「松本山雅しろうと分析」19年vs湘南

2019年J134節
松本山雅対湘南ベルマーレレビュー

降格が決まった山雅に対し、ベルマーレはプレーオフ回避がかかった一戦
山雅は前節から杉本太郎をパウリーニョに変更、フォーメーションは3-1-4-2
湘南は出場停止の鈴木冬一を小野田将人、指宿洋史を山﨑凌吾に変更、フォーメーションは3-4-2-1

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試合開始後すぐに訪れたピンチ

ここ数試合で本来のベースを取り戻しつつある湘南ベルマーレは、この試合でも前からプレッシャーをかけてくる。
序盤はディフェンシブ3rdでアンカーとインサイドハーフの3枚(藤田、岩上、パウロ)が相手ボランチ(齋藤、金子)の前向きのプレッシャーを受け苦戦していた。

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前半1分30秒
湘南坂からのパスが岩上に当たり、高橋の元にボールがこぼれるという展開から。
ロングボールからの展開ではあったが、湘南松田からプレスを受けた高橋は藤田へのパスを選択する。
しかし、湘南齋藤がこのパスを狙っていて、猛然とダッシュ。
ずれたボールをワンタッチで藤田へプレッシャーをかけに来ていた松田にパス。
藤田、水本、高橋の3人が慌てて寄せるも、水本が空けた裏に走り込んだ齋藤にパスを出され、シュートにまで持ち込まれたシーンだ。

ロングボールからの展開のため、中盤の3枚の距離感は広がっていて、高橋にしても藤田にしても齋藤や松田のプレスを受けながらパスをはたくためのパスコースは少なかったように思われる。
湘南は前節広島戦も広島ボランチに対しボランチがプレスをかけ、自由に展開することを防いでいた。
まさに湘南の守備の形から攻撃の形へスムーズにやられてしまったシーンだろう。

しかしながらこのシーン、藤田へのパスがズレたため繋がらなかったが、もし藤田に繋がっていればリスキーなパスになるものの岩上はフリーになっていた。
遅いパスなら古林がカットできるが、速いパスを(プレッシャーを与えられた状況ではあるが)出せたならばカウンターのチャンスに繋がっていた可能性がある。

中盤3人vs2人の優位性。
ここが山雅にとって生命線となる象徴的な序盤のシーンであった。

システムの穴、湘南の狙い。

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前半5分のプレー
湘南が左サイドでボールを細かく繋いでから右サイドに展開、岡本に突破され、クロスから山田にシュートを打たれたシーンだ。
山雅は守備時に5-3-2になるため、片側に寄った場合逆サイドのワイドスペースが空きやすいのは仕方ないとし、それを走力で補おうとしていた。
しかしながら湘南も右CB岡本の攻め上がりはパターンの1つであり、以前から威力を発揮していたため、岡本は永井を振り切りスムーズにボールを前に進めていく。
岩上も必死に追いかけ近づくも、古林とのパス交換からクロスを放たれてしまった。

3バック同士の対戦においてワイドスペースの攻撃は基本的に1対1であることが多い。
更に山雅はサイドチェンジの際は中盤の選手が追いつかないため、このようにCBが思い切りよく上がってきた場合ワイド素早くえぐられるとかなり弱いといえよう。
そうなるとボックス内のマークをしっかりするべきであったが、逆のワイドスペースからゆっくり侵入してきた山田に体を当てることも出来なかった。
今シーズンクロス時のマークはかなり甘く、何度もこのようなシーンを作られていて、今シーズンの課題が改めて浮き彫りになったシーンのひとつだった。


反撃、プレス軽減

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前半15分付近から、湘南のプレスを掻い潜るシーンが見えるようになった。
その理由として岩上と町田のポジショニング修正があると思われる。
まず、湘南は山雅のCBと中盤の3人、合計6人に対し、トップとシャドーとボランチの5人でプレス・プレスバックをしながらプレッシャーをかけ、自由を奪っていた。
WBは基本的にWBがマンマーク的に見ていたが、距離はあけており、ビルドアップに下がって参加する場合はシャドーが対応するシーンが多かった。

その中で藤田のポジショニングが特に重要であった。
藤田にプレッシャーに行くために1番近いのは指宿だが、後ろからプレスをかけると前に運ばれる余地を与えてしまう。
そのため、ボランチ(特に齋藤)がインサイドハーフのマークを捨てて藤田に行くシーンがあった(前述)。
そのため山雅は状況に応じて岩上が下がってボールを受け、プレスの行き先を迷わせるビルドアップを展開した。
さらに、岩上が下がって出来たスペース周辺に町田が下がって受けることで、CBに捕まらない位置で前を向くシーンを増やすことが出来た。

このことで、山雅は湘南のプレスの威力を軽減させ、自由にボールを持つシーンを増やし、自分たちのペースでボールを握る時間を長くすることが出来た。


湘南のプラン変更

プレスが弱まって閉まった湘南は、ハーフタイムにペースを取り戻すために山田に変えて指宿を投入。指宿と山﨑の身長の高いふたりを並べ、起点を作りに来た。
シャドーに移った山﨑は比較的身長の低い橋内のサイドに陣取り、指宿もゴールキック等では橋内サイドに流れ、山雅の守備はその対応に苦しくなるシーンも散見された。


プラン変更の代償

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湘南は大きい選手を2人前線に入れたことで、攻撃にはアクセントを付けることが出来たが、プレスは大幅に弱まってしまった。
80分45秒
逆サイドから展開して藤田から橋内にボールが渡ったシーン。
それまで80分間走っていた山﨑は、猛然とプレスをかけるながらも橋内にとっては十分なプレスではなかった。
パウリーニョ、町田と立て続けにワンツーパスで抜け出し、アタッキング3rdに侵入した。
町田からのリターンを落ち着かせるのにもたついたため、田中隼磨へのパスは小野田(画像では50になってますが、小野田です)にカットされるも、空いたスペースを利用し一気に前進することに成功した。
今シーズン山雅はCBの攻め上がりの機会がなかなかなく、攻撃に厚みを出すことが出来ていなかった。(今井は攻め上がる勇気があったが、隼磨との連携が良くなかった)
このシーンが最終戦で出ることは、数少ない中でもチャレンジし取り組んできた証であり、山雅の今シーズンの成長を意味するシーンだった。


繰り返す過ち

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これを見るのは何度目だろうか。
目の前で見た(私は北ゴール裏にいた)者にとっては、なぜ?なぜ?としか言えず苛立ちすら覚えたシーンだ。
84分。
永井の惜しいシュートから半ばカウンターのように攻め込まれ、指宿にミドルを打たれた後、指宿に拾われたシーンから。
高橋が指宿についていたが、パスを出された古林には着いていけず、ペナルティエリアから岩上が詰めている...ように見えた。
数えたらキリがない、開幕戦でも見た、先週大阪でも目の前で見た。
なぜ詰めない、なぜ距離を空けて止まるんだ。
岩上は結局ペナルティボックスから出ることなく、5m以上空間を与えてクロスを蹴らせてしまった。
この守備ではフリーキックと同じだ。
今シーズン山雅がリトリートして奪えそうで奪えない。そんなもどかしい思いをする空間を開ける守備は、アタッキング3rdにおいては致命傷である。
この部分が34試合修正出来なかったことが、山雅が残留に値しないことを物語っている。
ボックス内のマークも相変わらず、届きもしない選手がボールに吸い込まれ、大外でフリーでボールを持たれた。

後一歩詰めていれば。
後もう少し相手の位置を確認して動いていれば。

そんなタラレバを34試合繰り返し、なお修正できなかったことは、チームとしての欠陥なのでは無いかと思うほどであった。


やけくその戦術イズマ
交代の遅さについては、一個前のnoteで触れてあるので割愛するが、失点して慌てて用意したのがイズマと山本。
正直この展開でイズマがいなかったら山雅はそのまま負けていただろう。もし居なくても引き分け、勝ち越していたならば、失点後一瞬も気落ちすることなくボールをセットした町田也真人の活躍以外にありえない。そんな展開であった。
イズマが入ってすぐ、時間稼ぎのボールを書き出し、マイボールにした山雅はイズマにボールを集め、前進していく。
その結果押し込み続けた山雅は飯田のヘッドから阪野の得点を演出することが出来た。


試合総括

なんのプレッシャーもない試合とはいえ、山雅で戦うのが最後(かもしれない人も含め)の選手、監督の気持ちを見ることが出来た。
また、1年間をかけてゆっくりと成長している証を見れたこともそうだが、松本山雅の歴史を作った人の思いを噛み締め、次のステージに進むための転換期であることを改めて証明するような試合であった。
今後、チームの色はどれだけ変わるだろうか。
楽しい未来を想像しながらも、過去の反省は活かさなければならない。
この試合に出た選手たちがどれだけチームに残るかは未知数だが、この試合が来年に活きることを願っている。