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蛮族のためのアニメ月評

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毎月第4月曜の19:00にアップしている声優/アニメに関する評論集です。
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#映画感想文

『Ultraman: Rising』が拓いたウルトラマンの新地平:自己啓発を基盤として描かれたヒーローの使命の二重性

 ウルトラマンの楽しみとは、擬古的なオマージュの森林に分け入ることでもなければ、膨大かつ複雑怪奇な設定の山岳を踏破することでもない。しかしながら、長期化したシリーズにはよくあることながら、ウルトラマンの歴史は制作会社やテレビ局を含む多種多様な利害関係者間の力学によって偶発的に生み出された後付けの設定の山積とならざるをえなかった。そのため、ウルトラマンの新作を生み出す際には、先行作品の伝統ないし遺産をどの程度継承するのか、そしてそもそもどの範囲までを参照すべき先行作品とみなすの

映画『リンダはチキンがたべたい!』に息づく喜劇の伝統:可笑しさの正体について考える

はじめに 月並な所感から書き出すことをご容赦いただきたい。2024年4月12日に日本で劇場公開されたフランス・イタリア合作のアニメーション映画『リンダはチキンがたべたい!』(原題はLinda veut du poulet!)にはとにかく圧倒された。本作は映画作家のキアラ・マルタ(Chiara Malta)とアニメーション作家のセバスティアン・ローデンバック(Sébastien Laudenbach)が共同で監督を務めたコメディ・アニメーションであり、2023年のアヌシー国際

『映画 窓ぎわのトットちゃん』短評:「新しい戦前」に響く大野りりあなの声

はじめに 2023年12月8日、テレビ朝日開局65周年記念作品として『映画 窓ぎわのトットちゃん』が封切られた。本作は女優・司会者・エッセイストの黒柳徹子が自身の小学校時代を回顧して著したエッセイ『窓ぎわのトットちゃん』(1981年)を原作としたアニメ映画である。黒柳の手になる原作は日本国内だけでシリーズ累計800万部を売り上げ、世界35か国で翻訳されている日本の戦後最大のベストセラー書籍であるが、黒柳はこの著作の映像化や舞台化のオファーを長らく断ってきたことで知られている

宮﨑駿監督作『君たちはどう生きるか』と日本の近代:悪意に満ちた「石」とその桎梏

※本記事はアニメ映画『君たちはどう生きるか』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。  2023年7月14日、終戦記念日に先立つこと約一ヶ月、宮﨑駿監督作『君たちはどう生きるか』(以下、『君どう』と略記)が封切られた。『君どう』は一言で言えば、牽引力に溢れた挑発的なアニメ映画だった。一方で、多種多様なアニメーションの快楽に満ちている。うねる火炎、陰鬱とした屋敷、不気味な塔、不可思議な異界、集合物のうごめき(バラバラな動きのコントロールの妙)、グロテスクさ・滑稽さ・