10分間に見た天国と地獄。

近所の交差点で車2台が揉めていた。
どうやら白のエブリイが先に煽ったということで、黒のワゴンRが煽り返し、後ろから追い回して信号前で止まって大声で怒鳴っている。
おっさん黒「おいコラ、おっさんこっち見んかい!お前が先に煽ってきたやろが!やったろかい!そこ左曲がって交番で話つけよやないかい!」
おっさん白「やかましいなーなにいうてんねん・・・」

とこんな感じでワゴンRの運転手が興奮気味だった。

そんなこんなで2人はすぐ近くの交番までクラクションを鳴らしながら移動した。
おっさん黒「お前が先に煽っといて、なにとぼけとんじゃい!やるんやったらやったろかい!コラ!」
黒のおっさんが一方的に怒鳴りつけていたので、あわてて交番にいたおまわりが止めに入った。
おまわり「ちょ、ちょっと待って、とりあえず落ち着いて、な?一回落ち着こか、話は聞くから!あー、あかんあかん手は出したらあかんよ!」

黒のおっさんが白のおっさんの胸ぐらをつかもうとしたので、おまわりが慌てて脇に入って制止した。

夕方5時、スーパーの買い物袋を自転車の前カゴに乗せたおばちゃん、部活帰りの中学生、それほど用もなくうろつく老人、帰宅途中のリーマン、コンビニにたむろする外国人労働者、夕時の喧騒のなか怒鳴り声が響いて段々と野次馬たちが集まってきた。

私は郵便局に用があったので、その場を後にして先を急いだ。

車道と歩道が別れた通りをタラタラと少し歩くと信号のない交差点で、右からちょっとおしゃれな自転車に乗ったじじいが現れた、じじいは前を向き、手を拱いていた。
(ん?なにしてんのかな?)と思ったら、メイン通りから細い路地に入ろうとしていたおばちゃんの乗った車に「先にどうぞ」という意味で手で合図していたのだ。

さっき怒鳴り声とは打って変わって、その余裕のある紳士なじじいは、身なりもお洒落に見えた。
じじいも通りを渡ろうとしていたので、私も先にどうぞとじじいを手で誘導した。
じじいはニッコリ笑って「どうも~」と通りを渡っていった。

通り過ぎるじじいの後ろ姿を眺めていると、ふとじじいのズボンのポケットに何かが刺さっているのが見えた。
(あれはなんだろう・・・?)と目を凝らしてみると、じじいのズボンの後ろのポッケには、月桂冠「月」のワンカップが刺さっていたのだった。

(ふったーりーのー・・・♪)

私の頭の中で安藤優子の「のうぜんかつら」が流れていた。


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