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でも、それを含めて “俺”やから…!


世の中には様々なバイトがある。オレは、生活に必要な最低限の金をゲッチュする以上にバイトすることは絶対にしたくないと思っていた。(今もだけど)このオレの貴重な若い時の時間は1000円そこそこで売ることは出来ないと考えてのことである。とはいえ、どうせ遊んでるか家でゴロンとしてるだけなのだが、、とにかく、バイトの時間数を限界まで減らすため、オレはとにかく高時給のバイトに絞って探していた。19歳の時、ふらふらっと始めたバイトもそうだった。

「髪色自由(金髪、派手髪可)、週一から勤務可、未経験歓迎、時給1400~」というとんでもない好条件に惹かれて業務内容も大してよく読まずに即応募。こんなにいい条件なら採用も少なく、競合相手も多いだろうと思っていたが、面接もそこそこに即採用、面接より採用後の世間話のほうが長かった。断っておくが、何も死ぬほど面接対策して臨んだわけでもない。何なら面接当日まで業務内容すらよくわかっていなかった。交通費をケチる為に自転車で向かった結果道に迷い遅刻までした。まるでウータンクランの誰かが着ていそうな黄色い派手なダウンジャケットに、よくわからんストリートもどきのパーカーという若さゆえの嫌なエグみのあるキッズを即採用したもんだと思うが、それだけ人出が足りていなかったんだろう。そんなこんなで始めた好条件のバイトとは訪問介護アシスタントのバイトだった。

ここで業務内容について簡単に説明しておく。訪問介護のアシスタントとは、その名の通り要介護者の家に行き、有資格者のスタッフのサポートをするアルバイトである。要介護者の人のタイプは様々であるが、多かったのは寝たきりの老人や、脳性マヒといって体を自由に動かすことの出来ない人の家の世話だった。

オレが担当したのも脳性マヒの老人だった。バイト当日、西武新宿線某駅にて社員と待ち合わせをすると、そのまま今日の現場となる要介護者の家に直行、要介護者の彼を斎藤さんとする。斎藤さんは、70歳を超えたんだか超えてないんだかという年齢で、一人暮らし。もとは大きいお金持ちの家出身だったそうだが、先天的に障害があることを知った親族が彼を冷遇し、ある年齢を過ぎてからは一人で暮らしてきたそうだ。基本的に言葉は発さないけれど、ボケたりはしていないとのこと。

現場が近づくにつれ、初の介護というプレッシャーによる不安と、安易に応募したことへの後悔で頭がいっぱいになったが、業務開始後、俺はこれらとは全く違う類の想像もしていなかったことで衝撃を受けることになる。

現場(2Kのアパート)について自己紹介を済ませ、まずは家の掃除から行うことになった。

リビング、和室と掃除を済ませ、最後は寝室。この寝室でまずオレは第一の衝撃を受ける。

部屋に足を踏み入れた時、オレの目に衝撃の光景が飛び込んできた。

おっぱいおっぱいおっぱいと、壁中にエロポスターが所狭しと貼られているのである。目に飛び込んでくる肌色の多さにオレは目を疑ったが、何回見直しても、壁のどこを見渡してもエロいポスターで埋め尽くされていた。しばらく面食らっていると、社員が横から出てきた。「最初はびっくりするよね~。けど、斎藤さんも男だから、ね?」

いや男だが、そもそも起つのか?この歳で?というか全身マヒなのにどうやって事を致すんだ?と瞬時にあらゆる疑問が浮かんだ。そのまましばらく、全身マヒで体も動かせない老人の陰茎だけがピョコン!と反応する姿を思い浮かべて動揺をしてしまっていると、そんなオレの疑問が伝わったのか、というかこのくだりはあるあるなのか、社員がオレに何か手渡して回答を教えてくれた。

手渡されたのはデリヘルのカードである。「夜勤だとたまに呼ぶことあるから、その時はそっとしといてあげて。」とのこと。そんなことがあるか?あるか。その後すぐ掃除を終わらせた。部屋はほとんど散らかっていなかったので、大した時間はかからなかった。考えてみれば自分で体を動かせないのだからそうなんだけど、、、、

その後しばらくまた待機していると、斎藤さんがテレビを見るというので、横目にテレビを見ながらエロ部屋で携帯をいじって過ごした。エロ部屋で老人とテレビを見ているこの時間にも時給が発生している。なんともシュールな時間だった。あまりにも暇だったので、社員が気を遣ったのか、軽く世間話をしていた。

会話の中で社員に「君、やる気ある?あったらごめんね。ないなら向いてるよ。」と言われた。どうやらこの業界は、熱意を持って応募してくる人が多いが、実際のところエロ部屋のような人間らしい部分や生々しい部分を目の当たりにしたり、あまりにも退屈すぎたりということで、空回りしてしまうか、幻滅して辞めていく人が多いそうだ。就活の武器にでもしようと応募したものの、実際は何もすることがなかったり、デリヘルを呼ぶなど下の世話の管理をさせられるということで、思ってたのと違うという感じで辞めていってしまうらしい。

オレはといえば、楽なのは歓迎だし、条件が良かったから応募しただけで、いうまでもなく熱意なんて欠片ほどもない。「なんかワロタ。」で終わりである。そしてオレはさらなる「なんかワロタ」な体験をこの後することになるのだ。

午後になって、散歩に行くから車いすを押してくれと言われた。オレは当時から金髪だったし、その時も面接の時と同じ黄色いダウンジャケットを羽織っていた。そんなオレが車いすを押して駅から少し離れた閑静な住宅街を歩く。さながら「最強のふたり」である。やや気恥ずかしかったので正直社員に代わってもらいたかったが、斎藤さんが謎にオレの金髪を気に入ってくれたこともあり、車いすは基本的にオレ一人で押した。

しばらく指示通り歩いて、あるパチンコ屋の前についた。ここで次のなんかワロタ。衝撃だった。斎藤さんはオレにパチンコ屋に入るよう指示した。念のため横にいる社員に確認すると、いつものことだという様子。そのまま入店し、店内を歩き回ったうえ、ある一つの台にたどり着き、しばらく打つからどっかいってろというありがたい支持を受けた。社員も、何なら自分の金で好きなの打っててもいいよという感じで、なんかワロタ。と思った。オレは打たなかったけれど、打っている間も時給が発生すると考えれば、とんでもないバイトだなと思った。二、三時間経っただろうか。どうやらボロ負けした様子。不機嫌な様子の斎藤さんの車いすを押し、買い物をして帰宅した。

斉藤さんは生活保護を受けている為、今日のことは引き継ぎ表に記録しないようにと念を押され、またしばらく待機。

待機中はやはり暇なので物思いに耽る。今日あったことにいちいち衝撃を受けていたが、考えてみれば、ジジイなんてこんなもんだよなァとふと思った。エロが好きで、パチンコを打って、普通のジジイのカスの一日といった今日だが、わかっていても、「障害を持っているのに、普通のジジイと同じ生活をしてるのか。」と面食らってしまう。偏見とは恐ろしいものだなぁと思った。

思い返せば今日、車いすを押して外に出ている最中、いろいろな人にジロジロ見られた。そりゃ街を最強のふたりが歩いていたら面白いだろうけど、なんとなく嫌な感じに思ってしまった。外人が日本を歩くときってこんな感じなんだろうなと思った。

斎藤さんはめちゃくちゃ優しく、オレのことも気に入ってくれたようで、親しくなることが出来た。文字盤をつかってのコミュニケーションなので、ラグがいじらしいが、そのラグが返ってオレの斎藤さんへの緊張をほぐしてくれた。なんか、その、笑えないけど、「いやお前体動かねーじゃん」系の突っ込み待ちもかましてきた。別に面白くないっすよ、、それ、、、と、気を遣うわけでもなくそう反応できたのは、オレの中で斎藤さんに対する偏見がなくなった証拠なのかなと思った。

斉藤さんと親睦を深めたオレだったが、結局その後オレは研修期間4日間を終えて、バイトを終了するか継続するか会社に聞かれたところで終了した。なんとなく気疲れしてしまいもういいやとなってしまったのだ。(普通に朝早くてしんどかったのと、実はちょっとしたトラブルがあった。)テキトーに初めてテキトーにやめてしまったバイトだが、強烈に印象づいている。別に何か学べたとか、人間的な成長があったとかそういう訳じゃないんだけどネ。

どうもすいません… 。

でも、それを含めて “俺”やから…!

よろしくお願いします!!

ほな、また……。


福岡ソフトバンクホークス

斉藤和巳









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