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キレる癖が治ったパートナー。キレている側にあるのは「被害者意識」。どうコミュニケーションを変えたのか?

最初にお話を伺ったのは、漫画家の水谷さるころさんと、映像演出家の野田真外さん夫婦。おふたりはともに一度離婚してからの事実婚。今は3歳の息子さんと3人暮らしで、はたから見るとさまざまな作業がフェアに分担され、子育ても楽しんでいるように見えます。彼らのルールは一体どんなものなのか? まずは妻・水谷さるころさんに聞きました。

さるころ「私は前の結婚で、とにかくなんでも自分がやっていたんです。仕事も家事も全部自分。そもそも結婚だって私のほうがしたかったので。子どもを産むと考えて逆算すると、アラサーで結婚しないと間に合わないような情報ばかり入ってきて……。でもその結果、ひとりで全部抱え込む生活になってしまったんです。タオパンパってやつですよね。お風呂に夫が入ったら、タオルとパンツとパジャマを何も言わないで脱衣所に置いておくのがよくできた奥さんだという。相手はそこまでの人じゃなかったんですけど、私が勝手に『いい奥さん』をやろうとして失敗。後から軌道修正ができなかったんです」

 夫がタオパンパになって離婚する夫婦は多いと聞きます。妻を限界まで我慢させるのは、夫にとっても悪手なようで……。

「言わないと分からない」を合言葉にディスカッション

さるころ「頑張り屋の人ほど、先回りして抱え込みすぎるんです。で、限界がきて『あれ? つらい』ってなる。なぜ途中までは我慢できるかというと、苦労してるほうが褒められるし、万能感もあるし不幸ハイになれるから。でも、これは相手からタスクを奪っていることでもあって。私からも、相手にお願いするスキルが必要だったんです。言ってもダメだからと諦めて、何でも抱え込みすぎました」

 確かに、妻が「察してくれ」と思っていても、夫は一切察することがなく、妻がイライラを募らせる話はよく聞く。察してと思ってしまう気持ちもわからなくはないけど、「言わないとわからない」を合言葉にしたほうが、無駄にイライラしなくて済むのかも。

さるころ「もちろん、話し合いにはコストがかかりますよ。仕組みを変えたりノウハウを共有したりするにもコストがかかるし、能力もパワーも必要。日本の学校ってディスカッションする土壌がゼロだし、決められたことに文句を言わず従うことばかり教えられるから、この手のスキルにはめっぽう弱い人が多い」

夫婦で話し合いをしたくなくて会話を避けているという話もよく聞きます。

さるころ「でも、話し合いだって練習すればできるようになるものなんですよね。だから、次に結婚する人は話し合いができてタスクを明け渡せる人にしようと決めたんです。私は空手を16年やっているんですが、空手って物理的なコミュニケーションなんですよ。組手を見ると性格が見えてくる。夫はもともと仕事相手(野田さんが企画した『行くぞ! 30日間世界一周』にさるころさんが出演)だったのですが、離婚をして彼も空手を始めたんです。仕事だと立場が上だったのに、空手だと私のほうが先輩だから、突然従順な後輩になって。40を超えた男が女の話をちゃんと聞ける──それだけでひとつの才能。こいつは伸び代があるぜ! みたいな。相手の属性に関係なく、正しい言い分に耳を貸すことのできる人は伸びるじゃないですか。空手の型を見ても、真面目で素直な人だなってわかったんです。彼なら対等にやっていけると確信できました」


最初につくったルールは「察してちゃん」禁止

 続いては夫の野田さんにお話を伺いました。まずは前の離婚の理由について。

野田「いろいろまだ反省している最中ですし、こっちから見える風景と向こうから見える風景は違うと思いますが、やはりコミュニケーションがうまく取れないことが一番でした。僕は『夫(妻)たるもの、かくあるべし』みたいなポリシーは全然ないけれど、前の奥さんは、それがすごくある人だったんです。それにうまくハマればよかったんでしょうけど……。『もっと大黒柱として威厳を持って』とか『毎月まとまったお給料をもらってきて』と言われても、僕はそういう生き方をしてないし無理。家事育児には積極的に参加してましたが、そっちは求められていなかったみたいで。何か大きな原因があったわけではなく、そういったことの積み重ねだったんじゃないかな」

 相手に「かくあるべし」があると話し合いはかなり難しくなりそう。私もツイッターでたまに知らない人と議論をするけど(しなくていい)、お互い「かくあるべし」があると、納得のいく議論ができることはほぼ皆無。野田さんの言葉が染みます。

野田「そもそもコミュニケーションの取り方も違う感じがありました。僕はストレートに表現するし、元奥さんは本音をオブラートに包んで、相手の発言の含みを考える。だから、腹を割って話すのが難しかった。どうせ本当のことなんて言ってくれないだろうな、と」

 なるほど。夫婦でコミュニケーションの取り方について話しておくのは、結婚して最初にしておくべきことなのかも。

野田「さるころとは議論がちゃんと成立するんです。『行くぞ! 30日間世界一周』という僕が企画した番組で一緒に仕事をしていたのだけど、建設的なことを言えば取り入れてくれるし、『いや、それは違うだろ』みたいな反対意見もくれるので、新しい視点ももらえる。彼女は子どもを欲しがっていたのだけど、この人が子育てをしたら面白そうだなという感覚もありました。子どもに自分の思想を押し付けそうにないし」

 結婚しなきゃいけないからする、ではなくてこの人といると面白そう。そう思える相手と一緒になれるのはすごく幸せなことじゃないだろうか。

野田「さるころと結婚して、最初にできたルールは『察してちゃん禁止』です。『察して』って、責任が発生しないぶん食い違いも生まれる。勝手に期待して裏切られたって思ってしまうし。例えば僕がイライラしているとき、彼女は『なんでイライラしてんの? それを言え』って言うんです。そう言われて、自分は『俺の怒りを察しろ』って無意識に振る舞ってたんだなって気づかされました。普通に考えれば、わかるわけねえだろって話じゃないですか。エスパーじゃないんだから」

これ、どの家庭も刺さる部分があるかもしれない。「察して」は幼稚な感情なんですよね。それにしても野田さんは、すごく柔軟な方。人のいい部分を見て、自分のよくない部分を修正できる事は夫婦に限らず、他人と付き合っていくうえで欠かせないスキルです。

ケンカになるのは「コミュニケーションの齟齬」が原因

 このように、結婚するにあたってコミュニケーションの取り方をどんどんブラッシュアップされてきたおふたり。現在のケンカの頻度は?

さるころ「頻度はどんどん減っていて、今は3か月に1回とかですね。ケンカの発端は一貫していて、野田さんがキレるから(笑)。でも、ひとりがキレているだけでは、実はケンカは成立していないんですよ。ケンカが成立しない状態が離婚リスクだということは前の結婚で実感していたので、ガチでケンカするようにしています」

野田「ケンカって『お前が悪い』『いやお前が悪い』という話にしちゃダメなんです。相手の人格に問題があるという話になると、感情的になっちゃうから。ケンカになるのは、どちらかの人格に問題があるからではなく、コミュニケーションに齟齬があるから。そのメカニズムを解きほぐす努力はしていますね」

 さるころさんが言うには、ケンカには空手と似ている部分があるとか。

キレられたら、相手の意図を確認する

さるころ「空手にはルールがあるし、もちろん相手に怪我をさせちゃダメ。それはケンカも一緒です。キレるということは、相手に一方的に怪我を追わせているようなものなんですよ。それはコミュニケーションの取り方としては間違っているから、まずそこをスルーしてはダメですよね」

 す、すごい。私はまだまだ理不尽にキレられたらキレ返してしまいそうだ。

さるころ「暴言を吐かれたり、キレられたりしたときは、その場で『何を思ってそんなことを言ったんだい?』と相手に確認することが大事だと思います。私も以前は、イライラしている人に何を言ってもしょうがないから、いったん我慢して、落ち着いたなと思ったときに『ああいうのはよくないよね』って言うのがコミュニケーションだと思っていました。そういうオトナな態度を取るのが正しいと思っていたんですが、それは違うなって。なぜなら、キレる人がキレ続けるのって、キレても許してもらえるからですよね」

 全国のイライラしやすい人は、ギクッとしたのではないでしょうか。もちろん私もです。「私のイライラに傷つきながらも許してくれる人がいる」ということなんだ……。

攻撃する側は「被害者意識」を持っている

野田「キレる側としても、“許されて当然”と思っている部分があるんですよね……厄介なことに。彼女の言うとおり、キレることは加害行為なんですが、本人には加害者意識がないんです。むしろこっちが被害者だという気持ちでいっぱいなので」

さるころ「そもそも、相手を攻撃するときに自分が悪いと思って攻撃をする人はほとんどいないんですよ。何かひどい目に遭った、のカウンターとして攻撃してしまうわけで」

 でも野田さんがキレる原因ってなんなのだろう。

さるころ「何か思ったとおりのことができなかったときに、何も言わずにどんどん我慢してイライラを募らせて、それが爆発する感じだよね」

野田「自分としては相手に合わせている……要するに“いいこと”をしているつもりなんです。それが癖になっちゃってる」

さるころ「野田さんのような人の場合、先を読んでイライラしないように立ち振る舞えばいいんですよね。遅刻癖のある相手に遅刻されるのが嫌なら、相手が遅刻するのを見越して行動すればいいんですよ」

キレる思考パターンを客観的に分析

 最近では、めっきりキレることが少なくなったという野田さん。一体どのようにして「キレる癖」を克服したのでしょうか。

こちら続きは

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水谷さるころさん野田真外さん夫婦はコミュニケーションの取り方をどんどん洗練させられています。失敗や問題からしっかり学び夫婦仲にフィードバックできる、とても憧れの夫婦。インタビューをさせていただいたのでした。


こちらは、文春オンラインに著書の1部が掲載されたところから抜粋でした。

https://t.co/X4ygQQdiY7?amp=1

文春オンラインさん、ありがとうございます。


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