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一風堂スタッフの愛読誌『RiCE』の 稲田編集長に聞く、今“フードカルチャー”を見つめる理由

私たちIPPUDO OUTSIDE編集部のスタッフが愛読しているメディアの一つに、『RiCE』というフードカルチャー雑誌があります。流行のお店がたくさん載っているわけではありません。人気度をランク付けするような本でもありません。それでも、毎号芯の通った切り口で食にまつわるさまざまな記事が組まれ、読み終わると、行きたい店や食べたい料理が山のようにインプットされてしまう、そんな雑誌です。昨年12月には待望のラーメン特集が組まれ、みんなで没頭するように読みました。そしてついには読むだけでは飽き足らず、編集長の稲田さんに会いに行ってしまいました。そこには、現代のライフスタイルにおける“フードカルチャー”の位置づけを、真摯に見つめる編集方針がありました。

WORDS by Kou Maesono

今日は貴重な機会をありがとうございます! まず、『RiCE』の創刊の経緯を教えていただけますか?

稲田:創刊したのは2016年の10月ですね。その前は『EYESCREAM』というカルチャー誌の編集長を12年間続けていて、ある種の達成感を感じて離れることになりました。でもその後半の3年くらいかな、カルチャーシーンの中で飲食が盛り上がっているなという感覚が芽生えていたんです。例えばファッションの世界でも、新しいライフスタイルのショップができたら必ず1階に食のコンテンツがあって、スペシャルティコーヒーだったりオーガニックフードだったり、そういうもので人を集めることで、ライフスタイルや洋服を提案していくという構造になってきている。かたや音楽フェスとかでも、美味しいフードスタンドなどでプラスアルファを提案しないとお客さんも満足しなくなってきているという現象があったり、映画の世界でも、“食”というのはひとつのジャンルになりつつあって、「ごはん映画祭」のようなものができたりとか。食というものがどんどん面白くなってきているし、これって世界共通の現象なのかもしれないなと。それで、新しいことをやるときに、食を真ん中に置いて雑誌を作った方がいろいろと筋が通るし、今の時代感覚やカルチャーを伝えやすいんじゃないかと思ったのがきっかけですね。

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稲田 浩
ロッキング・オン社にて、「ROCKIN’ON JAPAN」「bridge」「H」「CUT」「rockin’on」編集部に勤務。2004年カルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任後、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー&ライフスタイル誌「RiCE」を創刊した。


『RiCE』という名前はまさに食のど真ん中という感じがしますね。

稲田:お米って日本人のアイデンティティみたいなところがあるし、日本の良いものを世界に広めていきたいという趣旨もあって、その象徴として『RiCE』という名前にしました。ロゴの「R」の部分は少し角を削ってお米の形にして、創刊号の特集も「ごはん」ということでお米にフォーカスした内容でスタートしました。

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ごはん、魚、カレー、スイーツ、日本酒と、毎号シンボリックな特集テーマが掲げられていますが、どんな風に決めていくんですか?

稲田:特集については全体の流れを一番重要視しているかもしれないですね。「ごはん」でスタートして、その次は魚かな。これは産業としても漁獲量が落ちているなどの問題もあって、今まさに共有しなきゃいけないテーマとして深堀りしようと。3号目はカレーですね。これは本丸かなと。カレーとラーメンは国民食で避けて通れないと思っていた2大コンテンツです。そのあとは甘味。これも好きな人にとっては本当に生きる糧といって良いくらいテンション上げてくれるものとして、ちゃんと向き合ってみたかったし、色味的にも雑誌に相応しいなと思って決めました。5号目辺りで飲み物やアルコールをやっても良いかなということで、お米から作るという意味でも日本酒をチョイスしました。今一番盛り上がっているお酒でもありますし。最終的には、取り上げるべき理由が3つ以上あることが特集の選定基準という感じですね。

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日本酒は確かに盛り上がっていますね。一風堂も日本酒とラーメンを組み合わせた「一風堂スタンド」という業態を始めましたし。そして6号目についにラーメン特集が来ました。IPPUDO OUTSIDE編集部のスタッフ内でもすごく話題になっていて、オフィスにも置いてあるんですよ。

稲田:それはありがたいですね。でも毎号そうなんですけど、特にラーメンはどんな誌面にするか、悩みに悩んだというのが正直なところですね。いろんなラーメン専門誌を見て、新しい切り口を考えました。そんな中で、新しいお店の情報だったり、どの店が美味しいみたいなことは、すでにやっている本がある。今の時代にないものにしたいって考えていたときに、たまたま『ラーメンヘッズ』っていう映画の存在を知って、タイミングもばっちりだったので協力してもらえました。この映画の中にも出てくる「とみ田」「飯田商店」「蔦」の3店舗はオーナー同士も繋がっていて、ラーメン界のスター同士の絆みたいなものも見えて、良い具合に特集の軸ができあがりました。あとは、サニーデイ・サービスの田中貴さんの存在も大きかったですね。毎号、その食べ物について一家言ある人の力を借りて一緒に誌面づくりをするんですけど、田中さんはバンドのツアーで全国を回りながら、年間600杯食べている人。しかも、ガイドブックにも載らないような、地元の人だけが通っているようなお店を自分の嗅覚で見つけることにアイデンティティを感じている人で、そんな田中さんが選んだ100杯は、かなり独自のラインナップになったと自負しています。

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いやー、本当にこの特集は読み応えがあって、食べ歩きの参考にさせてもらっています。こんな風に雑誌を作りながら、改めて今のフードカルチャーについて思うところはありますか?

稲田:フードカルチャーって、意外と新しい言葉かなと思っていて。“食文化”と“フードカルチャー”のニュアンスって微妙に違うと思うんです。なぜ新鮮に映るのかというと、カルチャーというのは、キーパーソンやヒーロー、憧れられる存在や発信力のある人が出てきて、しかもそれが一人じゃなくて複数いて、そういう人たちがネットワークでつながっていくことで生まれるものだと思うんですね。映画におけるヌーベルバーグも、音楽におけるパンクムーブメントもそうじゃないですか。一人で成立するのではなくて、彼らがネットワークで繋がることで、場が生まれていく。そういう現象が食の世界でまさに今起きているように感じるんです。それは例えば海外におけるラーメンにも言えることで、一風堂さんもNYに出て、他にもラーメン店が増えて、日本と同じように行列ができているのは、現地では新鮮に受け止められたわけですよね。それも日本の食文化の輸出のようなものだと思うので、そういう現象もひっくるめて、コンテンツとしてこの雑誌で広めていってるような感じですね。

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なぜ今そういうフードカルチャーの盛り上がりが起きているのでしょう?

稲田:一つは世代交代じゃないかなと思います。今元気な世代は30代前後の人が多くて、それより上の世代の人たちは、ほとんど発信をしてこなかった。食=職人の世界で、「黙って美味いものを作れば人はついてくる」という考えがまかり通ってきて…。でも今は、美味しいものを作って届けるのは大前提で、それをどう人に伝えるかをやっている時代。30前後の人にはそれが当たり前になっている。SNS以降でもあるしテクノロジーの変化もあるけど、感覚やセンスがある子が飲食に向かい始めているように思います。コーヒーもラーメンも日本酒も、どの業界にもそういうセンスのある人がいるから、恐らくは自己表現の選択肢の中に食が入ってきているのかもしれないですね。それこそ、一昔前ならファッションデザイナーになっているような人が、今は飲食に向かっているような感覚があります。そして彼らはみんな自分がいいと思うものを表現しているから、すごく良い顔しているんですよね。

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確かにそうですね。先日パリのユニクロで、一風堂のUTの販売を記念して、店内でラーメンを振る舞うイベントが開催されたんですけど、それもある種、食とファッションというカルチャーの垣根がなくなって象徴的なことかなと思っています。今後も『RiCE』は、そういうシーンを追い続けていくんですね。

稲田:そうですね。日本は世界に誇るべき食文化を持っているし、食べることは生きることにつながるので、ライフスタイルをあらわす一番重要なキーになっているものだと思っています。それは、豪華なものを食べましょうとかそういうことではなくて、食って端的に人を幸せにできるもので、気の置けない仲間や家族と美味しい食事の時間を過ごすのって、人生で一番幸せな瞬間の一つなんじゃないかとも思う。それを大事にすることは、クオリティ・オブ・ライフを高めることだし、その感覚は世界共通だと思うんです。それをシェアしあうということが重要だと思っているから、バイリンガルにしているのもそういう意味合いです。ぜひ多くの方に手に取って読んでほしいですね。

楽しみにしています!

WORDS by KOU MAESONO
前園 興

出版社、編集プロダクションを経て、2011年に力の源ホールディングス入社。一風堂を始めとした社内ブランドの販促企画や、広告物の制作ディレクションに携わる。一風堂の各種SNS運用や、ウェブマガジン「IPPUDO OUTSIDE」の編集も担当。


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