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陽気な雑踏が生まれていた、4年ぶりの黒磯日用夜市について思うこと

ふだんは文章を書いたあと、取材した相手に見てもらってから記事を公開する……という手順を踏むけれど、今回は、まちの人たちにあまり見せずに勝手に書いている。レポートではなくあくまで感想としての文章を残しておきたいと思って。もしも後からこのお祭りを知った誰かがいて、その人にとってのレポートになったなら、結果としてそれはそれで嬉しい。


愛着のあるまち、が自分の中に増えていくといいなと思う。

何度でも行きたいまちであり、会いたい人のいる場所であり、そこにいくことで自分の変化とこれからについて考えるような土地。

栃木県にある「黒磯」というまちが、自分にとってそういうまちだ。昔ある時期に毎月のように通って取材を重ね、1年前には主筆として、本を出版させてもらった。


2022年2月末に出版した『A GUIDE to KUROISO 栃木県、黒磯。あたりまえに未来が生まれる町』。魅力的なまちがどのようにして生まれたのか、店主たちのインタビューを通して紐解こうとした。


そんなまちに、久しぶりに行ってきた。8/27に開催された「黒磯日用夜市」に参加するためだった。

仲の良い友人や先輩を誘って、午前中は車で少し離れた場所にある那須エリアの森へ。昼過ぎに街中に戻ってきて、かけ足でお店を覗いたあと、駅前のイベント開催地へと向かった。



お祭りの少ないまち

黒磯には、お祭りが少ないらしい。小学校の校庭で開かれる盆踊り大会こそあるけれど、御神輿を引くような祭りはなくて……夜市は、そんな黒磯のまちの人たちにとって待ち遠しい、特別なイベントになっているようだった。

撮影:黒磯日用夜市実行委員会 行けなかった朝の準備の写真を、あとから知人にもらった


この夏は、どの土地もそうだったのかもしれない。「4年ぶりに開催される祭り」がどのまちにもあって、心なしか、みんなが浮き足立っているんじゃないかと思えた。

「みんなで準備する」というのも、楽しい祭りの側面としてあるのだろう。実際、駅前で暮らす人たちだけじゃなく、古道具店や、メスカルバー、駅前にあるベーカリーのチームなど、まちのいろんな人たちが朝から集まって、準備をしていたらしい。

それはちょっと「町内会っぽいな」と思うし、それと同時に「曖昧で入りやすいだろうな」とも思う。「みんなで準備をしよう」の「みんな」が、何かの協会に入ってるかどうか、とかではなくて、「この祭りはいいものになる」と思った人たち……ということを共通項に集まっているような気がした。学生のボランティアの人たちも、当日の運営を手伝っているらしい。

これまではまちの入口は「店と関わること」だと思っていた。でも、きっかけさえあれば「祭りに関わること」がまちに関わる入り口になることも、あるんだろうな……と思う。

(きっかけってたとえば、前泊をしてバーで飲んでいた時に「あしたは朝7〜8時くらいから準備してるからね」と教えてもらって、急遽手伝いに行くようなこと。自分は“前泊をしてバーで飲んでいたときに……”まではチャンスを掴み、朝にきちんと寝坊をしてしまい、チャンスを逃してしまった)


「森、道、市場みたい」というたとえのこと

15時を少し過ぎたころ、駅前の会場にいくと、そこには自分が黒磯駅前で見たことのないほどの人々が集まって、楽しげな雑踏が生まれていた。

歩行者天国になった道路には食べ物やお酒の出店が並び、図書館の前の芝生に建てられたライブステージでは、レコードショップ「六喩」を営むB.Dさん率いるバンド「B.D. & THE KILLER STONE」がライブをしている。

事業や活動について共感しあえる人たちとの再会が多い場所を、自分の周囲の人たちはよく「“森、道、市場” みたいな空間」と呼ぶ。

夜市にも、そんな空気があるな、と思うけれど、ひとつ違うのはそれが「栃木県周辺」という土地に絞られていることだと思う。より近い土地で、共感しあえる人が多くいて、集まれる場所が生まれていることはとても幸福なことなんだろうな……と思える。


こんなにも駅前に人が集まるなんて、とても予想外で、とても楽しい時間だった。

そもそもの黒磯という土地の歴史を振り返ると、東北へ移動する人たちが一時的に立ち止まるような場所だ。本をつくる時に調べた白黒写真には沢山の人が集まる駅前の様子が映っていたけれど、いまのように「黒磯で時間を過ごすために集まった人々」とは違っていた。

夜市に人があつまるなかで、図書館が果たした役割は大きい。あんなにも外を煌々と照らす館がなければ、駅前の夜はもっと暗い。明るい場所があると、「夜もここにいて大丈夫なんだ」と思えたはずだ。普段は地元の人々や、数駅先の学校に通う学生たちが集まって過ごす図書館が、この日は駅前で音楽に揺れる人たちを夜遅くまで見守っていた。

駅前で「楽しむ」「祭りをする」ということの歴史は、いまの時代の日用市や、夜市からはじまっていくのかもしれない。

大袈裟な話ではなく、土地の記憶はこういう集まりが長い年月続いていくことで、更新されていくものだと思う。何かが20年、30年続けば、それはもう「そのまちの個性」になると断言できる。一軒のカフェがまちに大きな影響を与えた黒磯では、特にそうだろう。


黒磯には、「いい街」を見てきた人が集まっている

それもまた、いい祭りが生まれる理由になるんじゃないか? 理由というか、パワーの底上げになるような気がする。

関わるそれぞれの人が、「いい場所ってこういうもの」「もうちょっとこうしたら、いい場所になるのでは?」という感覚を持っている。参照するものが多ければ多いほどよくて、いろんなものを見ている人は「いいまち=これ」という1つの固定概念に縛られない。いいまちの決まりなんてなくて、「このまちはこういうところがいいよね」という変化する条件だけがある。何かに触れるたび変わりゆく基準こそが、「黒磯なら、こうすればいいまちになる」という感覚を育てるのではないかと思う。


本を作った時にお世話になった人たちとの再会もあった。楽しくて楽しくて、その楽しさたるや写真を撮る手もブレるほど…

いいお祭りに遊びに行って、いろいろなことを思った。日記に書いて自分の手元に置いておくだけでは勿体無い気がして、ここに書き残しておきます。来年もあるといいな、そうしたらまた、友人たちを連れて黒磯に遊びに行きたい。





かつて1年間通って制作した本を、引き続き販売しています。取り扱っていただける書店さんも募集中です。黒磯のまちに行くたびに「この本をもっと多くの人に読んでもらいたい」と思うし、「やっぱりいい本だよな……街のことを深く知れるもんな……」と思う。書いた自分が心から愛していると言える本なので、ぜひ多くの人に読んでほしいです。

全国の取り扱い店さんは、▲こちらのリンクにまとめられています。北は北海道、南は福岡まで。お近くのお店や、気になっていたお店があれば、ぜひそちらへ足を運んで、手に取ってみてください。

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