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蛮族のためのアニメ月評

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毎月第4月曜の19:00にアップしている声優/アニメに関する評論集です。
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#自己啓発

『しん次元!クレヨンしんちゃん』が投げかける難問:「がんばれ」と言いにくくなった時代に、それでも「がんばれ」と言うのはなぜか

 2023年8月4日に劇場公開された『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦~とべとべ手巻き寿司~』(以下、『超能力大決戦』と略記)は、『クレヨンしんちゃん』シリーズ初の3DCGアニメーション映画である。制作期間7年をかけて2.85Dに調整された3DCGに違和感はなく、本作は看板に偽りなしの「しん次元」を堪能できる挑戦的なアニメ映画に仕上がっている。だが、それとはまた別の意味で、本作は挑戦的な作品だった。ギャグは冴えておらず滑りぎみで、全体を通して爽快

TVアニメ『錆喰いビスコ』の菌糸的想像力:「きのこ的生き方」を媒介する声について

はじめに 2022年3月に放送が終了したTVアニメ『錆喰いビスコ』は、きのこという神出鬼没のモチーフを巧みに料理し、バディものの文脈に乗せながら、画面上で派手に咲かせた意欲作である。  本作は、有機物・無機物を問わずすべてを錆び付かせる「錆び風」が吹き荒れる近未来の日本を舞台として、がらっぱちの「キノコ守り」の少年・赤星ビスコと美貌の少年医師・猫柳ミロが繰り広げる冒険活劇だ。防衛兵器「テツジン」の暴走によって東京を爆心地とする大穴があき、それをきっかけに「錆び風」が吹き始めて

TVアニメ『弱キャラ友崎くん』が映し出す現代資本主義の袋小路:宇野常寛『ゼロ年代の想像力』と終わらない「自己啓発」を超えて

はじめに 資本主義を飼いならすことはできないし、資本主義の外に出ることも決して容易ではない。2021年3月に放送が終了したTVアニメ『弱キャラ友崎くん』(以下『友崎くん』)は、そんなことを教えてくれる傑作である。  本作の主人公・友崎文也は、友達も彼女もいない「陰キャ」で「ぼっち」の高校生だ。しかし、その裏の顔は家庭用格闘ゲーム「アタックファミリーズ」(通称「アタファミ」)のレート一位、日本最高峰のプレイヤー「nanashi」である。友崎は人生を「クソゲー」であると言い切る。