ASKAサプライズ『ありったけ』ツアー映像全曲公開!(後編)
「いろんな人が歌ってきたように」を歌い終えると、ここで恒例となった「もぐもぐタイム」。今回のライブでは、ライブの休憩時間にASKAがメンバーと一緒に、ステージ上でその地域の名物を食べる新コーナーができた。
観客のトイレ休憩時間も、エンターテイメントにしてしまうASKAのアイデアには脱帽である。
続くメンバー紹介では「手数王」こと菅沼孝三の超絶プレイを見られたのも嬉しい。最近のASKAソロのドラムは、江口信夫が多く務めているが、若い頃のCHAGE and ASKAのドラムと言えば、菅沼孝三だったのだ。日本最高峰のミュージシャンの集合体がASKAバンドであり、CHAGE and ASKAバンドである。
メンバー紹介の最後で澤近泰輔を紹介。その流れで入っていくのが、澤近泰輔が制作したイントロのピアノ演奏が印象的な再始動記念曲「FUKUOKA」。
この曲を聴くと、2016年のクリスマスイブに緊張しながらYouTubeの再生ボタンを押した一瞬がよみがえってくる。配信から4日で100万視聴を突破した名曲であり、復活を支えてくれた故郷福岡の人々への心からの感謝が沁み入るように響く。
続く「LOVE SONG」も、ASKAにとっては大きなターニングポイントとなった曲だ。
世間の流行の風潮に惑わされず、しっかりとした自己を確立して音楽活動をやっていくという強い意志が感じ取れる。
そして、実際、この曲発売の2年後、世の人々の心をしっかりつかんで、時代を変えた。
14曲目には音楽活動を再開する意思表明と言える曲「リハーサル」。アウトロのクラッシャー木村のバイオリンソロ演奏は、まるで映画の1シーンのように圧巻だ。
そして、断面を切り取ったような世界から成る実験的な作品で、YouTubeで世間から高い評価を受けたロックナンバー「と、いう話さ」。ライブ終盤には、こういった少しダークなアップテンポの曲が必須だ。
16曲目の「晴天を誉めるなら夕暮れを待て」は、ASKAがソロとしてロックをやっていくきっかけとなった曲だ。CHAGE and ASKAのような曲をソロとしてもやっていくという意味で、ソロアーティストとして足がかりを作ったと言っても過言ではない。
幼少期からの友人との友情を歌った名曲「ロケットの樹の下で」は、CHAGE and ASKAの曲でありながら、今回のライブでは歌いだしがギター弾き語りで始まる新しいアレンジになっていて、ASKA個人としての心情がさらに伝わるようになった。
そして、現在のASKAの心境を最も表している「今がいちばんいい」。最初にアルバムで聴いたときには、この曲が「YAH YAH YAH」級に盛り上がるように感じなかった。だが、実際にライブで披露されると「YAH YAH YAH」級に盛り上がっていて、ASKAの優れた想像力と感性だからこそ成しえる魔法のような曲だ。
本編ラストは、ASKAの散文詩の朗読から始まる「歌になりたい」。「みんなでおとぎ話になろうよ」という散文詩のフレーズから、イントロにつながっていく流れが感傷的で、詩と歌が一体となって沁み渡る。
そして、何と言っても新しいのは、サビ全体がコーラスとASKAの輪唱形式になっている構成だ。
特に藤田真由美の艶がありながら透き通って安定した優しい美声は、まるで聖母が歌っているかのようなありがたみを感じる。
そこに輪唱で被せるASKAの歌声にも、人類や歌への愛情が籠っていて、本当に教科書に載ってもおかしくないほど壮大な名曲に仕上がっている。
ASKAが自信を持って送り出すこの「歌になりたい」は、11月に満を持して10年ぶりのシングルとなる。
アンコールでは、西城秀樹の大ヒット曲「YOUNG MAN(Y.M.C.A.)」のカバー歌唱を披露する。相変わらず、ASKAのカバー歌唱は、ご本人の歌唱法を取り入れていて、ところどころで西城秀樹本人なのではないかとさえ錯覚してしまいそうになるクオリティーだ。
名曲を色あせないように次世代に歌い継いでいく精神が感じ取れる。
アンコールの2曲目は、CHAGE and ASKAの大ヒット曲にして、ビルボードクラシックでも披露した「YAH YAH YAH」。
バンド形式のライブでは、この曲をどうしても聴きたくなる。
この曲は、世間では「殴りに」というフレイズと、「YAH」のみで構成するサビがクローズアップされてしまうのだが、最近、あるファンの方がレビューで「一緒に」というフレイズに注目していて、私は、いたく共感した。
この曲が永く私たちに寄り添ってくれるのは、「一緒に」殴りに行ってくれるからなのだ。「一緒に」に着目するようになってから、私は、この曲を聴くたびに、目頭が熱くなる。
発売から四半世紀が過ぎた今、「YAH YAH YAH」で語るべきは「一緒に」である。
アンコールのラストで披露となった「UNI-VERSE」は、CHAGE and ASKAの活動を休止してまで、ソロで音楽を極めていくターニングポイントとなった曲だ。
この曲をラストに持ってきたのは、やはりASKAがこれからはますますソロアーティストとして音楽を極めていくという意思の表れだと感じる。
そして、ASKAがステージで歌っているとき、すべての聴衆が笑顔になってくれる曲ということで、すべての人に笑顔で帰ってほしいという意味も込められているのだろう。
ASKAは、このライブのセットリストを最初は、40年間で世間に認められた代表曲による構成にするつもりだったそうだ。しかし、実際は、「SAY YES」も、「PEIDE」も、「モーニングムーン」も、「ひとり咲き」も、「万里の河」も、「On Your Mark」も、「太陽と埃の中で」も、「WALK」も、「月が近づけば少しはましだろう」も、「けれど空は青」もない。
それでも、全く役不足を感じさせない充実したセットリストで、ライブ終了後には、満足感しか残らない。
ASKAは、このライブの直前、風邪を引いてしまったのだという。そのため、時折かすれた声になっているのだが、それがまたASKAの歩んできた苦悩を下地として表現しているような演出に聴こえてくる。
特に太く高く響くロングトーンは、以前よりも、迫真の力を持って迫ってくるように感じた。
華々しく再スタートを切ったASKA。4度目のブレイクは、まだ始まったばかりである。