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なぜ童謡『ふしぎなポケット』では、ポケットをたたくとビスケットが増えていくのか

小さい子どもがいるため、基本的には録画したEテレの番組が流れている我が家。常に童謡や子ども向けソングが耳に入ってきます。

そんな中、ある童謡が聞えてきました。

それは、「ポケットのなかには ビスケットがひとつ~」でお馴染み、『ふしぎなポケット』でした。まど・みちお作詞、渡辺茂作曲の童謡であり、我々親世代も知っている名曲です。端折ると「たたくたびに中のビスケットが増える魔法のポケットがほしいなあ」という歌です(歌詞はこちら)。

ところで、なぜポケットをたたくとビスケットが増えるのでしょうか?

結論からいうと、作詞を担当したまど・みちお氏の著作を片っ端から調べましたが、ご本人の答えと思われる記述は見つかりませんでした(図書館のレファレンスサービスも使いましたが、不明でした)。

しかし、いくつか答えに近い説が見つかったので紹介します。


1.「戦後の食糧難に由来」説

山内良子『まど・みちお 童謡の表現特性~童謡集『ぞうさん』を中心にして~』には、以下のように書かれています。

この童謡の初出は、1954年の戦後まもなくという時期である。決して豊かとはいえない時代、「この食べ物の量が増えて、おなかいっぱい食べられたら」と願っていた人は多かったであろう。このような空腹感から童謡「ふしぎな ポケット」が考え出されたということが、十分に考えられる。(中略)夢のような「ふしぎなポケット」は、この童謡が書かれた時代、誰しも望むことであったのである。

山内良子『まど・みちお 童謡の表現特性~童謡集『ぞうさん』を中心にして~』

山内(2004)によれば、戦後間もない食糧難の時期に生まれた童謡であり、その空腹感から生まれたのではないかと書かれています。

ただ、その根拠となる出典がなく、あくまでもこの論文執筆者自身の推測に留まっています。そのため、信憑性に欠ける説と言えるでしょう。

2.「あくまでも比喩」説

筆者が調査したところ、一番しっくりきたものはこちら。

『季刊どうよう』24号(1991年1月1日発行)に、以下のように書かれていました。

願望とは、制約の多い現実を越えていく想像力である。そして人は「たたく」という行動を起こすことによって人生を開くことができる。この作品は、幼児にとって身近なポケットとビスケット、たたくといういとも簡単な動作を通して、そのことを示唆している。

『季刊どうよう』24号 p.23

つまりは、行動を起こすことで人生を切り拓いて欲しいという願いが込められた童謡というわけです。この文章を書いたのは、当時、梅花女子大学助教授だった谷悦子氏(現・同大学名誉教授)。まど・みちお氏の研究著書も多く、説得力があります。

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ということで、まど・みちお氏による見解を知りたいところではありましたが、実際のところは不明。とはいえ、研究者による見解まで辿り着くことはできました。今後、この童謡が流れた時には、ぜひ「行動を起こすことの大切さ」をお子さんに諭してはいかがでしょうか。

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