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203号室 ジンジャーエールと猫の喧嘩

2020/06/13
 無心にひたすらに何かを細かく刻みたい日がたまにあって、今日がその日だったので、新生姜を一時間くらいかけて包丁で刻んでまるごとジンジャーシロップにした。炭酸水で割るとジンジャーエールになる。去年初めてやってかなりよかったから今年もやることにした。体質的にお酒はほぼ飲めないので飲み会となるとたいていジンジャーエールをおかわりし続ける。居酒屋のジンジャーエールはみんな同じ味で、出す方も出される方もそのことにあまり頓着していない。ジョッキがそこにあるということに意味がある。電車の入場券みたいなものだ。まわりはどんどん酔っ払っていくが、わたしはひとりシラフで、最初の駅にいる。そういう消極的ジンジャーエールばかり飲みがちな人生だから、それと釣り合いを取るような感覚でジンジャーシロップを仕込んでいる。
 リズミカルな反復運動はなにか落ち着くものがある。セロトニン? よくわからないけどそういうの。ミキサーとかぶんぶんチョッパーという道具を使ったら一瞬で終わるのでは、べつにみじん切りじゃなくて薄切りや千切りでもいいのでは、と思いながら結局ぜんぶ手でみじん切りした。動かすのは肩から先だけだが、刻み終わったら散歩のあとみたいに体がぽかぽかしていた。
 料理をする時に、合理的に手間を切り詰めていく人と、過程そのものに喜びを見出していて作業時間が伸びがちな人がいる。わたしは後者のタイプで、仕事で文章を書く時も20文字くらいのキャプションにうんうんうなって小一時間くらい浪費してしまったりするがよく考えたらけっこうやばい気がしてきた。日記は比較的さらっと書けるから楽だ。あと、締切に追いまくられている時は苦しいけれど、悩む余地なく最短距離で書けるから実はわりと好きなのかもしれない。外では雨がどしゃどしゃ降っていて、その音と包丁の音が合わさっていい具合に没入できた。できたシロップをザルにあけて生姜のかすをしぼったり、瓶を熱湯消毒したり、そういうしち面倒くさい作業もまあ楽しい。
 最近よく猫が喧嘩する声が家のそばから聞こえてくる。まおう、まーお、おおおう、ふぎゃあああっと始まるとつい見に行ってしまう習性があり、今季も何度かチャレンジしているがまだしっかりと観戦することはできていない。一度去っていく猫のうしろ姿がちらっと見えた。むっちりした白と灰色の猫だった。このあたりには何匹か猫が出るが、みなみさんが話していたネッコちゃんだろうか。猫の喧嘩は楽しいけれどあまり怪我しないでほしいと思う。

(蜂本)

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