ばばあの繰り言90喉元を過ぎる前に

 忘れ過ぎる。

 運転はGoogle map先生がいなければもうダメです。
 そのGoogle map先生がたまに試練をおよこしになります。

 別ルートを表示して、〈同様の時間〉とかおっしゃる。
 ほうほう。
 なら行ってみようかな。
 とか別ルートにいくと、あら、なんて美しい自然の景観。
 そして、すれ違いに不安しかないそれでも舗装はされている山道。
 めちゃ蛇行。
 うっかりすると、崖からフライアウェイです。

 あ、しくった、と思った時にはもう遅い。
 どうやったって切り返せない。
 進むしかない。

 まあ、ゆっくりのろのろですよ、なんて思ってたら、前方に道幅いっぱいの車。
 なんできたのよ、ばばあが乗ってる軽自動車でも不安なこの道。
 あなたも、Google map先生に修行されてる身?
 いいです。
 ばばあ急いでません。
 あなたの後ろをとろとろついて行きます。
 昔の日本人女性的な。


 ところが、5分もしたかしないか、やってきちゃいました。対向車。
 ばばあの前の車は道幅いっぱい。
 さらに後続にばばあの軽が一台。

 対向車の方、諦めて、後進です。

 怖い。バックでこのクネクネ道を下がるのは怖いよ。

 でも、まあ、少し広い場所に出たみたいで、前の車の方、車を降りてばばあのところに来てくれね、その方もそこで避けるの、先に行ってください、と、お申し出がありました。
 わかりました、と、運転席でお伝えして、背中に
 わざわざありがとうございます、
 とお声かけしたら、ばばあ一人運転なのにマスクしてたので、声がとおらなかったみたいで、また戻ってきてくださった。
 申し訳ない。
 ありがとうって、言っただけなんですよ。

 ああ、もう、ドキドキしちゃった。
 まだまだ道幅は狭く曲がりくねっている。広い道にはもうしばらくかかる。
 慎重に、慎重に、と、まず、自分の運転に気持ちが集中する。
 あ、向こうから軽自動車。
 来ましたか、対向車。
 すれ違える、かな?
 すれ違う。
 すれ違いましょう。
 はい、無事にすれ違いました。
 ああ、よかった、とホッとしたその直後。
 ばばあは自分の大失敗に気がつきました。

 賢明なnote読者様ならもうお気づきでしょう。

 ばばあは、車を止めるべきだったんです。
 そして対向車の方にもできればバックして広いところで待つようにお伝えすべきだったんです。

 だって、ばばあの後ろからは、ゆっくりと道幅いっぱいの車がこっちに向かっているんですもの。

 ああ、遅い。
 でも、遅い。
 もう、遅い。
 対向車は行ってしまった。

 ごめんね。
 いじわるしゃないの。

 ついさっきなことなのに本当に忘れ果てていたの。

 喉元過ぎれば熱さ忘れる

 鳥頭

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