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ASKA『higher ground』ツアーBlu-rayレビュー

Fellowsの間で「神セットリスト」と呼ばれるほど、曲目が好評だった『higher ground』。
それとともに、ASKAバンドとビルボード・クラシックス・ストリングスが共演するという、新しい形のコンサート。

シンフォニックスタイルの『THE PRIDE』とバンドスタイルの『Made in ASKA-40年のありったけ-』。
この2つのコンサートが融合して、さらなる高みへ。

観る前から期待が高まるばかりだ。

セットリストは、CHAGE and ASKA8曲、活動再開前のASKAソロ6曲、活動再開後のASKAソロ8曲。
その配分からは、ASKA41年のありったけを表現しようという意図が感じられる。

Blu-rayを再生すると、いつものオープニングとは異なる始まり方。
まるでミュージカルが始まるのかと思わせるようなビルボード・クラシックス・ストリングスによる華麗な演奏から、ASKAによる「We Love Music」歌唱の挿入。

そこから、流れるように「僕はMusic」へ。
そういえば、この曲は、「歌になりたい」と極めて近いテーマの楽曲だ。この曲を1曲目に持ってくるところからして、ASKAは、自分=音楽がこのコンサートの裏テーマなのだろう。

テーマを歌い上げれば、次はポップな人気曲「HELLO」を披露。ポップスとクラシックが違和感なく融合するのだろうか、という私の心配を一瞬にして振り払ってしまうほど、違和感がない。

「天気予報の恋人」は、今回のセットリストの中では最も古い楽曲だが、優しく甘いラブソングだけに、ストリングスのアレンジがとても映える。
15人のストリングスを擁しているだけに、今回の選曲は、ストリングスが映える楽曲を揃えているのだろう。

極上のポップスとバラードでつかみは充分とばかりに、ここから今のASKAを表現していく。
ファンクラブの名称でもあり、ASKAが呼ぶファンの愛称でもある「Fellows」というタイトルの楽曲だ。

ASKAは、かつて自らの内面の苦悩を「月が近づけば少しはましだろう」で吐露しているが、現在の苦悩を描いたのが「Fellows」だ。異なるのは、前者が内面の苦悩を自らの中に閉じ込めていたのに対し、後者は、ファンへの想いも込め、そして、苦悩の共有を図ろうとしているところだ。

様々な苦難をともにくぐり抜けてきた長年のファンへの信頼がこの楽曲には感じられる。

私も、数か月前、傷つく言葉を投げかけられ、横たわる自転車のような状態になったのだが、そのとき最も心に潤いを与えてくれたのがこの楽曲だった。今日は、聴きながらそれを思い出して目頭が熱くなってしまった。

続く「修羅を行く」は、批判や誹謗中傷が渦巻く社会で、寂しさと虚しさを感じながらも、試行錯誤を繰り返し、戦い続ける覚悟を描いた激情の楽曲。

そして、「しゃぼん」は、数年前の騒動で、世間や周囲から人間以下の扱いを受けた屈辱と絶望を描いた曲。絶望の淵で自分を見つめ直し、自らに訪れる幸せや苦しみとは一体何なのかを問い続ける魂の叫びだ。

清木場俊介は、ASKAの曲を聴いているだけで彼の人生が見えてくる、と評しているが、この3曲は、まさにそういうタイプの楽曲だろう。

MCを挟んで、一気に趣向を変え、ASKAの出世曲となった「はじまりはいつも雨」へ。この曲も、つくづくストリングスがよく似合う曲だなと思う。

続く「good time」は、今のASKAが作ったと言われても疑わないような楽曲。でも、もう20年前のシングル。大ヒットはしなかったけど、時代の先を行っていた楽曲と言えるのではないだろうか。

今回のコンサートでは、曲の前にMCで制作当時の心境や背景を語ってくれる場面が増えた。それがまた楽曲への感情移入を促し、楽曲の魅力を大いに引き出してくれる。

2009年のコンサートツアー『WALK』での「帰宅」は、鳥肌が立つほどの感動を覚えたものだが、今回の「帰宅」も、それに匹敵する感動がある。
この曲を歌う前には、やはり語りが必要。
ASKAが弱気になっていたという、他人から評価されない時期の苦悩は、誰しも共感できるものだ。

そして、「RED HILL」は、伝説の名演との評価が高い『alive in live』に近いアレンジ。今回は、ストリングスが重厚になって、当時とは違った迫力がある。

前半の最後を締めくくるのは、現在のASKAのテーマ曲とも言える「歌になりたい」。今回のライブでは、ASKAの発案により、聴衆がスマホライトによる「揺れるイルミネーション」を表現する。まるで街の夜景やホタルの舞のように見える光景は、壮観となった。

休憩タイムを挟んで、後半最初の曲は「you&me」。
SHUUBIの20周年ライブで『My Game is ASKA』でのデュエットを再現したところ、好評だったため、今回のセットリストにも入ったのだという。

SHUUBIと椅子に座って向かい合いながら歌うデュエット。私は、『My Game is ASKA』以来の鑑賞となる。
当時、SHUUBIは、必死な形相で一生懸命歌っていた印象が強いが、今回は、大人の余裕と色気がにじみ出て、本当の恋人同士が歌っているかのような微笑ましいデュエットになっている。

そして、チャゲアスブーム渦中にミリオンセラーとなった代表曲「HEART」。今回は、「SAY YES」も「YAH YAH YAH」も入れず、この曲を入れてきたところが引き出し豊富なASKAらしい。

しかも、Aメロの最初を静かな演奏の中でアカペラに近い歌唱で魅せる。そして、Bメロではマイクスタンドを回すパフォーマンス。
新しいアレンジやパフォーマンスに貪欲に挑戦する姿勢は、進化し続けるアーティストの鑑だ。

そこから、最新アルバム『Breath of Bless』に入る、発売前の新曲「百花繚乱」も披露する。
アルバムで幾度となく聴いた楽曲だが、ライブで聴くと、こんないい曲だったんだ、と変化する。いわゆるライブで化ける曲だ。ここまで迫真の情景が浮かぶ幻想的な雰囲気が作り出されるとは想像していなかった。
ストリングスの4人がステージの前に出てきて激しく妖艶に演奏。SHUUBIのコーラスも映えて、すさまじい熱気を感じる。

盛り上がってきたところで、ライブタイトル曲でもある「higher ground」。
クラシックによって、ダークなロックをどう表現するのか、興味深い楽曲であった。ギターを前面に出すのかと思いきや、イントロからストリングスが前面に出て、予定された日常をこなすだけの葛藤をダークな雰囲気で作り上げている。

それと対をなすかのような軽快なポップス「青春の鼓動」は、ストリングスを前面に出して明るい雰囲気を作り出すのかと思いきや、ギターが前面に出る骨太のサウンドに。ASKAバンドが前面に出ながらも、ストリングスと絶妙に融合して、盛り上がりが最高潮に。

最高潮に来たところで「今がいちばんいい」。
ASKAの音楽活動のポリシーと言ってもいいほどの楽曲。ストリングスとASKAバンドの融合も、ここにきて最高到達点の演奏で絡み合う。コーラスの2人もステージの前に出て、盛り上がる。一木弘行とSHUUBIの安定したコーラスは、長年培った技術でASKAの歌声と程よく融合する好相性だ。

そして、最高潮の余韻冷めやらぬ中、MCを挟んでASKAの苦悩が色濃く出た楽曲「Be Free」。ここまで弱気なASKAをさらけ出した楽曲は、それまでほとんどなかっただけに、最初に聴いたときは大きな衝撃を受けたものだ。
とはいえ、この楽曲がその後のASKAの楽曲の方向性を定めたとも言え、活動再開後は、自らの内面をさらけ出す楽曲が格段に増えた。
メロディーと詞があまりにも切ないので、サビのストリングスが感情を揺さぶり、涙が溢れそうになる。

本編ラストは、新曲の「We Love Music」。前回のライブでも新曲「歌になりたい」を本編ラストに持ってきたように、今回も、今が一番、を体現するかのように最新曲がラストを飾る。
イントロからASKAのロングトーンで盛り上げ、サビではステージ上も、観客も手拍子をしながら、みんなで大合唱。当時は発売前の新曲でありながら、ここまで会場が一体となって盛り上がるなんて、奇跡的な光景だと思う。
このコンサートのメインテーマは「さらなる高みへ」ではあるが、裏のテーマとしては「自分=音楽」と、この楽曲が描く「私たちの音楽愛」でもある。

本編が終わった後には、それに匹敵するほどの感動がやってくる。
自らの音楽生活最大の転機となったロンドン移住を語った後、澤近泰輔のピアノをバックに歌い上げる名曲「一度きりの笑顔」。ライトを落として、自らと決して交わることのなかったロンドンの老婆の人生を語る歌声が情感を刺激する。

そして、ASKAが今この曲を歌わねばという意識で披露するという2曲。
CHAGE and ASKA不動の人気ナンバー1曲「PRIDE」と、壮大な楽曲「BIG TREE」。

「PRIDE」は、復活コンサート『THE PRIDE』の核となっていた楽曲でもあり、長年続く盟友澤近泰輔と初期に作り上げた楽曲でもある。
直接的には、失恋の痛手を描いた楽曲ながら、大きくは挫折から再起への希望と、自らの譲れない誇りを描く。
聴衆のそれぞれが自らの境遇と重ね合わせて、長年、多くの人々の支えになってきた名曲中の名曲だ。

そして、アンコールのラストに「BIG TREE」。このサプライズには多くのファンが驚いたことだろう。
心に育った木が揺らぎない姿として自らの夢の中に現れた光景を描く壮大な名曲。今こそ、歌うときなのだ。

思えば、この楽曲こそ、ASKAが作り上げた、クラシックとバンドが最高到達点で融合できる源流なのではないか。それほど規格外のスケールを備えている。その先見をこのコンサートを観たすべての人々が感じたはずだ。

ASKAとASKAバンドとビルボード・クラシックス・ストリングス。三位一体となった新しい試みは、私の想像以上の成功を見せてくれた。

最後に一言で、感想をまとめておきたい。

見たこともない新しい景色をありがとう。

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