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不寛容な社会に贈る「ルポールのドラァグレース」の健全性

皆さんはドラァグクイーンをご存知ですか?

簡単に言うと、日本だと「女装家」とか「オカマ」とかで総称されることがある人たちです。適切じゃないかもなので、Wikipediaを。

ドラァグクイーン-Wikipedia
ドラァグクイーンの起源は、男性の同性愛者が性的指向の違いを超えるための手段として、ドレスやハイヒールなどの派手な衣裳を身にまとい、厚化粧に大仰な態度をすることで、男性が理想像として求める「女性の性」を過剰に演出したことにあるといわれる。

ルポールのドラァグレースに、俺の求める理想のアメリカがあった(by某コメディアン)

この言葉は、記念すべき10年目、シーズン10のファイナルで流れていた映像のひとつ。トランプ大統領が誕生したような時だったと思います。

この言葉を熱く話すスタンダップ・コメディアンの映像を見て、わたしは、アメリカへのイメージがかなり覆りました。

まず、わたしが学校で学んだアメリカは「人種のサラダボウル」。多種多様な人種から成り立つ州立国家、と認識しています。

え、アメリカって、人種や多様性に寛容な国じゃなかったの?

ルポールのドラァグレース、とは。

アメリカを代表するドラァグクイーン「ルポール (通称:ルー)」が主催する、リアリティーショー番組です。2009年よりはじまり、毎年1回開催されます。2018年のシーズン10で100人を超えるクイーンたちが出演しました。

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ルポール
身長が193cmとかなり高く、女装の時のヒールとカツラによっては2m越えます。(お察しの通り、写真の2人は同一人物)。ドラァグクイーンとして初のMAC(化粧品)のモデル、俳優、ラジオMC、歌手、オリジナルメイクラインの販売など、とにかく才能豊かな人。

レース優勝者には、アメリカでNo.1の称号。そして、10万ドルと1年分の化粧品。

出演者は、毎回「課題」と「ランウェイ」で戦います。

課題は週替わり。"ライブラリー"という"超絶うまく悪口いう大会"やモノマネ、テレビや本の紹介をしたり、ゲストにインタビューしたり。番組やショーを回せるか。歌って踊ったりラップしたり。かなり幅広いです。

ランウェイは、毎週のテーマがあり、人魚とかリゾートとか、手作り3本勝負で裁縫できないクイーンが号泣したりします。見所です。

その週で、成績最下位の2名は、ステージに残され''命をかけた"口パク対決をします。

熾烈な戦いを最後まで勝ち抜き、ファイナルレースで大勢の観客の前でパフォーマンスし、America's Next Drag Queenが誕生します。

アメリカでNo.1ということは、ほぼ世界でNo.1。
ほぼほぼ無名の出演者が、ショーに勝ち残れば「称号」「約1000万円」「1年分の化粧品」がもらえます。

このショーに出れば、いつの間にかファンが付き、自分のイベントに人が集まり、ドラァグ界に一旗あげられる。そんな番組です。最初に敗退した人でも、有名になったりします。

不寛容な社会を「愛」で笑い飛ばせ

ここまでの情報量でもパニックになると思うんですが、リアリティーショーだからこその、クイーンたちの人としての側面も垣間見えます。

私が年の割にリッチすぎる、パトロンがいるとか勝手に言う奴がいるけど、私は毎晩ステージに立って、お金を稼いでるの。毎晩ドラァグして、ステージに立ってるわ!毎晩6時間ヒールを履いて、踊ってお金を稼いでるの!
黒人でゲイはあり得ないの。
黒人で、ゲイは、あり得ないのよ…!
ある日、親にゲイだとバレたの。そのあと、教会に連れて行かれたわ。そして、悪魔祓いされたの。わたし、これでゲイじゃなくなるんだ、ストレートになるんだって思ったわ。でも、なれなかったの。
"ゲイ"の存在を知らなくて、自分は異常なんだって、自殺未遂したことがあるわ
両親は私にいうの。いつ、かわいい中国人の彼女を連れて帰ってくるんだ、ってね
クラスメイトと彼ってかっこいいね、って言ってたの。そしたら呼び出されてね、校舎裏でみんなに見える前でボコボコにされたわ。ショックだった。
数年前にエイズだと診断されたわ。
(ゲイクラブの銃乱射事件が起きた時)あの時、私はあのステージに立つ予定だったの。でも他の予定とブッキングしてキャンセルしたのね。そしたら、友人が「ハロー、今日きみ出演だよね」って。「ごめんねキャンセルになったの」というと「そうなんだ、それは残念だ。でも楽しむね」って。それが最後の会話なの。

そんな中、毎週課題をこなすクイーンたち。

有名になれば、ドラァグクイーンとして暮らしていける。辛い過去を乗り越えて、課題を越えて、ジャッジズ(審査員)の批評を受け止め、クイーン同士の争いにも負けず、ステージに立ち続け、自分のドラァグを昇華していきます。

え、私って何やってんの

私は、ストレートで生まれて、"女性らしい"女性かと言われると疑問だけど、トイレに行くのにも、お風呂にも、違和感を感じたことはない。

クイーンたち、こんなに頑張って努力して理想の姿になろうとしたり、世界に貢献しようとしたり、生活を豊かにすることを諦めていないし、人から根深い悲しみを受けてるのに、人を笑顔にしようとしている、目標に向かって課題に向き合って努力を続けている。

えっと、私、ストレートだということに、今どれだけ甘えている?
なんで自分の人生から逃げているの?
悪魔祓いされたこともないのに?

いやもちろん、中には、課題がうまくできなくて、できない理由を述べるクイーン、怒り狂うクイーン。課題を適当にするクイーン、泣き言しか言わないクイーン。ダメダメクイーンもいるわけです。

彼女たちのおかげで、「あ、私こういうときあるな。この時は、このクイーンのような対応をすればいいのだ」と学びました。他者認識ができたというか。それでも、彼女たちの背景はわたしの人生とは比べものにならないほどの葛藤や苦悩があったりするわけです。

力をくれることばたち

愚痴っぽい彼女も、怒り狂う彼女にも、ルポールは出来る限りのことをします。

私も心の中に「お前なんかに出来るもんか」って囁く奴はずっといるのよ!
自分を愛せない人は、他人を愛せないわ。
わたしはこれまで闘ってきて、いまここに座っているの!
あなたにお金を払ってない人の意見を、気にする必要はないわ
(Sissy that walk)
あなたは、アメリカを代表するクイーンになるのよ
Everybody say "LOVE"!
あなたは血の繋がった家族は側にいないかもしれない。でも、私たちは家族だし、あなたを理解できる。自分で家族を選ぶことができるわ

あなたたちが苦しんでいることは、私が通ってきた道なのよ、と。

ルポールは、このリアリティーショーで、一般層へのアメリカのゲイカルチャーについての伝統と啓蒙だったり、クイーンのショーマンシップを証明していたり、多くのクイーンの生活を豊かにしています。日本にいる私にも、Netflixを経由して、現在のアメリカでのクイーンの立ち位置を教えてくれるのです。

わたしの好きなドラァグクイーン

長い歴史の中で、お気に入りのクイーンが数名いますのでご紹介。私の好きなクイーンは、ビューティ、ファニー、ユニーク。優しくて自己を洗練している人が好きです。

シーズン3 マニラ・ルゾン 

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母がフィリピンと、父がドイツとスウェーデンのハーフ。ちょっとぶっ飛んだクイーンなのですが、タレント性がすごく強い人です。色々あります。

シーズン9 サーシャ・ベロア

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ロシアに留学経験を持つ、インテリ系奇妙系アート系クイーンです。解釈が独特ですが、ユニークで、口パク対決も"表現たる表現"。歌って踊るだけではないことを圧倒的センスで教えてくれます。スキンヘッドなのは、母がガンの治療中にそれを嘆いていて、自分もスキンヘッドにしたのだそう。低めのいい声です。

シーズン10 アクエリア

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若いビューティファッションクイーン。努力家で、もともとInstagramやNYでは有名な存在だったご様子。子供の頃からルポールのドラァグレースを見て、両親からドラァグネームをもらいます。やっかみもすごいですが、言いたいこと言うパワーと自信があります。クイーンは美貌だけではないことを綺麗に証明してくれます。

シーズン6  ビアンカ・デル・リオ

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わたしの一番好きなクイーン。オリジナル主演映画「ハリケーン・ビアンカ」もある人気っぷり。他のクイーンが賞レース系クイーンが多いとしたら、彼女は圧倒的コメディアン。しかし、衣装作りはお手の物。毒舌につぐ毒舌で全員に噛み付きます。言葉は鋭いんですけど、(あ、この人優しい人なんだ)って思うスイートなハートの持ち主です。でも怖い。怖いけどいじられたい。ガミガミガミガミガミ〜って喋ります(私にはそう聞こえる)。セサミストリートの人形みたいでとてもかわいいです。

いろんな事情はあっても、彼女たちは歩いている

この赤い服を着たクイーン「アクエリア」がシーズン中に、

金曜の夜に予定がないなら新しいメイクを試せばいいのよ。顔がピエロで人に笑われたとしても、自分が最高だと思えばいいの!他人が何よ!

と観客にアドバイスするシーンがあります。彼女は超自信家ですが、「他人が何よ!」と言うシーンはすごくパワフルです。

表現をすることは、自分にとって「快」であると同時に、誰かにとっての「不快」でもあります。逆も然りで、自分にとって「不快」でも、誰かにとっては「快」だったりするわけです。

もし、アクエリアが人の目を気にする人で、「自分は誰かの不快な存在なのだ」って思っていたら、今の彼女は誕生していないし、表現者として洗練される機会は奪われてしまい、彼女は存在しなくなってしまう。こんなに輝いているのに。

彼女たちは、私に、生きることや、やり抜くことを教えてくれる。その輝きを持って。

と、いうわけで、今日本では見ることができずにいる「シーズン12」と今度始まる「オールスター5」の放映お待ちしています!お願い、Netflix!


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