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今度のコラボはnonnative!街着としても着たくなる、 一風堂サンタモニカのユニフォーム誕生秘話。

ENGINEERED GARMENTSとニューヨーク店とのコラボレーションからスタートした一風堂のユニフォームプロジェクト。パリ・サンジェルマン店はMIHARAYASUHIRO、日本国内店舗はANREALAGEと続き、名だたるドメスティックブランドが手がけるユニフォームは飲食業界の枠を超え、ファッション業界においても強烈なインパクトを残してきました。

今秋のサンタモニカ店のオープンにあわせて、新たなブランドとコラボレーション。そのユニフォームを手がけるのはnonnativeです。デザイナー藤井隆行氏へのインタビューと、サンタモニカ店のあるロサンゼルス現地で行なったフォトシューティングもご紹介します。

INTERVIEW

nonnativeによる一風堂サンタモニカ店のユニフォーム。
デザイナー・藤井隆行さんのワークウェア論とは。

nonnative(ノンネイティブ)といえば、ノーカラーのトップス、テーパードパンツやリブパンツなど、昨今のトレンドともいえるシルエットやディテールを、流行になる遥か前から提案してきた唯一無二のブランド。デザイナーの藤井隆行さんは独自のクリエイションをつねにアップデートし続けています。そんな孤高の存在は、初となるユニフォームの別注、しかもラーメン店からのオファーをどのように昇華したのでしょうか。藤井さんが自身のワークウェア論を交えて解説します。

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一風堂の仕事を受けて、娘たちが喜んでくれた(笑)

―今回オープンするサンタモニカ店のユニフォームを一風堂がnonnativeに別注したわけですが、オファーを受けたときの心境はどうでしたか。

藤井隆行:率直に嬉しかったですね。ガーメンツ(ENGINEERED GARMENTS)とコラボしたNY店のユニフォームが衝撃的だったし、すごく男っぽくてかっこよくて、普通に欲しかったくらいだから。僕は海外に行ったら結構日本食を食べるんだけど、あれがきっかけでニューヨークの一風堂に行きましたね。

―藤井さんが思う一風堂のイメージを教えてください。

藤井隆行:ニューヨークの一風堂はダイニングという感じで、日本とは目的意識が違うというか。日本のラーメン店だと食べたらさっと帰るじゃないですか。海外だとラーメンは高級志向で日本食とミックスされているから、ちょっとヘルシーに向かっているのかな。僕は以前、駒沢公園の近くに住んでいたから、駒沢公園のお店には家族で行ってました。今回の仕事を受けたことで、僕の娘たちが喜んでくれて嬉しかったですね。

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すべてのメンズファッションはユニフォーム

―nonnativeのプロダクトには人物を連想させる固有名詞が付いています。2018AWシーズンとSSシーズンでは、ALPINIST, HIKER, LAWYER, HANDYMAN, GARDENERなどが挙げられますが、こういった肩書きや職業を付けるフォーマットを貫いているのはなぜですか?

藤井隆行:nonnativeのプロダクトは働く男が着ているというイメージであって。ドクターはラペルのコートを着ていそう、ハンディマンは何か作ったりすると必ず汚れていそう、とか。洋服ってある程度着たら洗ったり手入れしたりするでしょう。そうやってアジのあるものになっていく経年変化を含めて、働く男をイメージして名前を付けていて。だから、今回の一風堂のユニフォームも僕としては特に違和感はないんですよ。

―nonnativeのプロダクトはワークウェアであり、ユニフォームでもあるということですか?

藤井隆行:そう。世の中のメンズファッションはすべてユニフォームだと思うんですよ。メンズファッションの起源は女性とまったく違うところにあって、戦国時代に武将が着ていた鎧だってユニフォームじゃないですか。だから、良い意味で僕がデザインしている洋服は本物ではないというか。オリジナルをアップデートして、その時代のライフスタイルに応じた機能性やディテールを考えていくんです。

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―ワークウェアやユニフォーム的な洋服にGORE-TEX®やWINDSTOPPER®といった高機能素材を採用するあたりがnonnativeらしさというか。

藤井隆行:僕のなかではミリタリーウェアもアウトドアウェアもワークウェアも全部一緒なんですよ。今やパタゴニアも軽量の生地を使ってハイブリッドなワークウェアを作っているし、そうやって新しく更新していくのはすごく面白いと思いますね。

―藤井さんがこれまで影響を受けたワークウェアやユニフォームって何ですか?ENGINEERED GARMENTSの鈴木大器さんはUPSのユニフォームがすごくかっこいい、昔のワークウェアは必要に迫られて作られたものだから好きだと話していました。

藤井隆行:何年代の何々みたいな影響って実はあまりないんだけど、50’Sの登山家の格好とか、アウトドアウェアと呼ばれるものが生まれる前のものが好きですね。運搬とミリタリーグッズとか。その時代の写真集を眺めていても、ミリタリーとアウトドアのための格好が同じだったことがわかるというか。初めて行ったコロラド州とかモンタナ州のアウトドアショップ店員の格好とか、めちゃくちゃかっこよかったですね。

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サンタモニカは初めてアメリカを旅したときに辿り着いた街
―nonnativeがファッションブランド以外とコラボレーションに取り組むことは今回が初めてだと思います。クライアントの存在やそれに伴うテーマ設定は通常のコレクション制作と考え方が異なったり、ものづくりに制約があったりしますが、どんなプロセスで制作を進めていったのでしょうか。

藤井隆行:海外に行くと土産物を買ったりするじゃないですか。それをラーメン屋に落とし込むと、Tシャツとキャップは考えやすかったですね。そもそもラーメン屋で洋服を買う発想はないけど、海外の一風堂は価格帯が割とハイクラスでラーメン一杯15ドル以上なんて、日本ではないじゃないですか。でも、それを求めている人たちがいるということは洋服を買う可能性もありえるのかなって。ユニフォームの型は2018SSコレクションの「THAT HANDYMAN SERVICE」がイメージに近かったので、そこから応用しました。

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―2018SSコレクションは特にワークウェア・ユニフォームという点がわかりやすいコレクションでした。一風堂の新店があるサンタモニカというエリアはどのように捉えたのですか?

藤井隆行:初めてアメリカを旅したときに辿り着いたのが偶然にもサンタモニカなんですよ。当時18,19歳だったから20年以上前になるのかな。だからサンタモニカは未だに懐かしい感じがする街ですね。当時はパタゴニアのショップがある通りはなかったし、もっと観光地に近い感じだった。

―今回、藤井さんがデザインしたサンタモニカ店のユニフォームはビーチがあるサンタモニカの雰囲気を感じないというか。メインカラーがオリーブですし、海のある観光地の要素は一切ありませんよね。でも、その辺りがnonnativeらしいというか。

藤井隆行:サンタモニカがあるロサンゼルスには主に古着を買いに行った思い出があるんですよ。そのイメージがオリーブグリーンとかインディゴだから、ビーチの緩やかな雰囲気は盛り込まなかった。違和感がありながらユニフォームに見えなきゃいけないことを踏まえると、全身オリーブで軍人がラーメンを作っているイメージが面白いのかなと。ハメス・ロドリゲス(コロンビア代表のサッカー選手)みたいな若い男前のメキシコ系アメリカ人が働いている姿をイメージしてつくりました(笑)。

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研修の段階からユニフォームを汚してほしい
―プロダクトのディテールについて聞かせてください。ノーカラーのジャケット、ロング丈のプルオーバーシャツ、パンツはカーゴパンツ、この3つのアイテムにはミリタリーの定番素材でもあるリップストップを使っていますよね。

藤井隆行:古着でいうとコーデュロイもありかなと思ったけど、ラーメン屋のユニフォームとしては絶対に暑いでしょう。リップストップは裂けにくいのが特徴だけど、今回使ったのは生地自体が高密度で薄く、乾くのが早くて、かつすごく軽いものなんです。レイヤードしてもそんなに暑くないし、ワークウェアとしても合理的であって。

―キャップのお話がありましたけど、バンダナに着地した辺りもnonnativeらしいと思います。

藤井隆行:個人的にはバンダナを巻いているほうがかっこいいかな。スタッフがリバティプリントのバンダナを巻いているラーメン屋なんて、世界中で一風堂のサンタモニカ店だけじゃないかな。コットンだから洗えるし、すぐ乾くのもワークウェアとしての条件を満たしていると思います。

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―Tシャツの胸のワンポイントにはThat Nonnative Productionのロゴと一風堂のシンボルが入っていますが、これはまさにお土産物の発想ですよね。

藤井隆行:そうですね。本当は“サンタモニカ”と“ノンネイティブ”ってカタカナで入れたかったんだけど、それは逆にNGでした(笑)。バンダナ以外のアイテムには一風堂のシンボルを必ずプリントしていて。着続けることでかすれていく経年変化を想定していますね。

―一風堂サンタモニカ店のためにアップデートしたポイントを教えていただけますか?

藤井隆行:機能的だと主張するのは好みではないから、ノーカラーのジャケットとプルオーバーシャツは通気性を良くするための穴を脇に開けたくらいで。女性スタッフがいる可能性を想定して、ジャケットはウエストを絞れるものを選びました。プルオーバーシャツは着丈が長いから、汚れてもいいようにエプロン感覚で使ってもらいたいですね。カーゴパンツもプルオーバーもスタッフがペンやメモを入れられるポケットが沢山付いていて。あとは今年リリースしたVANSに別注したSK8-HIもサンタモニカ店のスタッフ用にキープしておいたんですよ。実際に僕が知っている内装屋の人とかは大抵VANSを履いていて、ワークに最適なシューズかもしれないなって思っています。あと、やっぱりスタイリングに自社の靴は絶対に必要です。

―僕が知っている内装屋の人もVANS履きつぶしてストックしています。

藤井隆行:でしょう。買い替えることを前提に、グリップがいいことと汚れてもいいからって評価する人が多くて。そういう意味でも、サンタモニカ店のスタッフの人たちにはユニフォームを早く汚してほしい。それこそ研修の段階から(笑)。穴が空いたら、繰り返し修理したら面白いだろうし。パンツは短パンにカットオフしてもいいかもしれない。

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働く人のテンションが上がると、きっと世の中が良くなる
―一風堂とのコラボレーションを通じて、藤井さん、あるいはnonnativeにフィードバックがあるとすれば、どんなものでしょうか。

藤井隆行:このユニフォームを着たスタッフを実際に店で見たときにはじめて感じることがあるんじゃないかな。今回は化学繊維を使いたくなかったんですよ。化繊が汚れる感じはあまり好きじゃなくて、コットンには油で汚れてもかっこいい独特の風合いがあるんです。だから、1,2年後の経年変化を見るのが楽しみ。もうひとつ、このユニフォームのあるコンセプトしては、そのまま街着として遊びに行けるということだから、スタッフの人たちには着替えるというよりは、ユニフォームのまま街やクラブに繰り出してほしいですね。

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―今回はラーメンとの協業ですが、興味のある業種・ジャンルはありますか?

藤井隆行:やりたいのはスポーツかな。スーツとユニフォーム以外のベンチコートとかに、どうしてGORE-TEX®とかを使わないんだろうって疑問なんですよね。強いて競技を挙げるならば、ファッションと交わっている印象のあるサッカーですかね。ファーストフード店とか運送業にも興味があります。ユニフォームがきっかけで働く人のテンションが上がるならば、きっと世の中が良くなるでしょう?

―たしかに、今はそういう時代かもしれませんね。

藤井隆行:個人的にはnonnativeがコラボするから大丈夫みたいな安心感が出ないようにしたくて。nonnativeだからいいのではなくて、「これ、どこの洋服?」というストーリー展開のほうがクライアントにとっても幸せだと思うんです。nonnativeじゃなければいけない理由を語れたりすると、お客さんはラーメンの味を美味しく感じたり、一風堂の目利きの良さみたいなものも伝わったりするだろうし。一風堂が目指しているのはそこだと思いますよ。

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―藤井さんの洋服作りの核にワークウェア・ユニフォームという要素があるということがわかったのが大きかったです。これからも働く人を連想させるnonnativeの洋服づくりは変わりませんか?

藤井隆行:やっぱりそれが基本だから。ドレスとフォーマルの部分は自分にそういったシーンが冠婚葬祭以外にないから、そこは無理にやる必要はないですし。リアルクローズを軸に、その都度やっていけばいいことであって。

―ワークウェアは生きるための洋服だと言えると思いますし、自分をプレゼンテーションするための洋服が馴染んでいくと、その人のユニフォームになっていくのかもしれませんね。

藤井隆行:そうそう。たとえば、レコードショップのユニフォームなんかはほぼ私服なんだけど、その人が着ている洋服で働いている姿勢とか考え方がわかるというか。Tシャツを見るだけで、この人はヒップホップ、パンクが得意なんだろうなってわかるじゃないですか。そうやって意思表示が伝わるユニフォームが理想ですね。

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藤井隆行
1976年生まれ、奈良県出身。武蔵野美術大学 空間演出デザイン学部を中退後、セレクトショップで経験を積み、2001年よりデザイナーに就任。以来、独創的で洗練されたモノづくりを展開、nonnativeの世界観を確立してきた。

nonnative
1999年創立。洋服とは、人生を投影するための道具である。nonnativeは、そんな普遍的なアーカイヴ(道具)の中から、用途に合った生地・丈夫な縫製・実用的なディテールといった「機能」を抽出。時流にあったシルエットに再編集している。都市生活のみならず、様々な場所やシチュエーションに適応する東京発の新スタンダード。
http://nonnative.com

COVERCHORD
COVERCHORD(カバーコード)は、衣食住、旅を楽しむライフスタイルを提案する東京発のメンズ・レディースのオンラインセレクトショップです。
https://coverchord.com
NONNATIVE for IPPUDO

WORDS by 加藤将太
編集プロダクション・OVER THE MOUNTAIN代表。世田谷・松陰神社前と山梨県甲府市にオフィスを構える。紙・ウェブ媒体のクライアントワークから自主企画のイベントまで、さまざまな領域の編集を行う。「ひと山越える」を意味する屋号に込めたのは、クライアントの課題を解決し続け、自らも更新し続けるという心。
http://over-the-mountain.jp

CREATIVE DIRECTION by 小梶数起
クリエイティブエージェンシー・ziginc.代表。国内外のアパレル、コスメ、フード、ホテル、テーマパーク事業におけるコンセプトワークから商品開発、デザイン、プロモーション戦略まで幅広く携わる。業種、業界、国の垣根を超えた既成概念を覆すプランニングを得意とし、世界文化遺産や日本伝統工芸にも精通するクリエイティブディレクター。本サイト、IPPUDO OUTSIDEの発案者であり一風堂サイトデザインも手がける。日本グラフィックデザイナー協会正会員。
http://ziginc.co.jp
CROSS TALK #06

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