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ラーメン界の巨匠4人が、フランス産小麦で新麺開発。 極上の“日仏コラボ麺”4杯を、ズズッと実食レポート!

2018年11月21日(水)、新横浜ラーメン博物館の真向かいにある「新横浜ラントラクト」で、日仏友好交流160周年を記念したコラボ麺企画「PARIS RAMEN ZUZUTTO 2018」のプレス向け試食会が行われました。レポートするのは、全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライターとして知られる井手隊長です。読むときっと食べに行きたくなる、垂涎の実食レポートをぜひ!

WORDS by IDE TAICHO
PHOTOS by SHOKI HASHIMOTO(point zero Co.,Ltd.)

1858年、日仏修好通商条約の締結前の9月13日から19日にフランス使節団が下田に訪れた。それから160年の月日が流れ、日本とフランスの交流が深まるとともに、日本料理もフランス料理も飛躍を遂げ、大きな一つの食文化になっていった。

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この度「一風堂」は、日仏友好交流160周年を記念し、「日仏友好160周年記念コラボ麺企画 PARIS RAMEN ZUZUTTO 2018」を新横浜ラーメン博物館と共同にて企画し、日本国内にて実施することになった。日本食にフランスの食材を使うことで、フランスへの関心を持ってもらい、その美味しさの違いや今後の可能性を見出していこうという狙いだ。

食の都・パリの食通を唸らせた日本のラーメン

そもそもこの活動の根底にあるのは2014年にパリで行われた「PARIS RAMEN WEEK ZUZUTTO」というイベント。食の都パリに「一風堂」を含むラーメン店5軒と、寿司、焼鳥の名店が赴き、日本が誇るラーメン文化を紹介した。このイベントが連日開場前から大行列を作るほどの話題となり、大盛況に終わる。日本のラーメンというものがフランスの食通を唸らせた瞬間だった。その頃のことを一風堂創業者・河原成美氏はこう語る。

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「『PARIS RAMEN WEEK』の1週間で得たものは本当に大きかったと言えます。パリの小さなレストランにパリじゅうの人たちが集まってくれました。日本から食材を持ち込むのが困難だったこともあり、パリの粉や食材を使って麺やスープを作りました。食材によってこんなに変わるんだ、という発見と、それを日本の味にまとめていくのが本当に楽しかったんです」

「一風堂」はその後、2016年にパリに進出し、現在3店舗を展開中だ。

フランスのバゲットの小麦粉を使って日仏コラボ麺を作る

今回はその「PARIS RAMEN WEEK ZUZUTTO」に参加した「一風堂」、「ちばき屋」、「とら食堂」、「ソラノイロ」が再集結。再びフランス産の食材とラーメンの可能性を探求すべく、4店舗がそれぞれの技術とアイデアでラーメンを作る。日仏友好交流160周年を記念したテーマは、「フランスのバゲットの小麦粉を使って日仏コラボ麺を作ること」。このテーマについて河原氏は語る。

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「今回は『主食』をテーマに置くことにしました。フランス人が主食として食べているフランスパン(バゲット)。このフランスの小麦粉を使うということで、自ずと『麺』が切り口となります。麺はパン用粉で作ると美味しいことはわかっていましたし、フランスのバゲット用の粉で作るというのは職人として大変興味がありました。これまで『麺』に特化したイベントというのはなかなか見たことがなかったですが、ラーメン職人はこれからもっと粉を勉強すべきだと確信しましたね」

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今回選ばれた小麦粉はVIRON社のフランス産小麦「ラ・トラディショナル・フランセーズ」。日本国内にて「VIRON」、「CENTRE THE BAKERY」を展開している株式会社ル・スティルの協力を得て調達した。フランスのバゲットコンクールでもおなじみの小麦であり、日本でも「VIRON」のバゲットは大人気だ。

果たしてフランスのバゲット用の小麦粉が美味しいラーメンになるのか? 4店の店主の戦いが始まった。

独創性のあるアレンジで4者4様のラーメンが完成!
ちばき屋

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「ちばき屋」店主の千葉憲二氏は日本料理の出身。日本料理で培った技術をラーメン作りに応用し、食材本来の味を生かしたやさしく奥深いラーメンで人々を魅了し続けている。2014年の「PARIS RAMEN WEEK ZUZUTTO」に参加し、ラーメンはパリでこんなにも受け入れられるのかと驚いた千葉氏。再び4人集まってイベントができることを嬉しく思う、と話した。今回、「ちばき屋」としては初の中太麺にチャレンジ。「ラ・トラディショナル・フランセーズ」は香りが強く、主張の強い麺ができるという。

●ラ・トラディショナル・フランセーズ 30%
●ゆきちから 30%
●ねばりごし 40%

をブレンド。つるっとした喉越しでかつモチモチとした麺が完成した。これに合わせるのは通常よりも厚みを持たせたスープ。あくまで「ちばき屋」のあっさり感は残しつつも、主張の強い麺に負けないスープを作った。どこまでも深い旨味、そして麺の食感、まさにツボを押さえた仕事で、さすが「ちばき屋」と膝を打つ。フランス産の小麦を見事に日本のラーメンに合わせてきた。日本料理出身の千葉氏ならではの仕事といえる。

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2011年オープン後、こだわりの野菜を使ったヘルシーなラーメン「ベジソバ」で一躍有名に。店主の宮崎千尋氏も2014年の「PARIS RAMEN WEEK ZUZUTTO」で刺激を受けた人物。パリのマルシェでニンジンなどのいろんな食材を探してラーメンを作った。美味しすぎて抱きついてきたお客さんもいたという。鶏も野菜も本当に美味しく、フランスの食材の底力を知り、当イベントの参加に踏み切ったという。今回もレギュラーメニュー「ベジソバ」にフランス産小麦を合わせた。

●ラ・トラディショナル・フランセーズ 30%
●ゆめちから 30%
●米粉 40%

という配合でブレンドして作った平打ち麺。敢えて「米粉」を使うことで「日本」を表現している。更に全粒粉も混ぜることで香りも演出している。ニンジンの甘みが広がるスープにアサリを使った塩ダレを合わせる。香味油はレンコン油だ。非常にまろやかなスープに仕上がっている。具がバリエーションに富んでいるので、どこを食べても違う味がして面白い。なのに、全体のバランスが保たれていて不思議だ。麺も具やスープと一体となって違和感なくスッと入ってくる。横に添えられた赤い柚子胡椒とマスカルポーネクリームで味変もできる。ラーメンの可能性を追求した一杯だ。

とら食堂

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そして「白河ラーメン」の老舗「とら食堂」の登場だ。木の棒や青竹で打つ手打ち麺が何と言っても特徴で、その技術はなかなか真似できないものだ。今回も店主の竹井和之氏が手打ちで打った自家製麺が提供されたが、その麺が驚きだった。なんと

●ラ・トラディショナル・フランセーズ 100%!

全てをフランス小麦で仕上げてしまった。しかもそれを伝統技法である手打ちで作るというとんでもないチャレンジに打って出た。ある意味真っすぐで、竹井氏がフランス小麦と真っ向から向き合った麺だ。「ラ・トラディショナル・フランセーズ」はグルテンが少なく打ちやすい粉で、そば粉に似ているとのこと。細めの縮れ麺だがムチムチで物凄い弾力に驚く。敢えて日本らしさに寄せず、フランス小麦らしさを残したままラーメンに合わせた、竹井氏の素直な一杯だ。

一風堂

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「一風堂」は今回の4店舗で唯一の白濁した豚骨スープだ。「一風堂」の通常のスープに麺を合わせても、フランス小麦の主張が出づらい。そう考えた河原氏は、麺にあるものを練りこむことを思いついた。粉の配合は下記の通り。

●ラ・トラディショナル・フランセーズ 50%
●ゆめちから 50%

この麺に練りこんだのはなんとブラックペッパーとオレガノ。豚骨のマイルド感にペッパーのハードな辛さと香りをぶつけたのだ。このぶつかり合いが意外にも面白く、自ずと箸が止まらなくなる。麺は通常よりもザクザク感が増し、最後にモチっとした食感が残る。トッピングにはチャーシュー、九条ネギをチョイスし、シンプルに仕上げている。

そして、なんとラーメンとは別にVIRON監修の50gのバゲットが付いている。バゲットをスープにどっぷり浸けて食べてみてください、と河原氏。洋食でパンをスープに浸して食べる要領で、ラーメンのスープに浸けてみる。すると、麺とはまた違ったしっかりした歯ごたえと小麦の甘みが感じられ、新たな美味しさが楽しめる。麺とパン両方でVIRONの小麦が味わえるオイシイ一杯だ。

バゲットの作り手が思い描く、食の日仏交流の未来

4つのラーメンを食べ終えた株式会社ル・スティルの西川隆博社長はこう語る。

「この小麦がラーメンに合う部分と合わない部分をしっかり見定めて麺を作ってくださっていますね。日本の小麦がラーメンに合うように、フランスの小麦もラーメンに合わせていけると思っています。いずれは『一風堂』と一緒にラーメンに合う小麦を作るところまでいければいいなと思っております。それがパリから出て、またそれが日本に広がっていったら最高ですよね」

フランスのVIRON社の社長であるアレクサンドル・ヴィロン氏も会場に駆け付けた。ヴィロン氏は4杯のラーメンを完食し、今後の可能性についてこう語った。

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「ル・スティルの西川社長に出会って、日本食が多様化していることとフランス料理との違いを知ることができました。今回、VIRONの小麦を使ってラーメンを作るということで、我々では考えられないような発想が次々出てきてビックリしています。このチャレンジ精神は素晴らしい。フランス人にとっても大変興味のあるチャレンジです」

ラーメンを通じて日仏の結束を深めるとともに、フランスの食材の魅力を最大限に引き出そうと試行錯誤する4人のラーメン職人。日仏のコミュニティだけではなく、食文化の発展にも自ずと繋がるし、世界のラーメンの今後の可能性をも秘めた活動になると信じている。

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WORDS by 井手隊長(いでたいちょう)
ラーメンライター / ミュージシャン

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA.dot、文春オンライン、Rettyグルメニュース、るるぶNEWSなど数々の媒体でラーメンコラムを執筆。その他、コンテスト審査員、番組・イベントMCなどでも活躍中。自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。 その他、ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。


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