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『ラーメン大好き小泉さん』著者・鳴見なるさん流、ラーメンとの“幸福な”付き合い方

2018年1月からTOKYO MX系列他で放映されているアニメ『ラーメン大好き小泉さん』が話題を呼んでいます。タイトル通り、ラーメンをこよなく愛する女子高生・小泉さんが、実在するラーメン店を食べ歩き、マニアックなラーメンの知識と情熱を披露していく物語。 第4話の放映では、「赤or白」というタイトルで、一風堂も登場しました。この作品の原作者が、漫画家の鳴見なるさん。今回、放映後の反響への御礼も兼ねてインタビューを打診したところ、ありがたいことに快諾! 忙しい執筆活動の合間を縫って、ラーメンを好きになったきっかけや、日々のラーメンとの付き合い方など、いろいろと伺いました。
©鳴見なる・竹書房/「ラーメン大好き小泉さん」制作委員会

WORDS BY KOU MAESONO

きっかけは、小学生のときに食べた博多とんこつ。

インタビューに入る前に、ご覧いただきたいのがこちらのグラフ。一風堂が登場した4話目の放映直後に、Twitter上で「一風堂」のキーワードが急上昇したのです。

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「やばい、一風堂行きたくなった」「小泉さんの影響で一風堂来てしまった」といったツイートも多数。とにかく圧倒的に見る人の“ラーメン欲”を刺激してしまうこの作品。そんな作品の魅力を探るべく、まずは鳴見さんがラーメンにハマるきっかけから尋ねてみました。

鳴見さんはいつからラーメンを好きになったんですか?

鳴見なる:実は小学校低学年の時に福岡に住んでいたことがあって、その時に食べた博多豚骨ラーメンがきっかけでラーメンが好きになったんです。その頃はまだ小さいので、おうちで『うまかっちゃん』を作ってもらうか、たまに親に連れて行ってもらう程度ですけど。いろんな店に通うようになったきっかけは、高校生の時です。当時通っていた塾の模擬試験が、知らない地域の大学とか予備校の校舎であったんですよね。その時に毎回、試験終わりのご褒美として、試験会場近くのラーメン屋さんを調べて食べ歩くようになったのがきっかけです。

高校生の頃から食べ歩き! まさにリアル小泉さんを地で行く女子高生だったのでしょうか?

鳴見なる:いや、全然ですね。小泉さんはお金のことも気にせず、どんどん遠征とかもして食べ歩いていますけど(笑)。あくまでお小遣いの範囲内でしたし、マニアックに追及するという訳でもなく、ここ美味しそうだなというセンサーに導かれて、少しずつ…。だから、自分がそんなにラーメンマニアという自覚は今もあまりないんです。

ラーメンの漫画を描こうと思ったのは、どういうきっかけだったんですか?

鳴見なる:食をテーマにした漫画を描きたいなという気持ちがあったんです。小泉さんの前に農業の漫画(注:『JA~女子によるアグリカルチャー』)を描いていたんですけど、それに触れているうちに食のことを考えるようになってしまって。何かしら死ぬ前に漫画で形に残せたらと思っていたところに、今の竹書房の担当の方が「面白いね」って言ってくれて。

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漫画には実在のラーメン店がたくさん出てきますけど、どれくらいの頻度でラーメン店に行かれるんでしょうか? 店選びのポイントなどあればぜひ教えてください。

鳴見なる:年間365杯以上は間違いなく食べています。もちろん食べない日もあるんですけど、地方遠征をすると一日5杯とか、そういう日もあるので。店選びは相変わらず感覚で、最近ではこの連載もあるので、周りのスタッフやTwitterのフォロワーさんが教えてくれたりもしますね。こないだも沖縄で山奥のラーメン屋さんに行きました。

美味しいと思ったもの、感動したことを描く

それだけ行く中で、鳴見さんなりの“良いラーメン屋さん”の定義というのはありますか?

鳴見なる:考えてみたんですけど、こうでなければならないというのはなくて。お店の方は、絶対美味しいラーメンだっていう気持ちで出しているし、サービスにしても内装にしても、何かしらの想いや狙いがある。新しい店でも、再訪問する店でも、そういうのをあとから発見するのが楽しいんです。例えばこの前、東小金井の『くじら食堂』さんに半年ぶりくらいに行ったんですけど、照明が変わっていたんですよね。記憶違いだと恥ずかしいんですけど、照明がちょっと柔らかくなっていて、それがすごく良いなって。何でかというと、蛍光灯より暖色系の照明の方が、夜のメイク崩れのようなものが分かりにくくなるから。だからか分からないですけど、カップル客とか女性客とかがめちゃくちゃ増えていて。仕事している女性の方は通いやすくなったんじゃないかな。

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なるほど、確かにそういう視点で見ると面白いですね。そう考えると、小泉さんの描かれ方って、若い女性がラーメン屋さんに行くのにすごく参考にもなっているような気がします。髪留めとか、持って行くべきものリストとかも描いてありますし。

鳴見なる:私のフォロワーさんの中には、以前から筋金入りのラーメン好きの若い女性も多いので、そういう人からは「ブームで行ってると思われるのがイヤ」という方もいますけど(笑)。でも、そういう風になってくれたらいいなとは思います。それこそ一風堂さんも、女性が入りやすいというのは感じますよね。福岡に住んでいたときも、母親が好きでよく通っていましたし、よくよく考えたら私、一風堂さんはあまり一人で行ってないかもしれない。女友達を連れていくことが多いんです。特に豚骨ラーメンを食べたいという人がいたら、「まずは入り口として、一風堂はどう?」みたいな。あと今、豆腐を出してますよね(※一部店舗にて期間限定で提供している「白丸とんこつ豆腐」のこと)? 糖質制限している友達がいて、豆腐もあるよなんて言って連れていったり。そういう時に重宝しています。

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すごい、本当にお詳しいですね(笑)。あとやっぱり、描かれているラーメンも店舗デザインも本当に実物に忠実で、よく見てくださっているんだなと感動します。

鳴見なる: やっぱり実在したもの、しかもその時自分が食べて美味しいと思ったものや感動したことを描いているから、そう言っていただけるのは嬉しいです。漫画の中では具体的な店名まではハッキリ語ってはいなくて、分かる人が分かるくらいの感じで描いているんですけど、ちょっとした描写でも細かく拾って気付いてくださる方がいるとびっくりしますし、感動しますね。

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ラーメンに優劣をつけると、本質的なものが楽しめない

あと個人的に読んでいて感じるのが、ラーメンを“区別していない”ということなんです。例えば一風堂のように全国展開している店も、個人店主の店も、ファミレスや寿司チェーンのラーメンも、もっというとカップ麺まで、取り上げるラーメンがさまざまで、どれも等しく敬意を持って扱っているように思えて、ラーメン好きとしてはとても素晴らしいなと思っています。

鳴見なる:みんな別ですよね。それぞれに魅力があって、そのレールごとに楽しみたいというのがあります。その方が楽しくないですか? どうしてもランキングとか評論とかになると、いっしょくたのレールで考えられてしまうんですけど、そうなると優劣を付けることになって本質的なものが楽しめないと思うんですよね。だからなるべくラーメン屋さんでもボーっとして、というかフラットに、その店を楽しむようにしています。今日も東長崎の『カネキッチンヌードル』さんでラーメンを食べてきたんですけど、『あ、ここのお箸使いやすいな』とか。職業柄もあるんですけど、ペンをずっと持つので握力が弱くなってる時に持ち上げやすい箸だと、その心遣いが嬉しいなと思ったり。ラーメンに限った話じゃないんですけど、こんな風に何事も純粋に楽しみたい。比較した段階で楽しくなくなっちゃうから。

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印象に残っているラーメン屋さんでの出来事などありますか?

鳴見なる:いろいろありすぎるんですけど(笑)、最近だと昨年のクリスマスですね。クリスマスだからみんなチキンを食べるはずと思って、行列のできるラーメン屋さんに行ったんです。でも同じ思いの方々が結局すごい行列をなしていて。成増の『べんてん』さんにまず行ったんですね。お昼2時間くらい並んで食べて。夕方になったら友達が近くにいるというので、巣鴨の『蔦』さんに行ったら、やっぱり並んでいて。その時に、初めて『小泉さん』の話をしているお客さんが目の前にいて、ドキドキしながら聞いていたんですけど、「あれはフィクションだから、あんな風に一日に何杯も食べる女性はいない」って。いや、ここにいるのになーと、友達が横で笑いをこらえていて(笑)。さらにその後、チキンの入ったラーメンを食べたくて河辺の『丸孫商店』さんへ。結局3杯食べました(笑)。

ドラマ化、アニメ化と作品が羽ばたいていますが、今後の展望なども教えてください。

鳴見なる:あまりこういう状況になることは予想していなかったというか、みんなラーメン好きなんだなって(笑)。でもこうして自分の作品がコミックとして出るのは簡単なことじゃないので。ラーメンも同じだと思うんですけど、ラーメン一杯出すってすごいことじゃないですか。まず食材がないとできないし、流通する人もいなきゃダメだし、そこで作る人や配膳する人、お客さんがいないと成立できないし。割と本もそうで、一冊出ることが奇跡なので、今後も謙虚にマイペースにやれたらと思います。いつか福岡のラーメンの話も書きたいですね。長浜とか久留米とか、同じ豚骨でもバリエーションがあるので、どうやったら伝わるかなというのは結構考えています。

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楽しみにしています! 最後に「小泉さん」を通じて鳴見さんが伝えたいことはありますか?

鳴見なる:『小泉さん』を描くときに意識しているのは、ラーメンを別に好きじゃない人にも興味を持ってもらいたいということ。それは、この作品の中での『ラーメン』を、仮に別のものに置き換えても成立するくらいの熱を残したいということですね。そういう熱量が伝わる作品にしたいと思っているし、周囲の雑音が気にならないくらい集中できるものを見つけるのって、生きる上で大事なことかなと思うので。好きなものをとことん突き詰めるという姿勢は強調したいというか、忘れないようにがんばろうと思っています。


■鳴見なるさん プロフィール
漫画家。現在「ラーメン大好き小泉さん」の他、「渡くんの××が崩壊寸前」を連載中。
https://twitter.com/naruminaru3


■アニメ『ラーメン大好き小泉さん』
http://ramen-koizumi.com/
※毎週木曜22:00~TOKYOMX1他にて放映。

WORDS by KOU MAESONO
前園 興

出版社、編集プロダクションを経て、2011年に力の源ホールディングス入社。一風堂を始めとした社内ブランドの販促企画や、広告物の制作ディレクションに携わる。一風堂の各種SNS運用や、ウェブマガジン「IPPUDO OUTSIDE」の編集も担当。

 

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