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能登半島義援金チャリティアンソロジー『ともしびかかげて』

通常の一筆献納のアンソロジーは、印刷費・委託手数料を除く収益全額を「公益財団法人日本財団 災害復興支援特別基金」へ寄付しています。
これは、今後に起きるであろう災害に対する復興支援のための基金で、特定の災害のために使われる義援金とは異なります。
このため、一筆献納は番外編として「日本赤十字社 令和6年能登半島地震災害義援金」へ寄付するチャリティアンソロジーを別途立ち上げました。

日本遺産に登録されている能登半島の祭礼「キリコ祭」の灯籠から想を得て、アンソロジーのテーマを「ともしび」、タイトルを『ともしびかかげて』といたしました。
また、印刷は熊本地震で被害を受けた熊本県益城町のプリントオン株式会社さまにお願いいたしました。

毎年のように天災は起こり、どこかしらで被害を受け、素人の手すさびであっても創作活動は脆い平穏の上にかろうじて成り立っているものだと痛感させられます。
この企画が、ささやかながら能登を照らす灯りのひとつとなれますよう願っております。

『ともしびかかげて』書影

 
このアンソロジーは冊子版と電子版の2つの媒体をご用意いたします。

◆冊子版(A5判/96頁/500円/装丁協力:工房ふじさま)

5/26の東京COMITIAより頒布開始。1冊につき300円「日本赤十字社 令和6年能登半島地震災害義援金」への寄付となります。
オフラインイベントで頒布の際は、都度サイト・note・Twitterblueskyfedibirdでお知らせいたします。
オンライン通販は「架空ストア」さまにて5/26 9:00より開始いたします。上記頒価に委託手数料100円が加算されますがご了承ください。

◆電子版(150円)

このnoteのマガジンとして有料公開いたします。
マガジン売り上げから手数料を差し引いた全額「日本赤十字社 令和6年能登半島地震災害義援金」への寄付となります。


掲載作&試し読み(動画版)


掲載作&試し読み(テキスト版)

ゆりなあと愉快ゆかいふね「神話の始まり」 
 
 原初、始まりはすべて闇のなかにありました。星々のない、明けない夜のさなかにあって、人々は不和と混迷に苦しみ喘いでいました。夜の女神は天上で、自身も人々の光でありたいと、光を成す存在でありたいと願っていましたが、彼女の黒々とした豊かな髪も、鈍くまばゆく輝く肌も、柔らかな雲の羽衣も、人々への慈悲深い眼差しでさえ、この世界に夜の帳を下ろし、ますます暗い影を落とすだけで、人々の心に安寧をもたらすことはできなかったのです。
 死の支配者にして冥府の王、冥帝は彼女の最愛の夫でした。夜の女神と冥帝は、同じ大いなる混沌から産まれた姉と弟であり、兄と妹であり、そして仲睦まじい夫婦でもありました。

ゆりなあと愉快な船 
 
【 Twitter(X) ID 】@yuri_summers 

龍魔りゅうまげん「道しるべ」 

 人気の無い、辺鄙な森の果ての岬に、輝く星が宿った。
 その光を持ち上げるように、地中からむくりと小さな木の苗が立ち上がり、十年ほどで、その十倍の年月を経たような、大きな樹木となった。かつて星のものだった光は、そのてっぺんに煌々と輝いて、いつしか、その岬の近辺の海を通う漁師たちの標となった。
 海の狩人から噂は広まり、やがて、森の狩人へ。そして、木樵や薬草採り、それらを買い上げる商人たちに、噂が広まり、町へと広がる。幾人かの若者が興味本意の遊山で物見に出かけ、実物を見る。
 噂は、広がる。
 その光を宿す樹木は、海のみならず、地上の者にもいつしか、道しるべの象徴となった。

龍魔幻 

  【 サークル名 】幻創文楽舎
  【 URL 】https://role-r.com
  【 Twitter(X) 】@genryuma 

せらひかり「小さな魔女とランプ祭り」 

 日が暮れると、手作りの小さなランプにともしびを入れる。ランプのガラスにはいろいろな模様が描かれていて、灯火でゆらめく色影は、街路をきらきらと彩った。

せらひかり 

  【 サークル名 】hs*
  【 URL 】https://hswelt.sakura.ne.jp/
  【 Twitter(X) 】@hswelt
  【 小説家になろう 】318534
  【 カクヨム 】hswelt 

野間のまみつね「真昼の角灯」 

 ケルリ王国の都ニフティスから程近い古代遺跡で見付けた、火蜥蜴サラマンダーのあしらわれたその手提げ灯ランタンの台座には、一般魔道文字ジェネラルを刻んだ銘板が付けられていた。
 いわく――〝真昼の角灯ランタン〟と。
「えーっ、昼間用? 何それ、役に立つの?」
 遺跡の隠し部屋を見付けてくれた小柄なハーフキトゥン女性が、私の読み上げに、呆れたような感想を洩らした。

 およそ七百年前に滅亡した古代ダランバース魔道王国時代の遺跡は、王国の支配が行き渡っていた世界リファーシア各地に存在している。
 私、セルリ・ファートラムは、現代に残る魔道ソーサラーマジックの呪文を二十一歳で修得し尽くしてから故郷ニフティスに帰り、〝失われた呪文〟がしるされた古代の呪文書を手に入れるべく、長期滞在可能な安宿に腰を落ち着け、所謂いわゆる冒険者アドベンチャラー〟を雇っての遺跡探索に乗り出していた。
 冒険者とは、怪物モンスター退治や遺跡探索などで生計を立てる、様々な〝技能スキル持ち〟である。

野間みつね

  【 サークル名 】千美生の里
  【 URL 】https://mitsune.jp/
  【 Twitter(X) ID 】@Mitsune_Noma
  【 タイッツー 】https://taittsuu.com/users/mitsune_noma
  【 ノベルスキー(Misskey) 】https://novelskey.tarbin.net/@Mitsune_Noma
  【 Bluesky 】@mitsune-noma.bsky.social

香月かづき優希ゆき「星夜の願い」
  
 十歳の姫沙夜キサヤは、すみれ色の瞳を目一杯開けて、星空を見上げていた。
 背中の中ほどまである、真っ直ぐで艶やかな黒髪。頭に乗せた飾り櫛には雅な蝶が描かれているが、夜の闇ではそれとは分かりにくい。おおよそ歩きやすそうには見えない裾が長めの着物を足の長さギリギリに引き摺り、てくてくと歩く姿は頼りない。
〈ここは、どこかしら〉
 今朝また熱が上がってしまって、寝てなさいと言われ、今日はずっと布団の中にいた。星祭りで賑わっている母屋の方が気になったが、顔を出したらまた部屋に連れ戻されることは分かっていたので、大人しくしていた。
 星祭りとは、夏の到来を告げる行事で、各家で玄関に明かりを灯した提灯をかざし、地主の屋敷では庭先を開放して、民に祝いの食などを振る舞う。
 姫沙夜の屋敷でも同じく、やってくる民たちをもてなすために準備が行われていた。やがて、夕食が運ばれて来たのを最後に、彼女のいる離れからは、忘れられたようにひっそりと人の気配が消えた。

香月優希

  【 URL 】https://kazukiyuki.net
  【 Twitter(X) ID 】@AtelierDragonJP
  【 小説家になろう ID 】2260526
  【 カクヨム ID 】YukiKazuki 

コドウマサコ「かえりみち」 
 
 おつかいを終えた後、茶屋でのんびりしすぎたせいで陽はすっかり沈んでしまった。
 通り慣れた道とは言え、人家の灯りも途絶えた先を歩むのは気が滅入る。幼い弟の手前、平静にふるまってはいるが暗がりの山道には不気味さを感じずにはいられない。
 時も距離も踏み越えて、次の一息で家の真ん前にたどり着いたらいいのに──。
 信心を胎の中に忘れてきたと言われて育ったような自分でも、神仏にすがりたくなる時はある。弟を連れてさえいなかったなら、いっそ目をつぶって駆け抜けてしまいたいくらいだ。
 東の月は細く頼りなく、満天の星も地上を任せるにはか弱すぎる。威勢のいい樹木は時に空を覆わんばかりに腕を伸ばし、その懐には何かがうごめいて見える。

コドウマサコ

  【 サークル名 】鏡の森
  【 Twitter(X) ID 】@makocreate
  【 pixiv ID 】1439853
  【 小説家になろう ID 】640327
  【 ノベルスキー(Misskey) 】https://novelskey.tarbin.net/@makocreate

弓屋ゆみや晶都あきと「迎え火」 
  
真新しい提灯の中央に立てた新しい蝋燭。その芯へ、そっと火を灯す。
火が落ち着いたのを見て、慎重に火袋を引き上げる。
うん、どこにも不備はなさそうだ。
ふぅと大きく息を吐いてから、自分がいつの間にか息を止めていた事に気付いて、小さく苦笑する。

提灯を持って立ちあがろうとすると、隣から「私が」と黒髪の青年が手を伸ばしてきた。それを首を振って制して、立ち上がる。

なるべくまっすぐ、揺らさないように、軒下に吊り下げる。
提灯の中で、炎が優しく揺らめいた。

弓屋晶都

  【 サークル名 】こるきゅ!
  【 Twitter(X) ID 】@yumiya
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  【 エブリスタ ID 】499504426 

笛地ふえち静恵しずえ「おやしろ」 
  
 三月に入ってから、春が長い雨を降らせていました。ついに浦津の街を流れる桜花川の堤防が、切れそうになりました。いつ氾濫するかわかりません。
 家では、一階の畳を上げていました。家具なども二階に運び上げました。仮に、床上浸水になっても、濡らさないための用心でした。木の板が、剥き出しになっていました。下に敷いてあった昔の新聞が、出てきました。大騒ぎでした。
 古星久仁彦(こぼしくにひこ)は、家族のみんなと、二階に寝る形の避難でも、別によかったのです。でも、彼だけが遠くの親戚の家に、疎開することになりました。
 実家から、久米彦おじさんが、わざわざむかえに来ました。家族は、洪水の準備でいそがしかったからです。
「よろしくな」
 久仁彦は、背中を強く叩かれていました。
 久米彦おじさんは、目つきの鋭い怖い顔の人でした。父の兄にあたる人でした。

笛地静恵 

  【 Twitter(X) 】@Ymcx6rhzvjEZgwq 
  

藤和とうわ「春はあけぼの」 
  
 夜明け前の兼六園に来た。道中、ぽつぽつとある街灯だけを頼りに坂を上る。

藤和 

  【 サークル名 】インドの仕立て屋さん
  【 URL 】https://towa49666.jimdofree.com/
  【 Twitter(X) 】@towa49666
  【 pixiv 】762615
  【 小説家になろう 】942672
  【 エブリスタ 】148557413
  【 カクヨム 】towa49666  
  

藤木ふじき一帆かずほ「みちしるべ」 
  
「その壁紙、お前ずっと使ってるよな」
 背後からふいに声をかけられて、少し肩が跳ねた。
「うおびっくりした。なんだ突然」
 誰もいないはずの深夜のオフィス。終わらない仕事を抱えて渋々ながら一人きりの残業をしていたはずなのに。いきなり現れたとっくに帰ったはずの同僚が、俺のノート側のパソコンを見ている。
 手元で操作しているのはデスクトップ側のパソコンで、ノートはスクリーンセーバーが作動していた。そこに写っている写真を、彼は熱心に見ている。
「ああ、それな。そうだな。だいぶ古い写真だな」
 俺の言葉に、同僚の相川はふうん、と返事ともなんともつかない返事を寄越した。
「これ、宇宙からみた地球の写真だろ? なんで途中で途切れてんだ?」
 よほどこの写真に興味を持ったらしい。彼はまだ尋ねてくる。
「お前俺の仕事邪魔しに来たのか?」
「うんにゃ、家の鍵忘れて半泣きでここに戻ってきた」
「バカめ……」

藤木一帆 

【 サークル名 】猫文社
  【 URL 】https://nekobunsya.wixsite.com/mypage
  【 Twitter(X) ID 】@nekofujiki1923
  【 pixiv ID 】247570 
 

皐月さつきうしこ「駅舎の中では誰かの声が」
 
 無人駅。なんて聞こえはいいけれど、実際には気の遠くなるような時間に一本の電車が停車するというだけで、特別面白いものは何もない。自然豊かで排他的な空気に魅せられて電車を降りてしまえば、それこそ後悔の余韻に打ちひしがれるしかなかった。
「はぁ」
 そんな好奇心に駆られて電車を降りてしまったうちの一人なのだろう。若い青年の溜息が空虚の中を流れていく。
「まだあと四時間もあるとか最悪」
 家を出るときには百パーセントだった携帯の充電が残り半分以下を切っているところからすると、その時間は気が遠くなるほど長いことを示していた。駅に備え付けられた時刻表を見る限りでは、一日にこの駅に停車する電車は片手に収まる数ほどしかなく、試しに降りてみた駅の向こう側はお世辞にも魅力的とは言い難い。感嘆の渓谷が広がり、目と心に優しい大自然であることは認めるが、何時間も気分を満たしてくれる目新しいものは何もない。
 雄大な自然。
 携帯の中に納まったのはほんの数枚。

皐月うしこ 

  【 サークル名 】Fancy Field
  【 URL 】https://fancyfield.net/
  【 Twitter(X) 】@ushiko_novel
  【 pixiv 】33741130
  【 小説家になろう 】1119306
  【 エブリスタ 】1000123066
  【 カクヨム 】fancyfield
  【 アルファポリス 】893786076
  【 Bluesky 】@satsuki-ushiko.bsky.social
  【 インスタグラム 】 satsuki_ushiko 
   

島田しまだ詩子うたこ「灯り花」 
   
 新月の夜にその花屋のシャッターが開きます。
 星が見えない都会の夜空が、月を失ってさらに暗いのがありありと分かる頃、その店に明かりが灯りました。三人くらいが入ればいっぱいになってしまう店内の壁も床も沈んだ色合いで、ガラスケースの中の花を引き立てます。
 窓の外から店内を眺めていて、いったん行き過ぎたものの戻ってきた人が、今日最初のお客さまです。そろそろとドアを開けて、おそるおそる店内に足を踏み入れてくる様子から、日頃は花屋に縁がない人とみえます。
 店主は「いらっしゃいませ」と控えめに挨拶してから、お客さまの邪魔にならないように少し奥へと移動しました。

島田詩子 

【 サークル名 】虚影庵
  【 URL 】http://kyoeian.vis.ne.jp
  【 Twitter(X) ID 】@kyoeianCM
  【 Bluesky 】@kyoeian.bsky.social
  【 ノベルスキー(Misskey) 】https://novelskey.tarbin.net/@kyoeian


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