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サルスベリ

もうずいぶん前のこと。
自分の呼吸までもが熱く感じる中、母と二人、人通りなく車もめったに通らない道を歩いていた。
二人でどこへ向かっていたのかは憶えていない。

会話するのも汗になる、夏の日の午後。
二人、言葉を発せず、ただただ「暑いなあ」としか思わず、舗道の上で自動的に足を前に前に運び続ける最中、唐突に母の声がした。

「サルスベリの花、好きよ」

耳に届いた母の言葉を、一瞬、聞き逃したふりをしそうになった。
何もかも暑さのせい。

「どんな花?」
何とか会話のスイッチが入る。

「ほら、咲いてるじゃない」

そう言われてはじめて、日陰のない舗道に、濃いピンクの花をつけた木が等間隔で植えられているのに気がついた。

「へえ、これがサルスベリ」
ようやく、ぼーっとして反応を失っていた感情が動きだす。

夏の花咲く舗道にするために植えられたサルスベリ。
どれも二メートルくらいの高さで、細くてひ弱に見えた。
すべすべした木肌が「サルスベリ」の名の由来であることを、かったるい暑さの中で母は話し続けていた。
おかげで、それ以来、サルスベリがわかるようになった。

<お寺さんにある、でかいサルスベリの木>


≪🐡13*0829📒220829≫


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