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蛮族のためのアニメ月評

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毎月第4月曜の19:00にアップしている声優/アニメに関する評論集です。
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#SF

『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』における惑星地球化の想像力について:大地への固執、技術への陶酔、歴史への対峙

※本記事はアニメ映画『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。  まずは、己の不明を恥じなければならない。TVアニメ『大雪海のカイナ』(2023年1月期)が完結編にあたる劇場版で大化けするとは、正直なところ思いも寄らなかった。本作は漫画家の弐瓶勉を原作者に迎え、ポリゴン・ピクチュアズ設立40周年記念作品として制作されたポスト・アポカリプス作品である。本作は文明が衰退し、雪海と呼ばれる白い堆積物に沈んだ惑星を舞台に、人類が軌道樹と呼ば

TVアニメ『逆転世界ノ電池少女』における「逆転」の真意:笙野頼子「おんたこ三部作」との対照から

はじめに 2021年12月に放送が終了したTVアニメ『逆転世界ノ電池少女』は、現代のオタクの夜郎自大について再考するきっかけを与えてくれる作品だった。本作は平行世界より現れた「真国日本」の「真誅軍」の侵略・征服を受け、「幻国日本」と呼ばれるようになった近未来の日本を舞台に、真誅軍とレジスタンスとの戦いを描くロボットアニメである。軍国主義を維持し、「永世昭和」の世が続く真国日本は、位相空間からエネルギーを取り出す実験の際、平行世界に存在するもう一つの日本を発見した。そこは第二次

TVアニメ『ゲキドル』が顕示する揺るぎない演劇の力:抜き差しならない「現実」と対決するための処方箋

はじめに  2021年3月に放送が終了したTVアニメ『ゲキドル』は、「この世は舞台、人はみな役者」という言葉をSFの俎上で鮮やかに再解釈してみせた傑作であった。  本作は、「世界同時都市消失」という災害に見舞われた世界で、ゲキドル(歌と演技が融合したアイドル)として奮闘する少女たちの姿を描いた青春SF活劇だ。本作の前半では、「世界同時都市消失」の一つである「池袋ロスト」で家族をなくし、自分の殻に閉じこもってイマジナリーフレンドとの一人芝居にふける少女・守野せりあの成長が描かれ