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【映画のこと】「氷の花火 山口小夜子」を観て山口小夜子に魅入られた


山口小夜子さん。

「東洋の神秘」を代表するミューズとして伝説的な存在のモデルさんです。

彼女のアイコンといえば、印象的な切れ長の目に切り揃えられた黒髪、赤い口紅。

わたしが彼女について知っていることといえば、上記に加えて


・資生堂の広告に出ていた方

・ミステリアスなイメージ

・日本人で初めてパリコレに出演したモデルさん


といったところでした。

「氷の花火 山口小夜子」は完全に彼女のビジュアルに惹かれて鑑賞。
結果、「山口小夜子」に取り憑かれて劇場を出ることになりました。


「美しいことは苦しいこと」

2007年に57歳で急逝された小夜子さん。

この映画は彼女の遺品の開封と親交のあった人たちの証言を集め、残された彼女の映像に触れながら「山口小夜子」を紐解いていくドキュメンタリーです。

映画が始まり過去の映像が流れるとまもなく「あれっ?」と引っかかるシーンが訪れます。


小夜子さんの目が、二重で丸い。


カメラマンさんへのインタビューでも語られているのですが、小夜子さんがもともと生まれ持ったのは丸くて大きな目。
でもひとたび撮影が始まるとフッ…と伏し目を作り、あの印象的な視線が生まれるのだそうです。

プライベートの写真ではパブリックイメージとは異なる、口角をきゅっと上げて笑う姿。

小夜子さんがよく通ったというパリのレストランのご主人は、イヴ・サンローランのスタッフが「小夜子がどうやって着替えているのかわからない!他のモデルと同じように素早く着替えるのに彼女は絶対に人前に裸を見せない」と語っていたエピソードを披露してくれたり。

彼女が「山口小夜子」というアイコンを構築するために徹底してセルフプロデュースをしていたことが伺えます。

彼女が作り上げたのは実際の東洋とは異なる「東洋的な美」の幻想です。

実際の山口小夜子さんの顔立ちや印象とは離れたいわゆる「東洋的」なイメージを作るために、メイクを調整し、表情を管理し、立ち居振る舞いにも気を配り、生身の人間である小夜子さんは徹底的に無化される。

そうして現れる「山口小夜子」像は、肉体はそこにあるのに生の実在感が薄く、まるであの世とこの世の狭間のよう。
我々は一人の人間の肉体をイコンとして「東洋の美」「山口小夜子」の幻想を見ているのでしょう。

家に帰って勢いでワーッと描いた


「煙になりなさい」と言えば、彼女は煙になれる


モデルとしての山口小夜子さんしか知らなかったのですが、彼女は根っからのクリエイターでした。

服飾を学び、モデルとして活動する中でも「こう着てこう見せるのはどうか」と積極的に提案していたという小夜子さんは、後年、コンテンポラリーダンスや演劇、朗読、若手クリエイターと組んでのDJ(!)など、さまざまな活動に精力的に取り組んでいきます。
コクトーや寺山修司、アングラな演劇まであらゆるものを貪欲に取り込んで自分の表現に昇華させていく姿は圧倒的でした。

「表現すること」に対して心から真摯で情熱的なんだけど、ギラギラしているというよりまっすぐに澄んだ少女性を感じます。
大人の女性に言うのも失礼かもしれないけれど、少女という言葉がぴったりだと思う。

「頭の中を空にすると洋服が歩き方を教えてくれるの」

映画の終盤、「永遠の小夜子プロジェクト」というプロジェクトが行われます。

プロジェクトに集まったスタッフは、メイクに資生堂で山口小夜子さんのメイクを担当した富川栄さん、衣装には大の山口小夜子ファンだという丸山敬太さん、カメラマンには同じく小夜子ファンの下村一喜さん、スタイリストには間山雄起さん、そしてモデルには小夜子さんと面識のない松島花さん。

彼女と密に仕事をした世代、彼女に強く憧れた世代、そして「山口小夜子」を体験していない世代。そんな世代を超えた人たちが集まって「山口小夜子」像を現代に再現するという試みです。

モデルさんにメイクを施し衣装とウィッグを纏わせて撮影をしていくのですが、プロの仕事がかけ合わさってどんどんボルテージが上がっていくのが伝わってきて涙を流してしまい…

撮影の終盤にもなるとスタジオの熱気が高まり、全員「山口小夜子」に魅入られ取り憑かれたようでした。

特にモデルを務めた松島花さんの喋り方が撮影前と撮影後で違っているのが印象に残っています。
山口小夜子さんと面識はないはずなのに、彼女の喋り方に近くなっている。
メイクの富川さんが「小夜子が乗り移った」と言っていたのを半分眉唾な気持ちで処理しようとしかけましたが、あながち間違いでもなかったのかもしれません。


そしてわたし自身もまた、上映後まっすぐ売店へ向かいパンフレットを購入し「今ほかの情報なんか入れてられない!」とばかりにご飯も食べず渋谷パルコのベンチで感想を書き殴り、100分の間にすっかり「山口小夜子」に魅入られていたのでした。

これは半泣きで撮った写真


「氷の花火 山口小夜子」は2023年11月23日まで、渋谷PARCO8階のWHITE CINE QUINTOで上映されています。
ソフト化されていない作品ですので、ご都合が合えばぜひご覧になってみてください。





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