BE MY BABY


「いびきがうるさくて眠れなかった。」


独りで過ごす日々が長かった自分にとってまるで鳩尾に一発もらったかのように、数年ぶりにその現実に直面させられた一言がその後ずっと尾を引いていた。

迷惑系YouTuberが流行りに乗っかって始めた再生数稼ぎのASMR動画のような、あるいは上の階の住人から不定期に刻まれるFootstepsのようなものと同等の存在だと思われたことが何よりも辛かった。

もし自分がダースベイダーだったら、あの印象的な呼吸音に対して「うるさくて眠れなかった」と言われたとしても「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」とラーメン屋の息子さながら返していただろう。
でも僕は遠い昔、はるか彼方の銀河系ではなく2021年の地球で暮らしている日本人であり、科学や医療の発達により解決する方法がいくつか残されていた。

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”数年ぶりに現実に直面”と書いたように、今回が気づいた最初のタイミングだったわけではない。
学生時代から教室のチョークの粉にさえ反応するアレルギー性鼻炎に悩まされ、耳鼻科に通って錠剤と点鼻薬なくして生きられない体になっていた。
その鼻詰まりと、年々一回りも二回りも肥大化していく首周りと、その他の要因が重なり、気付けばいびきをかくようになっていた。
一時期ひどい時は口でしか呼吸できないため、いびき+扁桃炎になるなど体に負担がかかっていたことから、気道確保のため専用マウスピースを作ってまで改善を図った日もあった(だいたい2年くらい前)。

それからは扁桃腺が腫れて熱を出すことはほぼ無くなったものの根本の改善にまでは至らず、かかりつけの病院からは「2週間入院が可能であれば手術という手もある」という選択肢を提示された。
2週間も仕事休めだなんて簡単に言ってくれるなあ…と思い、それであれば騙し騙し薬でやり過ごすしかないと思い、その頃からもずっと寝食を共にする人もいなかったのでLONELY NIGHTを今日まで送ってきた。

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皆さんもそれぞれ抱えている悩みが大小問わずあることだろう。
例えばもし金銭面と時間という問題をクリアできるのであれば、大体の悩みは真っ先に解決したいと思うのも無理はない。
また昔から自身の中で向き合ってきたコンプレックスについても、なにかしら解決できる手段があるなら多少のリスクや費用対効果を検討した上で取り除くことができるのであればその手を逃す理由はない。

過去に一度、長年抱えてきたあるコンプレックスを無くすための手術をした経験がある。しかし具体的な部位は決して言えない。
いつの日か自分と飲みに行く機会があれば、お酒に身を委ねてつい話すことも無くはない…かもしれない。ヒントは「粗品と一緒」。
その時もコンプレックスを自身から切り離すために多大な費用を用意し、術後のアフターケアも大変な思いをして乗り切ったので今では良い思い出として記憶に刻まれている。「良い思い出」になったのも結果的にはコンプレックスの切除がなんとか成功したからで、人によっては晴れないこともあるかもしれない。

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冒頭の話に戻るが、かきたくてかいている訳ではないものの事実として自分は寝ている間にいびきをかいてしまっている。後日アプリを複数使用しながら就寝し、起きて即座にアプリから響き渡るいびきを実際に確認した。
これがもし寝ている間、隣に知らないおじさんが寝ていてしかもいびきをかいているという摩訶不思議な状況でなければこのいびきは自分から発している。
いびきによって辛い思いをして、辛い思いをさせてしまったのだから今後避けられるのであればやはり手段は限られてくるだろう。
手段はいずれにせよ数年ぶりに呼び起こされた2個目のコンプレックスに別れを告げるよう一歩踏み出す勇気をくれた人に心から感謝したい(もう届かないのだろうけれど)。

※もちろん手術などの治療で完全にいびきをかかなくなる事はないと思うので慢心せず自分と向き合うことを忘れちゃいけない