメンからの〆アイス、体感してみてください!


WORDS by YUICHIRO YAMADA
山田 祐一郎 / WRITER

日本で唯一(※本人調べ)のヌードルライター(麺の物書き)として活動。1日1麺をモットーに、地元福岡を中心に、全国各地の麺を精力的に食べ歩き、原稿を執筆する。研究対象はラーメンからちゃんぽん、そばまであらゆる麺。2015年夏には、福岡発であり、福岡初となるうどんカルチャーブック「うどんのはなし 福岡」を上梓した。日々の食べ歩きの記録は、自身が運営するwebサイト「KIJI」内で連載中。


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