2016年慶応文学部日本史論述答案例

大問Ⅳ問9
答案例①
 受領への就任を希望する中下級貴族は、自らの妻・娘を天皇の外戚で官吏の任免権を持つ藤原摂関家の娘に、仕えさせた。こうした女房の中に文学的才能を持つ者が多かった。(79字)

答案例②
 女流文学は、天皇の外戚で官吏の任免権を持つ摂関家の娘に仕えた女房によって、担われた。中下級貴族は自らの妻・娘を女房として奉仕させることで、受領への就任を狙った。(80字)

太字は指定語句

解法
①…史料文に関連する出題であり、直接、史料文が答案に影響する問題ではない。一方で、知識問題ではないため、条件をヒントと考えつつ、回答を作る必要がある。

②…まず、条件①の摂関政治の形態であるが、これは「天皇の外戚が摂政・関白として、天皇の権威を利用し、権力を握った」(山川『詳説日本史』P70本文)でよいだろう。また、国風文化の部分で「かな文学の隆盛は、貴族たちが天皇の後宮に入れた娘たちにつきそわせた、すぐれた才能を持つ女性たちに負うところが大きい」と、摂関政治とかな文学、つまり、女流文学との関連が示唆されている。
⇒ 文学的に優れた女房を付き添わせるのは、そのことによって、天皇の関心を買い、外戚としての地位を確固たるものにする(娘に天皇が会いに来る機会を増やす⇒妊娠の機会が増える⇒外戚としての地位が盤石になる)狙いがあったと考えてよい。

③…次に考えなくてはいけないのが、受領という指定語句である。②の中で、受領の指定語句を使う機会はない。ここで思い出したいのが、「摂政・関白は官吏の人事権を掌握していた」(山川『詳説日本史』P70本文)と「中・下級の貴族は、摂関家などに取り入って、その家の事務を扱う職員である家司となり、経済的に有利な地位である国司(受領)になることを求めた」(山川『詳説日本史』P71)である。
⇒ つまり、女房になるのは、受領層の中下級貴族の妻・娘(紫式部も夫は受領である)であり、「中下級貴族が文学的な才能のある妻・娘を摂関家の娘の女房として仕えさせることは、摂関家への奉仕の1つであった」と考えてよい。

大問Ⅴ問7
 史料(ロ)が施行された結果、全農地の半分近くを占めていた小作地は1割程度まで減少した。また、農家の大半が1町歩未満の零細な自作農となる一方、大地主たちは従来の大きな経済力と社会的威信を失い、没落した。(100字)


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