曽水に生きて 成瀬正成編 上 

5 父の心配

こうして家康公と小吉の主従関係は強いものになっていったが、他の小姓達の中には妬みから色々と関係性を問われるような発言がながれるようになっていた。その事は、遠く甲州にいる正一の耳にも届き、心配をさせていた。

久しぶりに浜松に戻り、城に赴いたとき正一は、人に会うたびに「よいのう。成瀬殿は。倅殿が殿のお気に入りで」と嫌みを言われ続けて、嫌になった。
そんな中で、暗い顔をして歩いていた正一を見かけた大久保忠世だけは「小吉は頑張っておるぞ」と笑顔で声をかけてくれた。その気遣いに、正一はすごく感謝した。
その後上段の間で、家康公に甲州の近況を報告した正一は、家康公に小吉のことで少し話をしたいことがあると申し出た。家康公はその時の正一の表情を見て、その話の内容を察したように「そちが心配することはない」と言い、それでも正一が話を続けようとすると、家康公はそれを制し、話を遮った。肩を落として、部屋を出ようとする正一に家康公は「吉右衛門、小吉のことはわしに任せておけ!」と笑顔で言われた。正一はその時の家康公の目を信じ、任せることを心に決めた。そして家康公は「久しぶりに小吉の顔を見ていけ!」と言ってくれ、近くにいた小姓に小吉を呼びに行かせた。

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