マガジンのカバー画像

蛮族のためのアニメ月評

40
毎月第4月曜の19:00にアップしている声優/アニメに関する評論集です。
運営しているクリエイター

#カール・シュミット

『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』における惑星地球化の想像力について:大地への固執、技術への陶酔、歴史への対峙

※本記事はアニメ映画『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。  まずは、己の不明を恥じなければならない。TVアニメ『大雪海のカイナ』(2023年1月期)が完結編にあたる劇場版で大化けするとは、正直なところ思いも寄らなかった。本作は漫画家の弐瓶勉を原作者に迎え、ポリゴン・ピクチュアズ設立40周年記念作品として制作されたポスト・アポカリプス作品である。本作は文明が衰退し、雪海と呼ばれる白い堆積物に沈んだ惑星を舞台に、人類が軌道樹と呼ば

TVアニメ『解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ』について:現代の貴種流離譚における女性の排除

(2023年7月11日追記:過去に執筆した文章を読み返し、一部の表現に反省すべき箇所があったと判断したため、本文に修正を加えました。)  2023年3月に放送が終了したTVアニメ『解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ』は遅咲きの作品だった。物語が大きく動き、タイトルに掲げられた「スローなセカンドライフ」の真意が明らかになるには、第10話を待たなければならなかった。しかも、本作の描き出す「スローなセカンドライフ」は一般的にイメージされがちな「スローライフ」――

アジール・無縁・友誼線:TVアニメ『キミ戦』が掲げた平和の理想とその残響

はじめに 2020年12月に放送が終了したTVアニメ『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』(通称『キミ戦』)は瀟洒な秀作であった。本作は、高度に発達した機械文明を誇る帝国と、未知のエネルギーである「星霊」をその身に宿した魔女・魔人が治めるネビュリス皇庁が百年にわたる戦争を続ける世界で、両国の最高戦力たる二人が戦場でまみえ、志を同じくすることを知って、互いに惹かれ合う過程を描くファンタジー作品だ。  帝国軍の元最高位戦闘員・「黒鋼の後継」ことイスカと、ネビュリス皇庁