2019年弁理士試験・口述試験模様

1.はじめに
 知財系もっともっとAdvent Calendarに投稿します。時季柄、そろそろ弁理士試験の口述試験ですので、2019年本試験の模様をご紹介いたします。

2.日程変更
 もともと、10月12日 (土) に予定されていましたが、ちょうど週末に台風19号が関東地方を直撃したため、予備日だった10月14日 (月) に日程が変更されました。この台風は本当にすごい勢力で、自宅近くの川の水量が大変なことになっていました。氾濫するんじゃないかと本気で心配しました。

3. 会場まで
 だいぶ早めに移動したのですが、田町駅で目の不自由な方が迷って困っていたので、お手伝いしてお仲間のもとに連れて行って差し上げました。いいことをしたので、本番でもいいことが起こりますようにと祈りました。
4. 会場にて、本番まで
 以下、当時書き留めた模様をほぼコピペしますので、文体がですます調から変わります。
 9時30分頃、プリンスパークタワーホテルに到着。小雨で肌寒い。1階にはすでにスーツ姿の受験生が至る所でテキスト等を読んでいた。高級ホテルで、外国人や婚礼の参加者多い中異様な雰囲気。ゼミ生とだべりながら、胃がキリキリ痛んで辛すぎ。
 控室で法文集等読みながら順番を待つ。5番目だった。ほど良い緊張感を維持してた。前の人が呼ばれるともう観念した感じで、参考書類を全てカバンにしまった。これまでの頑張りを思い出していた。まあこれで落ちることはないだろうと。と思うしかなかった。

5. 本番
(1) 特実
 試験員は、主査が中年の男性、副査が女性の2名。日中なのに厚いカーテン閉め切って、尋問室に居たかのよう。とはいうものの試験委員は優しい雰囲気を醸し出していて温かい。圧迫感は全くない。試験員のテーブルと受験生のテーブルは3mくらいの距離。試験員のテーブルには低めの衝立というかパーティションのようなものがあった。
※以下、 (自分) =私、 (試) =試験員。
(自分)  (テーブルの横に立って) 山田太郎と申します。よろしくお願い致します。
(試) おかけください。
(自分) はい (座る) 。
(試) では、特許法/実用新案法の試験を始めます。
(試) 特許発明の技術的範囲は、どのように定められると規定されていますか。
(自分) 特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に記載された事項に基づいて定められなければならない、と規定されています。
(試) その通りです。では、机の上のパネル1を開いてください。
※パネル1*************************************************************
甲 特許発明イ     乙 対象製品X (製造販売)
【特許請求の範囲】   【対象製品の特徴】
 金属製         セラミック (非金属)
 刃に複数の丸穴     刃に複数の丸穴
 包丁          包丁
【解決しようとする課題】
 きゅうりを包丁で切ると包丁の刃にきゅうりがくっつく。きゅうりがくっつかないようにしたい。
【特許発明による解決手段】
 刃に複数の丸穴があることで、きゅうりを切っても刃にくっつかない 
【X製造時】
 当業者は、セラミックを用いることで、包丁が軽くできることを知っていた
【イ出願時】
 Xは、公知技術と同一又は当業者が容易に推考できたものではなかった
【甲のイと乙のXに係る包丁の図は同じだった】
 省略 (包丁の刃に複数の丸穴) 
***********************************************************************

 (自分)  (あ、均等論先週やった。いただき)
 (試)  (パネル1の内容を説明する)
(試) 甲は、乙に対して、甲の特許権を侵害していると主張することはできますか。端的にお答えください。
(自分) いわゆる均等侵害であると主張することができます。
(試) そうですね。では、パネル2をご覧ください。
(副査がパネル2を持ってくる)
※パネル2**************************************************************
要件1:
要件2:
要件3:
要件4:対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではない (要件充足している)
要件5:対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない (要件充足している)
********************************************************
 (試) これは、均等論の5要件ですね。要件4、5についてはすでに記載があります。要件1から3をお答えください。
(自分) 対象製品と特許発明との間に相違が存して、その相違部分に置き換えても、その置換部分は特許発明の本質的部分ではないこと、
 置換によっても特許発明の目的を達成し、同一の作用効果を奏すること、
 対象製品等の製造時において、当業者者が当該置換に容易に想到できたこと、です。
(試) そうですね。本事案は各要件を満たすか、理由とともにお答えください。なお、要件1から3は、判例で判示されている順でなくても構いません。まず、要件1はいかがですか。
(自分) 包丁の側面に複数の丸穴があることで、材料と包丁の間に空間ができ、その結果きゅうりが刃につかないという効果が得られているので、当該置換部分は発明の本質的部分ではありません。よって第1要件を満たします。
(試) そうですね。はい、それで結構です。では要件2は。
(自分) セラミック製の包丁に置換しても、包丁で切ったきゅうりが刃につかないという特許発明の目的を達成し、同一の作用効果を奏しているので、第2要件を満たします。
(試) はい。第3要件は?
(私) 要件3は、X製造時に、当業者は、セラミックを用いることで、包丁が軽くできることを知っていたので、つまり当業者は、置換部分を容易に想到できています。したがって第3要件を満たします。
(試) はい、そうですね。
※ここで8分のチャイム
(試) では、均等論の趣旨を1つお答えください。
(自分) 出願時にあらゆる侵害態様を予測して特許請求の範囲を記載するのは困難で出願人に酷だからです。、 (残りを思い出そうとするものの、1つで良いと言われたことを思い出してやめた。) 。
(試) 結構です。お疲れ様でした。
(退室→意匠法の試験室前へ。いや~良かった良かった。かなり落ち着いた。上々の滑り出し。この流れに乗ればオッケイだろう)

(2) 意匠
※試験員は共に男性
(副査はおそらく板垣忠文先生、、神の助け舟)
(自分)  (テーブルの横に立って) 山田太郎と申します。よろしくお願い致します。
(試) おかけください。
(自分) 失礼致します (座る) 。
(試) では、意匠法の試験を始めます。
 さっそく事例です。甲は食器メーカーです。楕円形を特徴とする食卓用の皿の意匠について、意匠登録出願を検討しています。その前に、調査を行いました。では問題です。意匠権の侵害があった際、意匠権者はどのような請求ができますか。
(自分) 差し止め請求、損害賠償請求、不当利得返還請求、信用回復措置請求です。
(試) 結構です。では、事例の続きです。パネル1をご覧ください。 

※パネル1********************

甲               意匠イ

 乙  (5年前)  意匠ロ、出願、意匠登録、製造販売継続中
*************************
(試) 調査の結果、食器メーカーである乙が楕円形の皿に係る意匠ロにつき、5年前に意匠登録出願をし、設定登録され、現在も意匠ロに係る皿を製造販売していることが分かりました。もし、甲が意匠イにつき意匠登録出願をした場合、どうなりますか。
(自分)  イとロが類似であれば、イは3条1項3号で拒絶されます。
(試) ほかには?
(自分)  イとロが非類似の場合、ロに基づいて創作容易であるとして3条2項で拒絶される可能性があります。
(試) そうですね。では、3条1項と2項とで、判断主体はどのように異なりますか。
(自分)  1項は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づき類否判断します。2項は、出願前に意匠の属する通常の知識を有する者が日本国内または外国において公然知られた形状模様もしくは色彩またはこれらの結合に基づき判断します。
(試) いいでしょう。では、事例の続きです。パネル2を並べてください。

※パネル2***************
甲     意匠イ
乙      (5年前)
      意匠ロ、出願、意匠登録、製造販売継続中
丙 意匠ハ
*************
(試) さらに調査を進めたところ、乙の意匠ロよりも前に丙が皿にかかる意匠ハを創作し、製造販売していることが分かりました。丙は、意匠ハについて意匠登録出願をしていません。もし、ハとロが類似している場合、甲は意匠ロに対し、どのような措置をとりますか。
(自分) ロは、その出願よりも前に製造販売されていたハに類似するので、3条1項3号違反の無効理由があるとして、ロに対し無効審判を請求します。
(試) そうですね。では、他に理由はありませんか?
(自分) 他の無効理由をお答えすればよろしいのでしょうか?
(板) はい。
(自分) ロが、非類似としても、ハに基づき創作容易であれば、3条2項違反の無効理由があるとして、ロに対し無効審判を請求します。
(試) そうですね。では、パネル3をご覧ください。

※パネル3********

************** 
チャイム1
(試) ロとハは非類似です。ロの類似範囲にイがあり、ハの類似範囲にもイがあります。もし、甲が、乙からイはロを侵害していると主張されたとき、甲は、公知意匠ハと類似していることをもって、非侵害である旨の抗弁をすることができますか。
(自分) できません…
(試) 本当ですか?
(自分) できます。
(試) はい。では理由は?
(自分) 、、、、、 (困った、、公知意匠は権利化されてないから抵触とは言えないし、けど登録意匠の類似範囲だし、、もう知らん、何でも言ってやれ)
29条の2の実施権を主張しうると考えます。
(試) 。。。 (こまってる)
(自分) 甲の実施品は登録意匠の類似範囲にありますが、登録意匠は公知意匠との関係で抵触、、 (のようなものなので、、)
※ここで10分のチャイム
(板) 公知意匠に類似する意匠だから侵害ではないってことでしょうかね。 (たぶんこんなこと仰ってた)
(自分) はい。
(試) 質問は以上で終わりです。
(よくわからないが終わったようだ。ラッキー。合格だな、、)

(3) 商標
かなり気が抜けている。
※試験員は主査が女性、副査が男性
(おそらく、女性は葦原エミ先生)
(自分)  (テーブルの横に立って) 山田太郎と申します。よろしくお願い致します。
(試) おかけください。
(自分) 失礼致します (座る) 。
(試) では、商標法の試験を始めます。まず、出願手続における補正についてお伺いします。補正の時期的要件をお答えください。
(自分) 出願時ということでよろしいのでしょうか?
(試) はい。
(自分)  (異議申し立て要らんな、、ヨシ) 出願が、審査/審判/再審に係属しているときです。
(試) 他にありませんか?
(自分) フリーズ、、 (え、まだあるの?、、) 条文見てもよろしいでしょうか?
(試) どうぞ
(自分) 出願が審査、審判、再審、異議申し立てに係属しているときです。
(試) 異議申し立てですか? 出願ですよ。
(自分)  (えー、、フリーズ)
(試) 条文はどこを見ていますか?
(自分) 68条の40第1項です。
(試) 隣に何か書いてありませんか?
(自分) 更新登録の際です。 (区分減更新しか頭に浮かばず)
(試) 更新登録ですか?
(自分) 失礼いたしました。設定登録料の納付時です。
(試) どのような補正ができますか?
(自分) 指定商品等が複数ある場合、区分を減じる補正をする事ができます。
(試) そうですね。では、なぜ区分を減ずる補正が認められているのでしょうか。
(自分) はい、、
(副査) 法文閉じてください
(自分) 失礼しました (答え書いてないだろ、うるさいなあもう、、閉じる)
(自分) 登録時に不要となった指定商品について登録しないこと可能にするためです。
(試) 主査と副査が顔を見合わせて、まいっか、的な雰囲気。
(試) 補正はどのような範囲で認められますか?
(自分) 要旨変更とならない範囲で認められます。
(試) そうですね。では、パネル1をご覧ください。

※パネル1***************
 甲 商標登録出願        引用商標 4条1項11号
【商標】麦芽発泡wow       【商標】wow
【指定商品】ビール、発泡飲料      【指定商品】ワイン
【出願人】甲           【商標権者】乙
※いずれも、標準文字
※ワインとビールは類似。ワインと発泡飲料は非類似
※現在、拒絶理由通知応答期間である
(1) 発泡飲料につき、権利化したい場合
(2) ビールにつき、権利化したい場合
 それぞれ、どのような応答をすればいいか、その理由とともにお答えください。
回答は (1)、(2) の順におこなうこと。
***************
(試)  (パネルの内容を読み上げる) では、どうぞ。
(自分) まず、 (1) について。甲の出願に係る指定商品からビールを削除します。これにより他人の先願先登録商標との関係で拒絶理由が解消する旨を、指定期間内に意見書を提出して主張します。
(試) 指定期間ですか? パネルには何と書いてありますか?
(自分) 失礼いたしました。応答期間内です (細かいなあもう。間違ってないだろうに、、) 。
(2) について。
 乙に対し、引用商標に係る商標権を甲に譲渡する、または商標権を放棄するよう交渉をします。また、商標登録出願により生じた権利の持ち分を共有にします。 (合ってるか謎だけど通してくれた)
 それにより、4条1項11号でいう「他人の」を解消することができます。
(試) それだけですか?
(自分) また、商標登録に無効理由がある場合は商標登録無効審判を請求し、先願先登録に係る商標登録を遡及消滅させます。これにより拒絶理由が解消する旨を意見書にて主張します。
(試) 他にありませんか?
(自分) 商標が非類似である旨を意見書にて主張しうると考えます。
(試) では (1) に戻ります。なぜ補正が認められるのですか?
(自分) 減縮補正だからです。
(試) それはつまり、、?
(自分) 要旨変更に当たらないからです。
(試) そうですね。これで試験は以上です。お疲れさまでした。

※チャイム2回で終了。最後の問まで答え切ったのか不明、、冒頭の嫌らしい問題で出鼻挫かれて平常心戻らず。
 でも、終わってスッキリ。終了後の待合い室では聞かれた問題について他の受験生と話して、自分が聞かれていない問は周りも聞かれていなかったようなので少し安心した。

6. 振り返り
 今思うと、よく回答できたものだと感心しますね。ここまでの緊張感は今まで感じたことはなかったように思います。意匠のラストはけっこう皆さん困っていたようで、意匠の弁理士に尋ねたら「ゴム紐事件」ではないか、とのこと。

7. 受験生へのアドバイス
 聞かれたことに対応する回答をお返しするのがいいと思います。「できますか?」と聞かれたら、答えはできるかできないかの2択です。また、受験生の方に100点満点の答えがあったとしても、短く答えて、誘導を待つのがいいと思います。試験委員の先生の求めるレベルはわからないと思いますので.. 。足りない部分 (試験委員の先生にとって物足りない部分) については「他にありませんか?」的な誘導が入るでしょうし、一気に全て答えてしまったら、コミュニケーションの場として、先生方は退屈してしまうと思います。
 口述試験は特にコミュニケーション能力が問われている試験だと思います。と申しますのは、受験生の方々は、既に短答と論文を受かっているわけですから、これ以上細かいところを彼らに問う必要はないと思います。物知り、親切、お節介で少し面倒なおじさんおばさんに聞かれていると仮定して、試験委員の先生方に気持ちよく (試験委員の方々にとって上から目線で) 質問させてあげるくらいでちょうどいいのではないでしょうか (語弊がありますね..すみません)。なお、約10年前の世界は全く異なっていたようです。
 その他、準備段階として、受験生仲間と問題の出し合いをするといいと思います。試験委員の気持ちが少しわかるんじゃないかと思います。
 午前組は、全員終わるまで、控室から出られません。紙の書籍を持ち込むか、記憶が生々しいうちに問答の模様をペンでメモっておくとよいと思います。私は、事前に言われていたにも拘らず何も持ち込んでおらず、今さら教材を読む気も起らないので他の受験生とだべっていました。コロナ禍ではちと難しそうです。
 皆様の合格をお祈り申し上げます。  
                                以上

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