法科大学院奨学金応募者のプレゼンについて思うこと

奨学金の選考委員を20年近くやって

私は某法科大学院で給付型奨学金の選考委員を長いことやっている。
給付型奨学金とは、日本学生支援機構の奨学金とは違い、返還を要しない奨学金であり、学生にとってはとてもありがたい制度である。
実際、毎年多くの学生から応募がある。しかし、長年選考委員をやっていて、毎年のように型にはまったような応募者を多数見ており、正直辟易としているところである。
すこし愚痴というか小言っぽいが、あまり他の奨学金選考委員の感想をネット上で見かけることもないので、ここに少し書いておくこととする。
もちろん、私と異なる意見の人も選考委員にはいて、これが選考委員の間の共通認識ではないと思うが、このように考えている委員もいるということを誰かに知ってほしい。

奨学生の選考プロセス

奨学生の選考プロセスは概ね次の通りである。
書類審査 → 面接
そして、この「書類審査」に魔物が潜んでいる。

「貧困者のために戦う法律家になりたい」という人ばかり

出願書類を眺めていると、応募者の圧倒的多数が、「貧困者のために戦う弁護士になりたい」という人である。
子どものための弁護士、シングルマザーのための弁護士・・。多くの応募者がそういう仕事をしたいと言う。
しかし考えるまでもなく、弁護士の活動範囲は、刑事弁護や企業法務、知的財産や国際法務、インハウスなど、とても幅広い。ところがなぜかピンポイントでこの分野をほとんどの人が志望しているのだという。
しかし本当にそうなのだろうか。
もし、単に「お金にならない分野を敢えて志望しているガッツが評価されるかも知れない」という下心でそのような志望理由を書いているのだとすれば、本当にその分野で頑張っている現役の先生方や、本当にその問題で困っている人たちへの冒涜にほかならない。
また、法律家が具体的にどんな仕事をする職業なのかあまりよく知らないので、身近な話題を書いているのだろうと思われる人も多い。それは単なる調査不足である。

我々は、将来有望な法律家の卵を探しているのであり、その才能の方向性は何だってよいのである。
例えば貿易実務について光る才能を持っている人がいたら問答無用で落とすのかといったら、そんなことはあるわけないのである。

もちろん、応募者の中には本当に貧困者救済実務への才能や将来性を感じさせる人がいる。もちろんそういう人は我々が全力で応援すべき人材である。そういう人(=本物)がいるからこそ、それ以外の人の薄っぺらい志望理由がとても空虚に感じられるのである。
また、他人と似たような志望理由であると、差別化ができないので、印象に残りにくいということも実際ある。

応募者の多くは「こんな、お金にならない仕事をしたいなどという奇特な学生はきっと自分だけだろう。」と思っているのかも知れない。

「貧乏自慢」をする人が多い

奨学金制度は、経済的支援を必要とする学生のための制度である。
したがって、応募者は何らかの経済的困難を抱えていることが多い。
しかし、応募書類やプレゼンにおいて「いかに自分が貧乏か」を猛烈にアピールしてくる人がいる。これが実に多い。
しかし、我々は決して貧乏人を探しているのではなく、将来有望な法律家の卵を探しているのである。
したがって、応募書類やプレゼンにおいては、あなたがいかに法律家として有望なのかをまず我々に示す必要がある。
もし我々が単に貧乏な人を救済したいのであれば、世の中には大学院に行くどころか、明日の食費にも困っている人がいるのだから、資金をアフリカなどに寄付するであろう。しかしそうしないのには理由があるのであって、そこをよく考えてほしい。

「法律」と直接関係ない進路を希望している人

毎年必ず1~2人はいるのが、弁護士になった後にやりたい仕事が法律の仕事ではないという人。
これは先に述べた、法律家の仕事の幅はとても広いのだということを踏まえても、突飛すぎる仕事を予定している人がいる。
極端な例だが「コンピュータエンジニアになりたい、その仕事をするには法的知識があると何かと役に立つ」という感じの人が毎年いる。
どんな仕事をするにせよ、法律の知識があった方がなにかと便利なのはその通りである。しかし、「それは本当に法務博士号や法曹資格が必要なの?」という疑問を投げかけざるを得ない人が結構多い。
その疑問に対しては「弁護士資格があった方が社内で話が通りやすい」と答える人もいるが、それは社内交渉力のなさを資格で補おうとしているだけであるようにも思える。
どんな組織においても、「弁護士資格」なぞを持っている人がいたらそれは存在感十分であろう。しかし、法律職でない仕事に敢えて就こうとしている人を我々が応援したいと感じるかどうかはまた別の問題である。
我々が探しているのは、法律家の卵なのであるから。

選考委員が応募者に求めるもの

まず我々は、何らかのテンプレートにはまった応募書類やプレゼンを求めていない。各応募者が独自のスタイルで自由にアピールしてくれればそれでよいし、その方がよい。
かつて、ある合格例を模倣して、似たようなプレゼンばかりが並んだ年度があったが、そういうのを期待しているのではない。
あなたの人柄、法律家への適性、学習意欲、使命感、その他様々な要素の中から選考委員の心に最も刺さりそうなものを取捨選択して、自由な発想で応募書類やプレゼンを構成してほしい。

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