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蛮族のためのアニメ月評

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毎月第4月曜の19:00にアップしている声優/アニメに関する評論集です。
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#木庭顕

映画『リンダはチキンがたべたい!』に息づく喜劇の伝統:可笑しさの正体について考える

はじめに 月並な所感から書き出すことをご容赦いただきたい。2024年4月12日に日本で劇場公開されたフランス・イタリア合作のアニメーション映画『リンダはチキンがたべたい!』(原題はLinda veut du poulet!)にはとにかく圧倒された。本作は映画作家のキアラ・マルタ(Chiara Malta)とアニメーション作家のセバスティアン・ローデンバック(Sébastien Laudenbach)が共同で監督を務めたコメディ・アニメーションであり、2023年のアヌシー国際

高咲侑と伝道する12人の使徒:TVアニメ『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第2期が示したアイドルアニメの新常態

※本記事は2020年12月28日に公開した『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第1期評の続編です。前回記事も併せてお読みください。 はじめに TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(以下、『ニジガク』と略称)は「アイドルアニメ」ではない――筆者はそのように『ニジガク』第1期評を書き出した。しかし、筆者は『ニジガク』の真の実力を見誤っていたのかもしれない。2022年4月から6月にかけて放送された『ニジガク』第2期は「アイドルアニメ」の新常態を示

TVアニメ『ゲキドル』が顕示する揺るぎない演劇の力:抜き差しならない「現実」と対決するための処方箋

はじめに  2021年3月に放送が終了したTVアニメ『ゲキドル』は、「この世は舞台、人はみな役者」という言葉をSFの俎上で鮮やかに再解釈してみせた傑作であった。  本作は、「世界同時都市消失」という災害に見舞われた世界で、ゲキドル(歌と演技が融合したアイドル)として奮闘する少女たちの姿を描いた青春SF活劇だ。本作の前半では、「世界同時都市消失」の一つである「池袋ロスト」で家族をなくし、自分の殻に閉じこもってイマジナリーフレンドとの一人芝居にふける少女・守野せりあの成長が描かれ

TVアニメ『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』が描いた侑と9人の絆:ある僭主の「百日天下」とその手口

はじめに TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(以下、『ニジガク』と略称)は「アイドルアニメ」ではない。  2020年10月期のTVアニメにおける二大「勝ち組」コンテンツは、間違いなく『ニジガク』と『D4DJ First Mix』だ。株式会社ブシロードの創業者である木谷高明は、日経クロストレンドのインタビュー記事(2020年10月23日公開)の中で、「SNS時代、消費者は勝ち組にしかくみしない」というマーケティング戦略を打ち出している。木谷は次のように言

TVアニメ『魔王学院の不適合者』が拓く批判的思考の地平:「時下り」と「対」に注目して

はじめに 2020年9月に放送が終了したTVアニメ『魔王学院の不適合者~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』が出色の出来だ。本作はそのタイトルが簡潔に示す通り、二千年後に転生した魔族の始祖、「暴虐の魔王」ことアノス・ヴォルディゴードが、平和に慣れて弱体化した子孫と衰退を極めた魔法を叩き直すという物語で、いわゆる「最強系主人公」の無双譚の一つとして世間の耳目を集めている。  本作でヒロインの一人を演じる夏吉ゆうこも、ダ・ヴィンチニュースのインタビュー記事(20