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漫泊日記

漫泊に泊まったら楽しかったので記録。徒然書いたら長文。

MANGA ART HOTEL, TOKYO/ 漫泊

2019年2月、色々と経験したことないことをやってみたくなりマッチングアプリを利用したのだが、その中で唯一何回か会って飲んだ人が漫画好きで、2/1から神保町に漫画が読めるホテルができたと教えてもらった。職場が近かったのであえて近くに泊まることもないだろうと思っているうちに時が流れ、会社に行くこともほとんどないような世の中になり、あの頃みたいに誰かと飲んで気分転換なんてできないから、今なら一人で漫画に没頭するのもちょうどいい気分転換になるなとふと思い出し、早速予約した。

9月のとある休日の神保町。時間いっぱい読みふけるため、チェックイン開始時間の15時にビルの5階へ。カウンターは無人で、迷いながら20分ほど置いてあった案内を読んだりタブレットを操作して、なんとかリモートチェックインを完了した。オペレーターに部屋番号と4階(女性向け漫画兼女性用宿泊フロア)、5階(男性向け)の入室用暗証番号を口頭で伝えられた後、エレベーターで4階に降りて荷物を書棚の中に組み込まれた秘密基地のようなカプセルベッドに置いて、シャワールームやトイレを確認後、早速漫画を確認しに出た。

4階と5階は男女で分かれているのもあり、夜は相互に行き来できなくなる、すなわち男性向け漫画を夜は読めなくなるので、先に内容を確認したかった。男性フロアには見えないほかの宿泊客の気配を感じたが、顔を合わせることもなく一人で秘密の倉庫に立ち入っているような感覚になりながら物色。

漫画喫茶と呼ばれるものは過去に一度だけ高田馬場のBIGBOXにある自遊空間に行ったくらいだが、そこにある漫画は、昔のものから新しいものまで様々ながら「全巻読破」が主な目的であるように思った。つまり、人気のある既知の漫画を1シリーズ読むことができるよう、大きな蔵書を抱えているイメージだ。

一方、予約サイトなどで評判を見ていた通り、漫泊は蔵書数やタイトルがあまり多くない。それもそうで、ここに宿泊しに来るのは全巻読破したい人でなく、本に囲まれて眠るという体験、知らない漫画との出会いが目的だからだ。

"漫泊"を提案する「マンガ アート ホテル トーキョー」が神保町エリアに開業、5000冊に埋もれる空間に

ラインナップは代表が面白いと思ったものが選書されているそうだが、見た限り以下のように感じた。
・出版が古くてここ5年程度の作品
・最新の流行りはおさえているが、昔から人気のシリーズはない
・長いシリーズものより、既刊10冊以内のものが多い
・ドミトリー感覚で利用するインバウンドを狙ったEN版の蔵書が多い
・普段人気作を多く読む人は知らない漫画ばかりだと思うが、私はそこそこ雑食で読む方なので、意外と「本当に知らない漫画」「本当にマイナーな漫画」は置いていなかった、知っている人は知っている良質漫画という感じ
・私が好まない「ちょいエロキャラ漫画」的なジャンルは一切置いていなかったし、外国の方に利用してもらって恥ずかしくない選書だったと思う(これは完全に私の個人的な好み)

例を挙げるのであれば、『鬼滅の刃』のJP/ENはあっても、『ワンピース』は置いてないという感じ。ジョジョもコミック版でなく完全版。事前にインスタグラムなどでも蔵書は確認できるが、検索システムや一覧がないので施設に収まるよう新しいものに入れ替えているのだと思う。

陳列方法も手に取りやすいよう表紙を見せる並べ方で、ものがぎゅうぎゅうに詰まっていると手に取る意欲をなくすタイプの私にはちょうどよかったし、ほとんどにポップがついていて漫画と出会いやすかった。

※手に取るといえば感染症対策だが、ビニールカバーがつけられた漫画は恐らくいちいちアルコール消毒されていないし、シャワールームは薄汚れた珪藻土の足ふきマットがおかれたり、人と同じ空間に寝るので外気との入れ替えをもっと行ってもいいようには感じたが、そもそもほかに泊まっている客も私のほかに一人だったりしたので、私は自分で持ってきていた除菌ウエットティッシュでこまめに手を拭いたり、余計なところに触れないようにするなど個人的に対策を取った。室内は写真より雑然としていて、HPの美しい写真に比べると1年半で劣化しすぎではないかと思ったが、カプセルホテルという形態である以上、仕方のないことかと思う。最低限の清潔さはあったが、気になる人は宿泊しないほうが良い。

さて、途中でご飯・シャワー休憩を挟みつつ(ご飯を食べる空間はないので何か食べたければ自由に出入りして外で食べることになる)、結局私は以下の漫画を読んだ。

コマツシンヤ『8月のソーダ水』(太田出版)
表紙を見て前から気になっていた。オールカラー。幻想的。

ソーダ水

石山さやか『サザンウィンドウ・サザンドア』(祥伝社)
知らなかった作品、マンションを巡るオムニバス。

サザンウィンドウ

イトイ圭『花と頬』(白泉社)
知らなった作品、ガールミーツボーイ。不思議な空気。

花と頬

ヨコイエミ『カフェでカフィを』(集英社クリエイティブ)
カフェをめぐるオムニバス、まったく知らなかったがなんだか忘れられなくて結局昨日電子版を買った。

カフェで

鶴田謙二『冒険エレキテ島』(講談社)
圧倒的に絵がうまいが全く単行本が出ないと噂には聞いていたのでいつか読みたいと思っていたが見つけられてよかった。
1巻が2011.10、2巻が2017.11と6年で1冊…すごい漫画だった…圧巻

エレキテ

森田るい『我らコンタクティ』(講談社)
ロケット飛ばす漫画、とても面白かった。何となく読んでなかったので読めてよかった。今後も注目。

コンタクティ

沙村広明『波よ聞いてくれ』(講談社)
既刊4巻まで読んでたから続きを読んだ。相変わらず面白かった。

波よ聞いてくれ

他にも色々手に取ったはずだけど忘れてしまった。翌日チェックアウトの11時まで読んだけど結局男性フロアで確保した分を読んで女性フロア分はまったく読めなかったから、あと2泊くらいしたら気になってたやつは読めるかなという感じ。宿泊者はその場で数時間延長を選べるようだが、疲れたのでやめた。

チェックアウトはタブレットですぐ終わり、気ままな漫画時間もあっという間に終わった。そのまま気になっていたお菓子屋さんに寄って焼き菓子を買い、ランチをして帰宅。

泊まっているときはあれこれ不便な点が気になったし、あまりに根を詰めて読んだので相当疲れてしまった。公式サイトには宿泊の細かい情報が書いておらず、宿泊のルールなども見つけられなかったので、行ってみなければわからないことが多く、もう少し事前案内してくれてもよかったかなと思う。

とはいえ、今だからこそ、こうやって一人で、自分で選択した楽しいことしてただ時間を過ごすというのは良い時間だったなと後から思った。とても静かな空間で、音に気を使ったりしなければならなかったが、自分とその漫画しか世界に存在しないみたいな静謐さはなかなか得られない経験だった。

他にもたくさん漫画があり、漫画を読みたい人なら誰が行っても楽しいと思う。4階ならテラスもあって、天気が安定しなかったので私は利用しなかったが、涼しくて気持ちのいい日中ならそこで読むのも良さそう。そのうちまた泊まりに行こうかな。

着替えさえあれば手ぶらで利用できる程度のアメニティもあるので、皆さんも思いついたその日にぜひ。


余談:Twitterで、本の紹介をするときは色々な理由から出版社のリンクを貼るというツイートを見かけたことがある。その方がそうしている細かい事情は分からないが、リンクのために署名を検索しても、トップはコミックレンタルのサイトやAmazonで、公式HPを探すのがいささか面倒だった。今まで当たり前だと思ってたけどこれって変なことだ。こうやって何かを残すために検索したり裏取りをしたりすると、記録をまとめる作業というのは膨大な確認作業の連続だと思い出せる。

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