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マンタレイ@さいたま国際芸術祭2023

タイ映画「マンタレイ」は掘り出しものだった。難民問題がテーマだと知っていたから気が重かった。いきなり冒頭で森が光る、電飾の鬼登場!呆気に取られた。明らかに電飾だが、不思議で怖くて、見たいぞスイッチが入った。映像の力ってすごいね。

見どころは、主人公の漁師が底抜けにいいやつで、優しくて、淋しくて、か弱くて、汚いものに踏みにじられ、美しいものに焦がれて、悲しい運命を背負ってしまうこと。そして2時間、一言も喋らないロヒンギャの男、全てを受け入れる聖めいた受難の神々しさ、あと電飾。

ニュースで見るけど、クマは強いね、単独ではかなわない。人間は群れると殺傷能力も強くなるけど、ピンだと弱い。そういう生き物として一人の漁師が、魚を捕ったり、マングローブの森でカニを捕まえたり、森で貴石を掘ったり、汚れ仕事を請け負ったりして、生きている。マンタが来るのを待ち焦がれたりもする。そういう自分なりの平穏なローテーションのなかでひん死の男を見つける。ロヒンギャらしい。彼は左胸の下のほう(意味深、聖痕っぽい)を何かで刺されてひどい傷を負っている。そんなの人間不信にもなりそうだが、命を助けてもらって漁師を信じることにしたのかもしれないし、行き場もないのかも。トンチャイと名付けられた異邦人と漁師はつかの間一緒に暮らす。よかったね、と思うんだけど、もちろんそれではおさまらない、映画の神様的にもそうはいかない。

何度か登場する近隣の森、宝石が埋まる森は夜になると色とりどりの電飾がともる、すごくきれい、怖い、カラフルなヒトダマみたい。ここには殺されたり、沿岸に流れ着いたロヒンギャ難民の遺体が埋まっているのだという。たまたま救われたけれど、トンチャイもそうなる運命だったのかもしれない。そして夜が深まると、電飾をまとった鬼がライフルをもって現れる。

タイの人は好きなんだな、電飾。バンコクの町とか、屋台やなんかにもよく巻き付いている。何かを葬らったり、祝ったり、お祀りするのに、色がついた光がいい、鎮魂できると思うのかも。

単独なら、社会が絡まなければ、人と人が手を取り合える可能性があがる。群れると違う生き物になる、怖くなる、人の性質なのだろうと思う。
わかりやすくて、美しくて、いろいろ感想を言いたいたくなる映画だった。