マガジンのカバー画像

蛮族のためのアニメ月評

40
毎月第4月曜の19:00にアップしている声優/アニメに関する評論集です。
運営しているクリエイター

2023年12月の記事一覧

『映画 窓ぎわのトットちゃん』短評:「新しい戦前」に響く大野りりあなの声

はじめに 2023年12月8日、テレビ朝日開局65周年記念作品として『映画 窓ぎわのトットちゃん』が封切られた。本作は女優・司会者・エッセイストの黒柳徹子が自身の小学校時代を回顧して著したエッセイ『窓ぎわのトットちゃん』(1981年)を原作としたアニメ映画である。黒柳の手になる原作は日本国内だけでシリーズ累計800万部を売り上げ、世界35か国で翻訳されている日本の戦後最大のベストセラー書籍であるが、黒柳はこの著作の映像化や舞台化のオファーを長らく断ってきたことで知られている

『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』における虚構と擬制の交錯:資本の自己増殖のキャラクター化から「お仕事アニメ」の欺瞞を考える

(2023年12月6日追記:エピグラフを追加しました。) ※本記事は『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。  人間にとって働くことが良いことか、それとも悪いことかという話題は、繰り返し再燃しては鎮火する、消えない火種である。この話題は、ときに世代間ギャップの指摘や老害/若者相互の指弾に派生し、ときに資本主義批判とそれに対する反共思想のバックラッシュとして顕現し、ひいては雇われ人の悲哀を強調しつつ、そこから脱出する