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The Art of the Puzzle: デザイン制作への想い

Chloéはインバイトジャパンのメインクリエイティブデザイナーの一人です。街歩き謎解きゲームの表紙や冊子のデザイン、ストーリーと組み合わせた全体的な見栄えやパズルのデザインなどを手掛けています(その他にも、もちろんマーケティングやソーシャルメディア用の業務も担当しています)。そこで私たちは、デザインの仕事をする上での彼女の考え方や、街歩き謎解きゲームの制作過程を聞いてみることにしました。以下から始まる今回のブログでは、最新の街歩き謎解きブックレット「なぞたび 横浜編」のデザインについての、Chloéの個人的な考えをご紹介します。

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ロケーションとパズルの「スカウト作業」
「なぞたび」のような新しい街歩き謎解きのプロジェクトを始める時は、大抵最初にミーティングを行い、新しいゲームの舞台となる街や物語の全体的な「雰囲気」、「コンセプト」などを決めます。

浅草や日本橋の「なぞたび」の制作後、私たちは東京以外の場所に挑戦したいと思っていました。そこで日本で2番目に人口の多い都市であり、独自の文化と歴史を持つ街であることから、横浜が第一候補に上がりました。それに加えて、たまたま別のプロジェクトでこのエリアでたくさんのパズルを作っていたというのも選ばれた理由の一つです。

決定したエリアにパズルが既にある場合は、その中から見直して使えそうなものを選び、さらに作り足す必要があるかどうかを判断します。そして作り足す必要がある場合は、私はチームの 「パズルスカウト(現地調査) 」に同行することにしています。実際に現地に行ってみると、その土地に溶け込んでインスピレーションを得ることができるので、デザイン作業にとても役立つのです。

「パズルスカウト」はパズル製作者にとって非常に重要な作業であるため、詳しく説明するには別のブログ記事が必要かもしれませんが、簡単に説明しましょう。特定のエリアでパズルを作ることが決まったら、パズルスカウトチームが現地に行って調査を実施します。面白いもの、変わったものはすべてパズルの素材になり得るので、この調査はとても重要です。

私がこの仕事の好きな理由のひとつとして、私たちの仕事を通して、人々が知らなかった場所を発見する手助けができる点があります。そのためには、街中のあらゆる場所を隅々まで探索しなければなりません。渋谷のハチ公像や浅草の雷門なども面白いですが、明らかに有名な観光スポットには極力頼らず、それ意外の真新しいスポットを探すようにしています。例えば珍しい銅像や格好良い看板、変わった建築物や目を引くファサードなどなど…。パズルのベースになり得るものは、街中の至る所にたくさんありますからね。

雰囲気を作る – ムードボードとストーリーの制作
パズルを作ると同時に、ストーリーや全体の雰囲気を作っていかなければなりません。これは私にとっても重要なステップで、できるだけ早い段階から関与していく必要があります。4月下旬に今回の新しいなぞたびのコンセプトを考えた時、私たちはこれまでとは違う美的感覚や「見栄え」を試してみたいと思いました。インバイトジャパンの製品はバイリンガル向けということもあって、通常はデザインコンセプトの一部として、日本の伝統的な美意識を取り入れることが多くあります。私もデザインコンセプトに「和」を取り入れるのが好きなのですが、それには様々な制限も付いて来ます。話し合いを経て、今回はより一般的な「ファンタジー」的(魔法、呪文書、ルーン文字など)なテーマを設定しました。

ストーリーのコンセプトが決まったら、インスピレーションを得るためにPinterestで「ムードボード(関連しそうな素材を集めたコラージュ)」を作り、表紙でやりたいことの第一稿を構築します。ちなみに表紙は、私たちがパズル冊子を制作する時に一番最初に取り掛かるものです。

表紙の大まかなイメージができたら、実際の制作作業に入ります。しかし今回の「なぞたび 横浜編」の場合、私はちょっとした白紙状態でこの作業を行いました。なぜなら最初にみんなで考えた表紙のコンセプトが、自分のスキルやできることと一致しなかったからです。できないことがあっても良いと受け入れ、先に進むには別のことから挑戦してみるのが一番だと切り替えるのには少し時間が掛かりました。

その後ムードボードやPinterestのページを見返して、ようやく新しいインスピレーションを得ることができました。英雄的かつ幻想的な世界をベースにした物語なので、私は中世の建築物からインスピレーションを得ることに。特にオランダのパステル調のファサードは、頭の中ですべてがカチッとハマるきっかけになり、私はようやく第一稿を始めることができました。

色とフォントの不思議な関係
私はとても「混沌とした」色選びをする人間です。パステルカラーや幸福感に満ちた配色が好きで、カラーパレットの上で迷ってしまうこともしばしば…。

自宅で仕事をするようになってからは、プロジェクトのデザイン制作により力を入れるようになったため、色の調和やグラフィックデザインの構成ルール、フォントの選び方などについても学び始めました。1年以上経った今でも、新しい技術を研究したり、デザインについて学ぶことが楽しみです。私は色選びでごちゃごちゃしてしまいがちなので、カラーホイールをチェックしたり、カラーチャートのウェブサイトからさまざまな資料を利用しています。

「なぞたび 横浜編」では、「ハッピーな色使い」をしたいと思いました。これまでの「なぞたび」では、日本の伝統的なテーマに合わせて比較的暗い色を使うことが多かったのですが、今回はファンタジーをテーマにしているので、パステルカラーにホログラムをプラスして、おとぎ話のような明るい配色で仕上げることに。自分の好きな色を仕事で使うことができたのはとても嬉しかったですね。

フォント選びもデザイン作りの大きな要素なのですが、これは私が一番苦手とするところかもしれません。特に販売する製品を作る場合は、著作権にも気を付ける必要があります。私たちはAdobe IllustratorとCreative Cloudを使用しているので、Adobeのフォントが主な選択肢です。

私は読みにくいフォントや均質性に欠けるフォントを選んでしまう傾向があるので、たまに指摘を受けて、クラシックかつ一般的なフォントに戻すことがあります。実用的で読みやすいものと、きれいで美しいものとの境界線を引くのは、私にとって難しいことで、未だに見栄え的に優れたフォントを選びがちです。

また、クリエイティブ・ディレクターのDennisと一緒に作業ができるのも、この仕事の好きなところです。彼は私が学び、より正しい選択ができるようにと手助けしてくれています。また彼はIllustratorを使ったパズル制作の経験がより豊富です。「美しい見栄えは大切だが、私たちの場合(パズル制作)は、読みやすさが何よりも重要なポイントである」ことを、よく思い出させてくれます。私はパートによっては自由に制作する裁量が与えられていますが、冊子の中の大半を占めるフォントは、明快で比較的シンプルなものでなければならないのです。

「なぞたび 横浜編」では、おとぎ話や中世のフォークロアの美学からインスピレーションを得ました。説明書のフォントは、日本語と英語の両方に対応できるものが良いと思いましたが、これは非常に難しいことでした。クラシカルで一般的なサンセリフ体と、もう少し個性的なフォントの良い点と悪い点を天秤にかけるのは、なかなかトリッキーな作業です。そしていつも本が印刷されるまで、自分の選択が正しかったのかどうかという僅かな疑問を抱き続けます。

フォントは製品の品質に大きな影響を与えるものですが、見落とされがちなものでもあると思います。“Papyrus”や“Comic-sans”などは「ダサくてスタイリッシュではない」とよく笑われてしまうフォントです。しかし同時に、多くの人が“Futura”がどこにでも使われ(すぎ)ていることにも不満を持っています。「スタイリッシュでクリア」なフォントであっても、使い方によっては全体が「フラット」になってしまい、デザインが退屈になったり、主流になりすぎたりすることがあるということです。何事もそのバランスを見極めることが大切なのです。

常に昨日よりも良くなろうとする努力を
先程も書きましたが、この1年で私はデザインやパズル制作について、かなり勉強することができました。しかし私のもう一つの苦手分野である「トンボ(トリムマーク)」の使い方など、まだまだ学ぶことはたくさんあります。でも、製品がより注目されるような美しいデザインを、自分の手で今まで以上に作れるようになっていくのが非常に楽しみです。

パンデミックが始まる前は、デザインを作ったり、Photoshopでモンタージュを作ったりという作業はほとんど自己満足のためにやっていました。今年は新しいデザインの課題を解決するためのクリエイティブな考え方を学び、「イラストやグラフィックは見る人のために作っている」ということをより意識するようになりました。その結果、デザインの選択をより慎重に、意識的に行うようになってきたと実感します。

「なぞたび 横浜編」では、さまざまな方法で、これまで以上にデザインの能力を磨くことができました。イラストレーションのスキルの向上、プロジェクトの進行を支援するさまざまな方法の提案、テキストの配置やフォント、レイアウトについてのより厳格な判断など…。このように、私は多くの「小さな」教訓を学びましたが、それらが組み合わさることで、私のデザイン作品の全体的な質に大きな影響を与えることになるのです。

「なぞたび 横浜編」のようなプロジェクトは、ZoomやSlackといったオンライン・コミュニケーション・アプリを使って進めるとなるとなおさら挑戦的なものになります。しかしこのようなクリエイティブなプロジェクトを終えた後、実はちょっと落ち込んだり悲しくなったりすることがよくあるんです。というのも、私たちの創造性とチームワークと汗を結集して全く新しいものを作り上げることは、作業に疲れてヘトヘトになるのと同時に、爽快感とちょっとした恍惚感をもたらしてくれるからです。

早くも次のプロジェクトが楽しみになってきました!

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